対話により成長を引き出す──1on1で、密度の濃いマネジメントを

▲本プロジェクトをリードする、エージェント事業本部 エリア統括部 関西営業部 部長の植村

コロナの影響で、上司と部下のコミュニケーションが取りづらくなった。そんな課題を持つ企業は多いのではないでしょうか。

2020年4月に、リクルートキャリア エージェント事業本部 エリア統括部 関西営業部の部長に異動した植村 友恵は、着任早々「1on1を起点に上司と部下のコミュニケーションを磨き、リクルートキャリア流のモデルを構築してほしい」というミッションを託されました。

リクルートキャリアでは、上司と部下の1on1を古くから取り入れ、どの部署でも定例として実施しています。当たり前のように実施しているからこそ「何を目的に1on1をブラッシュアップするのか」を最初に定義する必要がある、と植村は考えました。そこで、マネジャーに対し1on1での会話内容を徹底的にヒアリング。

すると、1on1での会話の主軸は「メンバーの営業状況」についてが中心であり、KPIの進捗確認やお客様にどう提案していくかなどの営業手法に関する会話が圧倒的に多いことが明らかになりました。それらも非常に重要なことではありますが、はたして1on1での会話がそれらに留まっていてよいものか……。

植村 「2020年はコロナの影響で採用活動を一時的に休止するお客様もいらっしゃいました。個人の営業目標が達成されていれば、その人にとって数字で表れる成長実感がありますが、外部環境が厳しい中で業績に関することがコミュニケーションの主軸となっていては、メンバーのモチベーションが担保しづらくなります。そのため、営業数字以外で成長の尺度を設定する必要がありました」 

また、コロナ禍によりテレワークを実施する中で、上司によるメンバーの状況把握がしづらくなっているという状況も踏まえ、植村は「1on1により、上司とメンバーの対話の質を上げ、対話によりメンバーの成長を引き出す」ことを目的に定め、1on1のブラッシュアップをスタートさせました。

費やす時間は、計600時間!組織長がコミュニケーションの理論を学ぶ

▲プロジェクトメンバーとのオンラインミーティングの様子

上司と部下の対話の質を上げるために、まずはコミュニケーションの理論を学ぶ講座を全5回開催。マネジャー以上の組織長57名全員に受講を促しました。参加者全員が講座の受講に費やす時間は、計約600時間。それだけの時間をかけてでも、コミットすべき内容であると考えていたのです。

第1回の講座では、マネジメントの共通認識をつくるため、「メンバーの成長とは何か」を定義するところから会話を始めました。成長のステップを言語化することで、マネジャーとして何を提供すべきかが明確になる、という考えからです。

植村 「メンバーの成長を植物にたとえ、それぞれの持ち味を“種”とします。メンバーが1歩目を踏み出し、何かに挑戦すると“芽”が出ます。その行動を継続させ、芽がぐんぐん伸びると、“幹”がつくられます。メンバー自身が描いた理想を実現させたら、“花”が咲いたということになります。マネジメントの役割は、これらの環境をつくること。土壌を整え、水やりをし、時には肥料を与えるのが上司の役割です。

具体的には、指示をしていないことに対し、メンバーが何かしらのアクションを起こし、報告や相談をしてきたとき。このシーンにおいてマネジャーがやりがちなのは、アウトプットを見て評価することです。せっかく芽が出たのに、良し悪しで判断した場合、芽が枯れてしまう可能性が高まります」

ここで上司がすべきは、「どうして芽が出たのか」を知ることだ、と植村は続けます。

植村 「『グループの役に立ちたかったんです』『お客様にこんなことを言われたんです』など、芽を出した理由はさまざま。その理由を理解し、尊重した上で『もっとこうしたらいいんじゃないか』というアウトプットへのアドバイスを行えば、芽が成長し、幹へと発展する可能性を高めることができます」

講座では、組織長自身がこれまでどのようなマネジメントを受けてきたかという「被マネジメント体験」を振り返る時間も設けました。

植村 「自分が受けてきたマネジメント経験によって、自身のマネジメントスタイルがつくられています。『徹底的な行動管理で、目標達成に近づけるマネジメント』『仕事にとどまらず、人生全体に寄り添うマネジメント』などさまざまなスタイルがある中で、自分が受けてきたものを振り返り、その傾向を理解することは重要です。それらを知り、理想のマネジメントスタイルを定義し直すことで、メンバーとコミュニケーションを取るときの起点が明確になるんです」

ほかにも、講座では「自分の成長に、プラスの影響を与えた関わりは何か」を深堀りするプログラムも実施しました。

植村 「結果を見ると、お客様や同僚から影響を受けたという割合が高く、上司からの影響は10~20%という低い数値が出ました。この数値から、すべてを上司ひとりで解決する必要はなく、お客様との接点や、同僚とのコミュニケーションの機会をつくる方が、メンバーの成長が促進されるということがわかりました」

理論と実践を繰り返す──チャットの活用で生まれたグループ・ダイナミクス

▲チャットで、自身の学びを共有し、相互にフィードバックを(イメージ)

植村は、講座の開催と並行させて、マネジメントの実践共有のためのチャットグループを部ごとに立ち上げました。各自がマネジメントにおいてトライした内容や結果を共有することで、相互学習を促したのです。

立ち上げた直後、チャットでの投稿頻度や盛り上がりは、部ごとにばらつきが見られました。そこで植村は、部長以上は全チームのチャットルームが見られるように設定を変更。すると、部長が活性化するチームを参考に自身でPDCAを回し始め、マネジャーとの関わり方を変えていったのです。状況がガラリと変わった瞬間でした。

次第にマネジャーも、1on1でうまくいった経験・うまくいかなかった経験を、自身の弱みも含めて率直に開示するようになりました。それが他者の刺激となり、次のPDCAを生み、相互に知恵を出し合って学習するといった、グループ・ダイナミクス(*1)が生まれたのです。

マネジャーからは「メンバーの表情が変わってきて、前よりも本音で話してくれるようになってきた」「今まで何となくやってきたマネジメントを言葉で理解し皆で切磋琢磨できて、本当に良かった」などの声があがっています。

またメンバーからも、マネジャーとの1on1の時間について「以前より、自分の持ち味を活かそうとしてくれる会話が増えた」「より広い視野で自分の意見を聞かれることが増え、考える時間が増えた」など、変化を感じる声があがっています。

植村 「この取り組みで感じた兆しは、まだまだ発展の余地があります。これからも部長・マネジャー全員で、メンバー1人ひとりへの向き合い方を考え続け、磨き合っていきたいです。」

(*1)グループ・ダイナミクスとは、集団において、人の行動や思考は、集団から影響を受け、また、集団に対しても影響を与えるというような集団特性のことを指す。

「マネジメントを楽しむ人を増やしたい」。その広がりは社外へも

▲「マネジメントを楽しむ人を増やしたい」と話す植村

本プログラムに参加したマネジャーが、メンバーへアンケートを取ったところ「定例の時間が1週間で1番楽しみです」「日々の状況についてフラットに耳を傾けていただき、理解してもらっているという感覚がある」といった声があがるようになりました。

植村 「個人的に嬉しかったのは、マネジャーが『マネジメントが楽しくなった』と言っていることです。マネジメントは本来クリエイティブな業務。メンバーの成長をどう生み出していくかを考え実行したり、メンバーと一緒に企んでお客様への価値提供を加速させるなど、おもしろさを体感できるものです。このプロジェクトを通じて、その楽しさを見出してくれているのが嬉しいですね」

一定の結果を収めた本プロジェクト。コロナ禍によりテレワークが広がる中で、社内外から「ノウハウを共有してほしい」と要望をいただくようになりました。すでに説明用資料を作成し、クライアント企業への提案もスタートさせています。

植村 「私は、マネジメントを楽しむ人を増やしたいと思っています。マネジャーが楽しみ、マネジメントの質が上がることによって、メンバーが成長し、お客様への価値提供につながる。つまり、人によって人が変わり、その先で事業が変わるということです。その、最初のきっかけであり重要な部分が、マネジメントを楽しむこと。それを担いたいんです」

自身も「マネジメントがめちゃくちゃ楽しい」と言い切る植村。今後も周りにポジティブな影響を与えていくことでしょう。