「組織」ではなく「私」を主語にスタートする

▲Purpose Carvingを提案したタムラと小針

2020年7月に親会社・富士通株式会社への合併を控え、社内は不安と期待が入り混じる混沌とした空気に包まれていました。組織がどの方向に向いていくのかわからない──メンバーからそのような不安の声もあがり、マネージャーたちは日々方向性を模索していました。

そんな中、上司から組織のありたい姿について相談を持ちかけられたのが、人事部門にて企業内人材/組織開発に従事した後、昨年よりデザイナーとして働く小針 美紀と、会社員でありながら個人としてもラクガキコーチやグラフィックカタリストとして活動し、その延長線上で自ら組織づくりの実践を行ってきたタムラ カイでした。

小針 「『組織のありたい姿を描きたいんだよね。どうしたらいいと思う?』と上司から相談を受けました。数年前にも組織のありたい姿を定義したようですが、その言葉が職場で語られていることを私は聞いたことがありません。

さらに今回は合併という大きな変化が待っている。ですから、組織のありたい姿を描いても、絵に描いた餅になってしまう可能性が大きいと思ったんです。そこで、今回は組織ではなく、マネージャー一人ひとりを主語にして、どんな経験を歩んできて、なにが好きで・大切で、どんなことをしてみたいと思っているのかを聴くことから始めるのはどうだろうか?と提案しました。

思い返せば、私自身も自分の上司のことをよく知らなかったので、とても興味がありました」

タムラ 「私が個人での活動をはじめた理由の1つに、これまでの『会社』的なやり方に限界を感じていたということがありました。その中で小針さんとともに社外で『グラフィックカタリスト・ビオトープ』というチームを作ったんです。ここでの実践と経験を通して、それぞれ違う想いを持った個人が集まった組織ではひとつのありたい姿を決めるよりも、個人の想いを尊重し合えている状態を作ることが組織のあり方としていいのではないかと思っていました」

ふたりが上司に提案すると「とりあえずやってみよう」とすぐに承認され、プロジェクトがスタートしました。

反転1on1による、マネージャー向けPurpose Carving

▲タムラがインタビュアーとなり、Purpose Carvingを進めていきます

小針とタムラがそれぞれの活動で培ってきた知識や経験を盛り込み創り出したのが、Purpose Carving(パーパスカーヴィング)というプログラム。その人のストーリーを様々な視点から聴き、“Purpose(パーパス)”を彫りだして(Carving)言葉にしていきます。

タムラ 「私の父は彫刻家なのですが、小さい頃に父からミケランジェロの言葉を教えてもらいました。それは『彫刻家は大理石の中の天使を自由にする』というもの。パーパスもまさにそれだな、と。新しく創りだすというよりも、その人が既に持っているものを見出し、彫りおこしていくものと解釈しています」

マネージャー向けPurpose Carvingにおける特徴的な点は、「メンバーも参加できる公開型」であるということ。いうなれば、1on1の反転バージョンです。

小針 「通常の1on1では『マネージャーがメンバーに』『個室の会議室で』実施されることが多く、話した内容も公開されることはありません。しかし、今回は『メンバーがマネージャーに』『オンラインの公開型』と、1on1の概念を反転させて応用したことで、『メンバーがマネージャーの悩みも、喜びも、みんなで聴く』という体験をつくり出しました。オンラインなので、参加者にはチャットで感じたことや質問などを書いてもらい、双方向のコミュニケーションとなるよう設計しました」

このプログラムには部内のマネージャー6名全員が参加しました。Pre-Dialogue Session(事前セッション)、Personal Purpose Carving(個人セッション)、Post Dialogue Session(事後セッション)と大きく3つの構成に分かれており、事前・事後セッションはマネージャー6名全員で、個人セッションはマネージャー一人ひとりが主役となって行います。

個人のPersonal Purpose Carvingでは、ライフラインチャートを用いて、過去と現在についてヒアリングを行ったり、事前に準備した価値観リストから自分が大切にしているものを選んでもらったりと、さまざまな角度からその人の人となりに触れていきます。

その間、デザイナーの松本がグラフィックレコーディングを行うことで対話を可視化。グラフィックレコーディングを見ながら適宜振り返ることで、対話をより深めていきます。最後には参加者から、インタビューの中で感じたことや、その人のパーパスにつながりそうな言葉を共有のエクセルファイルに記載してもらい、マネージャーへの言葉のギフトとして贈ります。

小針 「この言葉のギフトは特に大切にしています。普段、マネージャーからメンバーへフィードバックすることはあっても、メンバーからマネージャーにメッセージを伝えたり、言葉を贈ったりする機会は少ないのが現状かな、と。でも、メンバーもマネージャーに伝えたいことはあるはずで、それを表出できるようなしくみをデザインすることが大切だと考えました」

Purpose Carvingが生んだ関係性の変容

▲グラフィックレコーディングを用いて、対話を可視化します

自分がメンバーたちを受け止める存在でなければいけない、しっかりしていなければいけない──今回のPurpose Carvingはそう感じているマネージャーたちにとって、メンバーたちにありのままの気持ちを伝えられる場でもありました。

小針 「私が特に印象的だったのは、あるマネージャーがこのプログラムの3カ月後に『変化を楽しむと言ったけれど、変化って怖いもんなんだなと気づいた』と話してくれたことです。語りえないことが語られるとき、次の一歩をやっと始められる。メンバーのフォロワーシップも試されますが、マネージャーとメンバーの関係性の変容が起きはじめているなと感じました」

対話から個人のパーパスを彫りだし、言葉として表現したマネージャーたち。その後の変化について多くのマネージャーが、「漠然とした考えが可視化され、行動の軸になり、自分の選択に自信をもてるようになった」といいます。

タムラ 「今回のPurpose Carvingを企画・実施して、マネージャーから『よかった』という感想をもらえたことはもちろん、もっとうれしかったのが見ていたメンバーから『自分自身のパーパスについて考える機会になった』という声をもらったことです。この連鎖が、実は私たちが一番見たかったものだったんです」

ともに働く仲間と互いのパーパスを彫りだし、関係性を紡いでいく

▲はじめは粗くても、まずは削ってみる。繰り返して、磨いて、自分自身のパーパスを言葉にする

2020年現在、小針とタムラは富士通全社変革プロジェクトに参画しています。その中でも「一人ひとりのパーパスと、富士通のパーパスとの重なり合いが、変革への原動力となる」と考えられ、Purpose Carvingはより広く展開することになりました。

小針 「日本ではジョブ型雇用が注目を集めていますが、その中では”私は何をやりたいのか”、”自分自身はこの社会/世界をどうよりよくしていきたいのか”、”それは私自身のどういった経験や価値観からきているのか”を、伝えていく瞬間が増えると思います。そうなると一人ひとりのパーパスは、働く上でより大きな意味を持つようになると考えています」

タムラ 「私とあなたが違う存在であるように、会社のパーパスと個人のパーパスがまったく同じになることはないはず。自分のパーパスを言葉にして認識できると、他者や会社のパーパスと自分のパーパスの『合力』が見えてきます。すでに用意された組織に入るから関係性が生まれるのではなく、それぞれのパーパスから関係性をつくって組織になっていくということがこれから必要になっていくと考えています。

夢物語に聞こえるかもしれませんが、まずは手始めに13万人の富士通グループ全社員が自分のパーパスを語り合えたらおもしろいんじゃないかと思っています。なんたって私のパーパスが『世界の創造性のレベルを1つあげる』というものなので、それすら第一歩です(笑)」

ともに働く仲間と互いのパーパスを彫りだし、関係性を紡ぎあえるようになったとき、富士通はどのような企業になっているのか?一人ひとりのパーパスを起点とした、組織マネジメントを模索する小針とタムラの挑戦は、これからも続いていきます。