「生活の中に仕事も育児もある生き方」を実現したい

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▲キャリア・マム代表取締役の堤 香苗

コワーキングCoCoプレイスを立ち上げた根底には、保育園か幼稚園に子どもを預けて働きに出ることが一般的な現代社会において、「子どもと同じ空間で仕事をするという新しい働き方」の選択肢を世の中に広めたいという、堤の熱い想いがありました。

堤 「一般的な保育園は、子ども優先で運営されているところが多いですが、私たちは、お母さんお父さんの要望を最大限聞いた上で柔軟に運営しています。加えて、子どもたちに働く大人の姿をそばで見てもらいたい。

お金は、勝手に出てくるものではなく、お母さんお父さんが一生懸命働いた対価なのだということを、小さいころから肌で感じてもらいたいんです」

コワーキングCoCoプレイスには、保育室が併設され、児童ふたりに対して保育士ひとりが対応し、一人ひとりに配慮したきめ細やかな保育の場を提供しています。

堤 「親が子どもを預けて働くときに、万が一のことがあっては絶対にいけません。ですから、安全に配慮することはもちろんのこと、子どもの想像力をはぐくむおもちゃを選ぶなど、工夫して運営しています。

保育園は、お母さんが仕事をするために子どもが我慢する場所ではなく、子どもたちにとっても楽しい空間であることが大切だと思うからです」

実際、他の保育園では行くのを嫌がっていた子どもが、「ここなら毎日行きたいと言ってくれる」という声をたくさんいただいています。

堤 「毎月保育士が勉強会に参加し、そこで学んだことを現場で生かしてくれています。保育士たちは、子どもたち全員をちゃんと小学校に渡すのだという強い覚悟を持って、日々真剣に子どもたちと関わっているんです」

ひとりで抱え込んでいる母親を助けたい。地域で支えあうしくみを目指して

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▲根底にあるのは自分の住む地域で働ける世の中にしたいという想い

コワーキングCoCoプレイスを開設した根底には、堤がキャリア・マムを立ち上げたときの想いがあります。

20代にテレビのフリーアナウンサーとして働いていた堤は、当時大変ショックなニュースを目の当たりにします。

それは「子どもがマンションから飛び降りて自殺した」というものでした。

堤 「そのニュースを見たときにこう思いました。『なんで、お友達や周りの人たちが、この子を止めてあげられなかったんだろう』って」

そのことが心に引っかかったまま、堤自身が母親になったとき、あの痛ましい事件が起きた背景をうかがわせる出来事に遭遇しました。

堤が、子どもと一緒に地元の公園に遊びに出かけたときのこと。母親たちと話をしていると、向こうから、障がいのある子どもと母親が近づいてきました。

堤 「すると、それまでは和気あいあいと話していた母親たちが、急によそよそしくなり、子どもをつれて蜘蛛の子をちらすようにその場を立ち去ってしまったんです。母親たちの行動にショックを受けたと同時に、とっさに何もできなかった自分にも歯がゆさを感じました」

そして半年後、堤がたまたま夜にその公園に足を運んだとき、またその親子と偶然再会したのです。

堤 「思わず声をかけるとその母親はこんな風に話してくれました。『地元の公園に出かけると、みんな逃げていく。いつも同じことが起きる。だからこうして夜誰もいない公園に来て遊ばせているんです』と」

そのとき堤は、昔目にした「子どもの自殺」のニュースのことをハッと思い出しました。

堤 「ここに、すべてが詰まっていると感じました。母親は、この苦しさを誰にも相談できず、ひとりで抱え込んで人目を避けるようになった。そんな母親の姿を見た子どもは次第に、自分の未来の可能性を諦めてしまうことになる。

こうした子ども時代の経験が、あのような痛ましい事件を引き起こす。この状況を変えたいという想いが、キャリア・マム設立につながりました」

堤は言います。母親が自分の気持ちを口に出せずに我慢したり、逆に他者を攻撃したりしてしまうのは、自分に自信が持てないからだと。

堤 「子どもを産んで母親になると、バリバリ働き続けることをわがままだと言われたり、保育園に預けられた子どもが可哀想だと言われたりすることも少なくありません。
そんな言葉に疲れた母親たちは、仕事をやめ家庭に入り、自分をなくして生きていくことになる。

そうじゃなくて、自分が得意なことを、自宅や自宅の近くで、チームで支え合いながらやってみた先に少しでもお金がもらえるようになれば、母親たちの自信につながるのではないか。そうすれば、母親たちも変われるんじゃないかと思いました」

新しい価値観を知ってもらい、浸透させていくことの難しさ

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▲キッズデザイン賞受賞の様子

そこで堤がまず始めたのは、企業からデータ入力の仕事を受託し、それを会員の母親たちが引き受けるものでした。

堤 「当時はネットもなく、ワープロの時代。自分の車にフロッピーディスクや資料を積みこみ、母親たちの家をまわって『明日までにやっておいてね』と伝え、『堤さん、できたよ!』と連絡があれば、夜中に取りに行く。そこから始まりました」

そして、会員は3カ月で瞬く間に1500人へと増え、その後は10万人を超え、「働く人が、自分の住む地域でもっと働ける世の中にしたい」という想いが、コワーキングCoCoプレイスの立ち上げへとつながっていったのです。

とはいえ、コワーキングを始めても、最初はなかなか受け入れられず社内からも反発の声が多く上がりました。

堤 「どんな商品やサービスであっても、世の中にない価値を生み出し、浸透させていくのは大変なことです。石の上にも3年と言いますが、まさにその言葉通りだと思いますね」

最初のころは、希望者を募り説明会や見学会を開催しても、申し込みが少ない日々が続きました。そこで、初年度は100回を超えるイベントを開催したり、チラシを配布するなど、地道な活動を続けた結果、徐々に問い合わせや取材が増え、キッズデザイン賞を受賞するまでに。

これがきっかけとなり、行政などの見学も増え、認知がさらに広がっていきます。

堤 「2018年に開業し今年で3年目になりますが、ようやく少しずつ形になってきましたね。朝、お母さん方が『昨日子どもが泣いて大変だったよ』といった世間話から『最近のこのツール知ってる?便利だよ』といった仕事の話まで、自然と交流をはかる光景が見られるようになりました。

そしてお互いの家庭のことや仕事のことがわかってきた先に、今後仕事でコラボレーションをする機会が生まれ、さらに輪が広がっていくと思っています」

子どものそばで働くなんて無理だと諦めている、働くお母さんやお父さんの背中を押せる存在になりたい──。

その信念を胸に、堤はこう考えます。

堤 「時代が進めば、いつかこの働き方が世の中に受け入れられると信じています。そのためにも、この場をしっかり継続しなければいけないという責任感を持って、日々取り組んでいます」

育児をする人も、介護をする人も、自分が住む地域で働ける世の中へ

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▲将来的にフランチャイズ化を目指しています

少しずつ形になり始めたとはいえ、まだまだここからがスタートだと堤は言います。

堤 「今後はフランチャイズという形で、日本全国に、求められるならアジアにも、このコワーキンングCoCoプレイスを広げていきたいです。今は保育室付きのコワーキングスペースですが、デイケアであってもいいし、障害者保育施設でもいい。みんなが、自分が住んでいる地域で働けるしくみをつくっていきたいんです」

「地域のコワーキンングスペースで子どものそばで働く生き方っていいね、おもしろそうだね」という人たちが、ひとりでも増えてくれるといいなという想いで、日々地道に活動を続ける堤。

堤は続けてこう話します。

堤 「人生は一度きり。自分の生き方を諦めたり、こうだと決めつけたりしなくてもいい。人の数だけ生き方、働き方があるんだから、私たちはコワーキングの場を通じてそっと背中を押せる存在であり続けたいと思っています」

生活の中に、仕事や育児や介護のある生き方が、当たり前のように受け入れられる世の中を目指して、堤の挑戦は続きます。