研修で気づいた“現場の声を聞く大切さ”。初めの一歩はボランティアから

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▲一般社団法人KAKEHASHIを立ち上げた、横須賀市役所職員のメンバー

全国には町内活動や地域ボランティアなど、街のために任意のグループで活動を行っている公務員がいます。

横須賀市役所の高橋 正和、山中 靖、松田 こずえは街のためにできることを広げたいと、公務員業務のかたわら、横須賀市役所初の副業を行い、法人化させました。

こうした取り組みの始まりは、2018年に行われた職員向けの研修でした。

新たな試みとして、市役所の閉塞感を打破するために行われた半年間の研修には、若手から中堅職員まで約30名が参加。街へ出て市民の声を聞く課外ワークショップを中心に、メディア関係者やWeb会社の経営者、総務省官僚など、さまざまな業界の講師による講義も行われました。

高橋 「講師の方には、『とにかく市民や事業者の方の声を聞いて、課題を見つけ、何を行動するか考えなさい』と言われました。市役所の業務は、基本的に数年間程度の決められた計画に沿って行います。

そのため、現場に出向いて声を聞き、随時意見を取り入れることはこれまでにはありませんでした。しかし、実際に現場に足を運んでみると、今まで自分たちが行ってきた取り組みと市民の想いがずれていることに気づいたんです」

研修では、私たち職員の考え方の根本が覆されるような内容が数多くありました。

高橋 「講義の中で、『法律に縛られてできないことがあるのならば、法律を変えるための働きかけをするくらいの想いでやりなさい』と講師の方が仰っていたのですが、法律の中で業務を行ってきた私たちにとって、その言葉は固定概念を覆された想いでした」

現場に足を運んで声を聞くことの大切さを痛感した高橋は、半年間の研修終了後、仲間たちと共に研修の継続を市に提案しました。しかし、市側の回答は「NO」。

高橋 「それならば自分たちの業務外の時間を使って活動を行おうと思い、再度仲間に声をかけました。そうして、最終的には、6名の市役所内のメンバーで活動を始めることになったんです。最初は法人化する予定も全くなく、とにかくこの活動が街のためになるという一心で、ボランティアから始めました」

公務員の枠を超えて奔走。法人化の前に立ちはだかるのは、ふたつの大きな壁

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▲実際に農家へ足を運び、収穫作業の手伝いをします

2019年の1年間、本業外の時間や休日を利用し、農業や漁業の現場視察から、収穫の手伝い、百貨店のバイヤーへのヒアリング、加工工場の見学、民間事業者との勉強会、各所で行われる講演会までさまざまな現場に足を運び続けました。

高橋 「現場へ足を運ぶとともに、農業従事者の方や子育てをしているママ、市内で事業をされている方などさまざまな立場や職種の方と意見交換をする勉強会を開催してきました。

縦割り組織である市役所では、農業のことは担当部署でしかできないなどの制約があり、通常では多種多様な方を同時に集めて勉強会を行うことは難しいです。ですから、この勉強会は私たちの立ち位置だからこそできた活動だと思っています」

しかし、活動が活発になるにつれ、移動費などの自己負担が増えるなど、自主活動の限界を感じるようになりました。また、ボランティアであるが故に、活動の中で渡せる名刺がないことも大きな悩みでした。

高橋 「何か活動を続けられる方法を考えなければと思っていた時に、ある方から『法人化してみては?』とアドバイスをいただいたんです。公務員は副業できないという先入観があったので、法人化は今まで考えたこともありませんでした」

調べてみると、公務員が副業し、さらに法人化するにはふたつの壁がありました。ひとつは、市役所からの許可、そしてもうひとつは、法人設立のための活動資金や定款づくりです。

高橋 「どちらの課題もハードルの高い壁でした。しかし、副業そして活動の法人化を実現できたら公務員の働き方が大きく変わるきっかけになると思ったんです」

そんな大きな壁に直面した高橋たちの背中を後押ししたのは、これまでの活動から生まれたつながりでした。

これまでの地道な活動が道を切り開く。つながりに支えられ、初の法人設立へ

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▲百貨店の直売イベントでは、地元の農家の野菜を販売しました

ひとつ目の壁、市役所からの許可の課題については市長の承認があれば、公務員でも副業しても良いことが分かりました。

高橋 「法人設立を決意した3名で、市長の元へ承認をもらいに行ったのですが、私たちの想いを理解してくださり、ふたつ返事で許可を得ることができました。

それもこの1年間の活動の実績があってこそでした。その後の人事課との調整では、前例のないことであることから二カ月ほど時間を要しましたが、無事、横須賀市役所初の職員による法人“一般社団法人KAKEHASHI”を設立することができました」

一方で、もうひとつの壁、法人設立のための活動資金や定款づくりの課題については、市長へ直談判に行く直前まで解決していませんでした。しかし、そこで救いの手を差し伸べてくれたのは、1年間地道に開いてきた勉強会の参加者でした。

高橋 「私たちの覚悟と想いを理解してくださり、勉強会に参加してくださっていた経営者の方が事業資金を寄付してくださいました。また同じように、設立に必要な書類などの準備も、勉強会の参加者の方が社団法人設立経験のある方をご紹介してくださり、ご指導いただきました。

勉強会を始めた当初は、私たちが本業ではなくボランティアという立場であることから、取り組みに対する真剣な想いが参加者へ伝わらず、ぎくしゃくすることもありました。

しかし、回を重ねるごとにお互いの本音が言い合えるようになり、最終的にこうして手を差し伸べてくださるほどの信頼関係が結べたことは非常に幸せだなと感じています」

そんな物語を経て設立したKAKEHASHIの名前には、こんな想いが込められていました。

高橋 「KAKEHASHIには、熱い想いを持った人たちをつなげる架け橋となり、その想いを実現させ、世の中をもっと良くしたいという意味を込めています。人や街を繋ぐ架け橋となれるよう、私たちの活動価値をより高めていきたいと思っています」

活動を通じて、地域だけでなく全国の公務員をも導くKAKEHASHIに

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▲一般社団法人KAKEHASHIで販売する試作品作りも自分たちの手で行います

2020年現在、一般社団法人KAKEHASHIでは、地元の農家の作物を中心に使ったピュレの開発・販売、地元の花屋と連携した自宅でできる生け花セットの定期販売、データを可視化し未来を創る企業と連携した横須賀市内等の企業支援の三事業を中心に展開しています。

高橋 「今後は事業を通して売上を上げ、教育や福祉、人材育成を支援し、横須賀市の経済を少しでも回すことが会社としての目標です」

一般社団法人KAKEHASHIの設立は、横須賀市役所、そして全国の公務員に働き方の選択肢を広げました。

高橋 「横須賀市役所の人事課からは『あなたたちの活動が、今後の横須賀市役所の副業におけるルールづくりの礎となりますよ』と言われており、市役所内で次に続く人たちのレールを引くことができたと感じています。

公務員が地元のためにできる働き方のひとつとして、副業という選択肢がより身近になったらいいなと思っています。本業と副業、それぞれで得られる経験や知識を組み合わせて生かせれば、より地元に貢献できるとこの働き方を通して感じました」

また、活動を行う中で、本業では出会わなかったであろう人々との出会いが多くありました。共同理事の山中は、彼らとの関わりを通して、想いを持って活動することが結果的に世の中のためになることを実感しました。

山中 「副業を通して、たくさんの熱い想いを持って活動する人々に出会うことができました。そういった方々と関わる中で、地域のために何かしたいというビジョンや目標こそが世の中のためになる活動を生むのだと教えていただきました。

私たちの活動も街を良くしたいという想いが原点にあります。ビジョンや想いが世の中のためになることを、今度は私たちの活動を通して体現していきたいと思っています」

一般企業よりも副業が難しい中で、地元を愛するまっすぐな想いが公務員の働き方の概念をも変えました。街のために、自らの手で働き方を模索し、道を切り開いた彼らの挑戦はこれからも続きます。