前年比売上95%減──それでも日本全体の利益を考える“社会”のリーダー

▲アソビュー株式会社代表取締役(CEO)の山野 智久

「外出自粛」──あたりまえが奪われた2020年春。日本最大級の遊び予約サイトを運営するアソビューは、その影響のど真ん中にいました。

代表の山野は当時をこう振り返ります。 

山野 「おでかけや旅行を推進する事業を展開しているので、緊急事態宣言が発令されて外出自粛となり、『ヤバい……』という心情でしたね」

同業界の経営者からも悲痛の声があがりはじめ、複数の経営者仲間からは“解雇”の選択肢を聞くようになっていきました。もちろん例に漏れず、当社が運営するサービスの売上も、昨年対比95%減と大きな打撃を受けていました。

加えてスタートアップ・ベンチャー企業の当社は、エクイティファイナンスを成長資金として事業を運営していましたが、コロナ禍で資金調達市場が冷え込み、ベンチャーキャピタルとの話はすべて白紙に。このままだと資金ショートまでおよそ8カ月という状況まで追い込まれ、売上の獲得と販管費の削減が急務な課題となっていました。

そんな状況で、山野の頭に浮かんでいたのは会社ではなく、“社会のリーダー”としての責務だったのです。

山野 「経営者の意思決定として、販管費削減にともなう雇用解雇の選択は否定できません。ただ、同時多発的に日本社会全体で失業率が上がると、社会不安を醸成する一端になる可能性が高いと思っていました。

僕自身、経営者は会社のリーダーであると同時に、社会のリーダーとしての役割もあると自覚していたんです。なので、社会全体の利益も考える必要があり、できる限り雇用維持を実現する責務があると感じていました」

自社の有事は他社にとって対岸の火事──「在籍出向」という新しいカタチ

▲履歴書・職務経歴書の代わりとなる簡易レジュメ(参考)

一刻も早い意思決定と行動が必要とされる中、ある経営者仲間との会話で、山野の過去の経験たちが一気に線としてつながり、カタチになっていくことに。

山野 「災害時に、事業がマイナスの影響を受ける会社もあれば、逆に追い風となっている会社もありますよね。それは売上だけでなく雇用の面でも同じで、一時的に雇用を維持できない企業と、災害時だからこそ、今すぐにでも雇用を必要とする企業があります。

そんなことを経営者仲間と話していたとき、『アソビューの社員は優秀だからいろんな会社で活躍できるよね』と言われたんです。そこで、『じゃあ受け入れてくれる?』って聞いたら『やりたい!』と」

アソビューでは、もともと自治体職員の出向を受け入れていたため、「在籍出向」という制度活用が身近にありました。

山野 「当社でもそういうことができたらいいなと、前から考えていたんです。仲間の言葉のおかげで、当社の社員を受け入れたいと思ってくれる会社があるんだ!と気づきました」

早速、人材を一時的に出向させて、人件費削減と従業員の雇用維持を両立できる取り組みを実施することに。着思から1週間もかからず、基本的な制度やルールを作成していきました。

ここでも山野の経験が生きています。

山野 「創業期に有料職業紹介業をやっていたことがあって、その経験から雇用に関する論点がわかっていました。なので、しくみをつくっていくのは、僕にとって難しいことではなかったんです。まさしく、“経験という点が線になった”感覚でしたね」

こうして経験をもとに「在籍出向」がカタチとなっていきました。

難局を乗り越えもう一度冒険に出るために、今できることを

▲渦中に全社に送った山野の想い

しくみを構築したあとは、全社員にこの取り組みを伝え、人員配置をしていかないといけません。

もともと当社では、会社の経営戦略にのっとって組織があり、人員の配置があることや、本人が実現したい“Will”と配属の合致度にはこだわっていることを、普段から伝えていました。

山野 「今回の組織戦略のポイントは非常にシンプルです。“営業利益額を最大化させること”と、“販管費であるコストを最小化すること”が有事の際の目的ですから。

営業利益の獲得及び納品が得意なメンバーと、最小コストでサービスを運営するメンバーを社内に配置し、それ以外を社外に配置する──それは僕が全部決める、と伝えました。

あくまで戦略上の配置の話であって、会社として大切・大切じゃないの話ではないことや、難局を乗り越えたときには、全員が再集合してもう一度冒険に出るため、ちゃんと理解して実行してほしいことを、何度も話しましたね」

そして、当社の社員およそ2割にあたる24名が出向しました。その結果、今では出向した社員からも受け入れ側の経営者からも、うれしい反響をもらっています。

山野 「みんな活躍しているようです。受け入れてくれた経営者からも、喜びの声をいただいています。

送り出すときには、この機会に圧倒的に成長してきてほしいと伝えました。『成長するためにはチャレンジが必要なんで、ムリだと思ったことも手を挙げてやってきてほしい』と。『もしそれで迷惑をかけたら僕が謝まりに行くし、雇用の契約解除になっても、うちにちゃんと居場所があるんだからチャレンジしてね』って言いました。

みんながそれに応えようと、レバレッジをかけてチャレンジしてくれているので、いつにも増して成果が最大化し、受け入れ側の高評価につながっているんだと思います」

かねてからの構想「社会人留学制度」を実現し、一般社団法人立ち上げへ

▲新卒入社2年目で在籍出向した南部。「成長ノート」からも楽しんで活躍している様子が伺えます

最近では、月に1回程度、出向メンバーがどんな経験や活躍をしているのかを全社発信する「成長ノート」を見るのが、山野の楽しみになっています。

山野 「みんな今までとは違う環境の中で、自分の業務スキルに負荷をかけているので、筋トレと一緒で負荷がかかっている分どんどん成長するんですよね。それを本人たちも実感している内容がかなり多いので、『嬉しいなぁ』と思いながら読んでいます。

もちろん、楽しんでいるだけでなく、課題や悩みをもっている社員もいますが、『戻ってきたかったらいつでも戻ってきなさい』と言っても誰も戻ってこない様子をみると、葛藤しながらも基本的には前に向かっているんだと認識しています。

今後も現状にプラスして、当社とミッションやカルチャーが近く、かつ、我々とはフェーズが違う会社のネットワークをもう少し広げ継続発展させていきたいです」

この一連の流れで、山野はかねてからの構想が実現していることに気がつきました。

山野 「以前から、雇用の流動化も含めて課題意識をもっていたんです。もっとみんながカジュアルにいろんな経験を積んで、自分らしく生きている状態をどうやったらつくれるかなって。自社とはフェーズが違う他社で、経験を積める枠組みができないか、前々から考えていました。

今回の『在籍出向』では、従業員の成長や雇用の流動化の機会をつくることができました。そこで初めて、これは実現させたいと思っていた『社会人留学制度』につながる、すごくポジティブな機会なんだと気づいたんです」

優秀な人材が1年間他社でチャレンジし、成長した成果を持って帰ってきてもらい、自社の成長につなげる「社会人留学制度」。いつか実現させたいと思っていたこの構想は、ピンチで生まれた「在籍出向」と重なっていたのです。

こうして2020年5月には一般社団法人の立ち上げに参画し、「災害時雇用維持シェアリングネットワーク」として社員を出向させたい企業26社と、受け入れたい企業85社が集まりました。一般社団法人では、在籍出向によって総勢45名の雇用維持を実現しています。

有事から始まった「在籍出向」は、新たな展開を迎えています。「社会人留学制度」「災害時雇用維持シェアリングネットワーク」として、今後も発展を続けていきます。