SAFeで組織改革──ビジネスアジリティを上げて、新たな事業モデルを!

▲BI本部 佐野 弘幸と推進メンバーの樋澤 康太

TDCソフトは1962年に創業した歴史あるIT企業です。昨今のデジタル変革により、IT業界のビジネス環境は大きく変化し、ソフトウェアの開発サイクルは複雑化かつ短期化しています。継続的に成長を続けるためには、既存のビジネスモデルに依存せず、組織体制や風土を時代に合わせて柔軟に変化させ、新たな事業モデルを追求する必要がありました。

そこで、当社は2019年の中期経営計画において「高付加価値化とモデル変革による、新規分野の売上構成比率を全体の20%へ」という明確な目標を掲げました。そして、ビジネスイノベーション本部(以下、BI本部)を新設し、既存事業とイノベーション事業とが相互作用する体制を整えました。そんなBI本部をリードするのが、デジタルイノベーション&インキュベーション推進室 担当部長の佐野 弘幸です。

佐野 「中期経営計画で掲げた目標の達成に向けて、全社をけん引していくのがBI本部のミッションです。新規事業の立案はもちろんのこと、既存事業とイノベーション事業を相互作用させ、新たな事業モデルを開発する役割も担っています」

組織図とは別に、ビジネステーマやプロジェクトごとのクロスファンクショナル組織を結成。2020年現在、5つのビジネステーマ、18個のプロジェクトに、138名のメンバーが関わっています。

企業のビジネスアジリティ(環境変化に対応して、即時に経営や事業、組織運営を変化させていく機敏性・柔軟性の高い企業能力)を追求するため、組織の考え方のベースには「Scaled Agile Framework® (以下、SAFe)」というフレームワークを採用しました。SAFeとは、ビジネスやソフトウェアの開発手法であるリーン・アジャイルの考え方を、組織論に応用したもの。企業規模でアジャイルを実装する際のワークフローのパターンや行動規範を定義しており、欧米を中心に2万社以上の採用実績があります。

佐野 「組織でSAFeを実践するには、個々人がリーン・アジャイルのマインドセットや行動特性を習得しなければなりません。そのため、社内でSAFe認定コンサルタント資格保持者を育成し、定期的にトレーニングを行っています。2019年12月から、すでに6回トレーニングを開催し、47名が参加しました。今後も月1回以上のペースで計画しています」

ポイントは3つのリズム!SAFeのワークフローで短期間に高品質を実現

▲価値創造型SIサービスにおけるBI本部のビジネステーマ

TDCソフトでは、BI本部が設立される前から、各事業本部ごとに新しい事業モデルの開発を行ってきました。しかし、既存のビジネスが順調に成長してきただけに、新しい事業の優先度を下げてしまいがちで、大きな成果は得られませんでした。その壁を乗り越えるべく、現在金融システム事業本部にて、BI本部と連携しながら金融デジタルビジネスの開発を行っているのが、樋澤 康太です。

樋澤 「金融システムの開発は、当社の中核事業のひとつです。業績が安定しているために、どうしても新規事業へのチャレンジは優先順位が低くなる傾向にありました。

そこで、金融システム事業本部でも、2020年4月に金融デジタルビジネス統括部を新設し、BI 本部や各事業部と連携しながら、横断的に事業開発を進めています。こちらでもSAFeの概念を取り入れています」

SAFeは、ビジネス開発へ向けたプロセスや行動規範など、さまざまなことを定義していますが、特徴的なのはワークフローにおける3つのリズムです。

第一に、毎日30分から1時間の『DSU(デイリー・スタンドアップ・ミーティング)』で、タスクの進捗確認や、メンバーのケア、フォローアップを行います。第二に、2週間ごとに『Iteration(イテレーション)』で組織構成員全員が活動を振り返り、次の2週間に実施することを整理します。最後に、3カ月に一度行う『PI Planning(プログラム・インクリメント計画)』で、すべてのビジネス組織が2日間一堂に会し、経営層も交えてビジネスの現状とビジョンの再認識を行います。組織間の連携を調整しながら、次の3カ月のゴールとプランを決めるのです。

このように、計画、実装、チェック、調整という一連の工程を短い期間にまとめ、何度も反復することで徐々に完成度を上げていくのが、SAFeの手法です。

樋澤 「SAFeの概念を初めて知ったときは、難しい単語が多く、理解が難しいのではと感じました。しかし、トレーニングに参加し実際に始めると、スムーズに取り組めました。リズムが明確に決められていることが役に立っていると思います」

SAFeによるふたつの変化──ポジティブな心理と新規分野の売上率上昇

▲3カ月に一度行うPI Planningの様子

2020年現在、TDCソフトの約1割のメンバーが本取り組みに参加しています。参加前と後の心理的な変化についてアンケートを行ったところ、「自分の仕事にやりがいを感じる」と回答した人が38%増加し、「組織の風通しの良さを感じる」と回答した人も51%増加。会話の多さについては、テレワークにおける非対面の制約がある環境下でも64%増加するなど、大きな成果が見られました。

本取り組みを通して、SAFeに則った働き方を経験したメンバーは、成功体験を自部門へ持ちかえり、新たなプロジェクトの立ち上げをBI本部へ相談したり、自部門の他のメンバーにも活動に参加してもらったりと行動を起こすようになりました。このように、全社的にイノベーション創出のしかけが広がりつつあります。

結果は数値にも表れています。BI本部の設立初年度である2019年度は、新規分野の売上高構成比率が6.8%に拡大しました。

2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、働き方の変革が求められましたが、本取り組みはテレワークを導入した後も、無理なく続けられています。これには、経営層がリーン・アジャイルを理解し、意思決定を現場に移譲していることが影響しています。SI業界の顧客活動で難しいと思われがちなセールスやサポート活動も、現場の判断で2020年4月からいち早くオンラインに切り替え、活動を進化させています。

一方で、顧客依存度の高い事業部では、コロナ禍以前に立てた計画の縮小や変更を迫られるケースが発生しました。しかしそこでも、事業部から本取り組みに参加していた技術者メンバーが、将来に向けた新しい技術の習得支援を行ったり、社内外のオートメーション化事例をセミナーやワークショップを通して伝えたりするなど、新たな兆しが見られています。

2021年度は、新規分野の売上構成比率20%という中期経営計画の目標に向けて、さらに活動のスピードを高めていきます。

SAFeのノウハウをサービスに──自社運用で改善しながら外部展開する

▲本プロジェクトが社内表彰された様子

TDCソフトは自社内でSAFeを取り入れるだけでなく「イノベーションを加速させたい」という顧客に向けて、サービスとして外部への提供も行っています。

佐野 「SAFeは、日本の製造業で開発された『カイゼン』という概念をベースに、理論をまとめプロセスを体系化したフレームワークなので、日本企業にとって非常に馴染みやすく身近なものなんです。

ソフトウェア業界は新技術が次々にリリースされますし、プロジェクト期間が長く、お客様のご要望も多様化しています。そのため、製造業と比較すると、そのような概念が取り入れづらかったのですが、近年では外資系IT企業に加えて、日本のIT企業でも導入が増えています。そこで、私たちは組織運営の中で実践しながらこのフレームワークを改善し、ノウハウとしてより多くのお客様に提供したいと考えています」

2019年に顧客向けのサービスとしてリリースしたところ、その後多数の問い合わせをいただきました。今後も自社運用と外部展開という両輪を回し、スピードを加速させていきます。

佐野 「リーン・アジャイル組織を実践して、課題も見え始めています。歴史のある大きな組織を変えることにコミットしているので、短期で完了するものではなく、継続的なコミュニケーションが必要だと考えています。今後も引き続き新しいテーマを立ち上げ、この取り組みに参加する人を増やし、事業開発を加速させていきたいですね」

TDCソフトが取り組んでいるのは、時代の変化に対応するための、その場しのぎの施策ではありません。まさに企業や組織の抜本的な改革なのです。TDCソフトは、今後もIT業界をリードする存在を目指して挑戦を続けます。