ハードウェア開発にソフトウェア開発のノウハウを

▲アンカー・ジャパン代表取締役の井戸義経

日本法人を立ち上げさせてほしい──Ankerグループの創業者に井戸がそう直談判したのは、2012年の夏のこと。

大学卒業後10年以上、投資銀行と投資ファンドで企業のM&Aや資金調達、成長支援に携わってきた井戸は、Ankerがいずれハードウェア業界にイノベーションを起こす可能性を強く感じていました。

井戸 「創業者のスティーブン・ヤンは、Google出身のエンジニアです。しかもGoogleの事業の中核をなす検索エンジンのアルゴリズムを作るプログラマーでした。そんな彼がなぜハードウェアを作るようになったのかという疑問が、Ankerに興味を持ったきっかけでもあり、強い成長性を秘めていると思ったポイントでもあります」

Ankerグループの製品開発には、従来のハードウェア開発とは一線を画し、ソフトウェア開発のような考え方が根底に流れています。

井戸 「従来のメーカーというのは、重層的に発展した流通チャネルを通じて製品を消費者へ届けてきました。たとえばメーカーからメーカー系の販社へ、その販社から商社に製品が流れて、商社から小売店へ。

そして小売店を通じてお客様が製品を手に取る。それが普通だった。でも『それ以外に選択肢はないのだろうか?』とスティーブンが疑問を持ったところからAnkerグループの歴史は始まります」

重層的な流通チャネルは、消費者からのフィードバックを相対的に得難くします。そのため従来のメーカーは多くの変数を勘案し、複雑な消費者ニーズを読み解きながら製品開発を行ってきました。

一方Ankerは、Amazonを含めたeコマースを主な販売チャネルとして活用することで、製品をダイレクトにお客様へ届け、お客様からのフィードバックを収集・分析し、製品の改善や開発に生かすことを徹底したのです。

井戸 「製品に対するフィードバックを分析し、深く理解して迅速に改善を行い、次の世代の製品開発につなげていく。お客様の声を起点にした、この情報のループこそがインターネット時代におけるメーカーの競争力のコアとなる部分だとスティーブンは理解していました。

そしてそのサイクルを非常に速く回すことで、ソフトウェアでいうアジャイル開発のような手法をモノづくりへ擬似的に取り入れ、強い製品を継続的に生み出しているんです」

アンカー・ジャパンの成長を支えたスピード重視の文化

▲Ankerグループの本社Anker Innovations

そうしたAnkerグループのグランドデザインをもとに日本市場の開拓を担った井戸。事業を開始した2013年当時に真っ先に目指したのは、「ここでは絶対に負けない」という領域の確立でした。ブランドの知名度も信頼もない状況で根幹となる部分がなければ、長期的に大きな成長を果たすことは不可能だと考えたからです。

アンカー・ジャパンにとってそれは、Amazonという巨大なECプラットフォームにおいて、高い成長性を秘めたモバイルバッテリーというカテゴリでNo.1のポジションを獲得すること、そして製品の品質やカスタマーサポートの質も含め、期待を裏切らないブランドであるというユーザーの信頼を醸成することでした。

Ankerグループは米国や欧州の市場で先んじて事業展開をしていたので、Amazonで製品を効率的に売るための社内体制は構築されつつありました。

しかし、日本において長期的に事業を成長させていくためには、初期から強いマーケティングやセールス、カスタマーサポートチームを置き、正しいユーザー理解に基づいて立てた戦略と緻密なオペレーションを実行していく必要があると考えました。

井戸 「Amazonというプラットフォームでの展開は、米国・欧州・日本と地域が違ってもロジックに似通った部分は多いです。しかし最大の成果を得るためには、現地に根ざしたチームが、各市場に最適化された販売・マーケティング戦略を立案し、迅速に実行していかなければなりません」

「またカスタマーサポートに関しては、昨今外注されている企業も少なくありません。しかし、私たちの製品開発の根幹はお客様からのフィードバックであり、カスタマーサポートの役割は個別に頂いたお客様の不満を解決することだけではありません。

不満の背景にある直接的、間接的な原因は何か、なぜお客様がそれを不満に思ったのかを紐解き、製品の設計や製造工程を含めて会社全体でどう改善が図れるのかを仮設だて、本社の開発・品質管理チームへ正しい情報とアクショナブルな提案を提供することも日本チームの重要なミッションでした」

こうした現地重視の方針が、日本進出の初年度から急速に売上を立てることにつながります。そしてこのスピーディーかつ柔軟性の高い組織作りを支えたのは、Ankerグループならではの企業文化でした。

井戸 「たとえば、Ankerグループには稟議書のようなものを上げて本国の決裁を待つといった文化はありません。それは、市場の変化の速さをよく理解しているからこそ。ライバル企業が進出してくるといったことも日常茶飯事です。

今日の販売量を失ってしまえば、それは永遠に取り戻せない。明日にはまた別の勝負があるからです。そうした変化を乗りこなして事業を最も成長させるために、日本チームには大きな権限と責任が与えられているのです」

アンカー・ジャパンは日本のマーケットに対する戦略を独自に策定、実行してきました。それはわずか7年ほどで、日本国内の売上高を130億円超までに伸ばした実績と信頼の上に成り立つものでもあります。

合理的で全体最適な視野を持ってアンラーニングできる人財

アンカー・ジャパンの文化や環境は働く側にとっても魅力的なものです。2013年の日本法人設立から弛むことなく成長を続け、130億円を超える事業規模まで成長するに伴って、所属する各メンバーにも、新しい領域にチャレンジする機会が拡がっています。

外資系コンサルティングファームやメーカーなどで経験を積んだメンバーたちが、事業を自らの手で作り上げたいという意欲を持って次々と集っています。

井戸 「私たちはECからリテールと、お客様と幅広い接点を段階的に作ってきました。次々と顧客ニーズに適った製品を市場に投入できているため、自分が取った行動が売上やブランドの認知度・ロイヤルティ、お客様からの感謝の声といった形ですぐに跳ね返ってくる。

アンカー・ジャパンは売上規模に比して組織が小さく、一人ひとりの仕事が世の中に大きなインパクトを生む可能性を秘めています」

こうした環境で活躍するアンカー・ジャパンの人材に共通して挙げられる特徴は、状況に応じて自らの経験や知見を柔軟に最適化(アンラーニング)できる人たち。Ankerグループが持つ「Rationalism(合理的に考えよう)」というバリューにも通じています。

井戸 「過去の経験は自分の財産として持ちつつも、新しい環境・変わりゆく環境のなかで何をやったら一番インパクトが出せるのかと逆算で考え、ゼロベースで自分自身を作り変えるくらいの成長をしようというマインドを持った人が多いと思います。目的に対して合理的に考え、過去の常識にとらわれずベストな道を選び取っていく勇気が大切なんです」

「Empowering Smarter Lives」を追い求めて

▲2020年7月に新オフィスへ移転。成長に伴い、環境の整備も進んでいます

創業以来、Ankerグループ全体での世界累計販売台数は約2億個にまで積み上がり、認知度は年を追うごとに高まってきました。当初モバイルバッテリーなどのチャージング関連製品のみだった製品カテゴリもオーディオやロボット掃除機を含むスマート家電、スマートプロジェクターなど、より高度で先進的な領域へと広がっています。

そして2020年8月、Ankerグループの本社Anker Innovationsは、中国の深圳証券取引所の新興企業向け市場「創業板(ChiNext)」に株式上場を果たし、新たに420億円もの資金を調達しました。この資金は、さらに革新的で高い価値を持つ製品を生み出すためのイノベーションや、日本を含む重要市場での展開加速のために投資されます。

アンカー・ジャパンにおいても、日本市場でのさらなる事業の進展に向けて、2014年より事業戦略本部の総責任者を務めてきた猿渡 歩を取締役COOに選任したり、進化し続ける環境で新たなチャレンジの機会を求める方々の積極的な採用を行ったりするなど、成長を実現するための組織強化を行っています。

井戸 「今後もAnkerグループはお客様の声に真摯に耳を傾け、変わりゆくニーズに常に応えられるように製品の改善や開発を積み重ねていきます。また、先進的な技術研究へ積極的な投資を行い、革新的な製品を次々と生み出していきます。その中で常に私たちの根底にあるのは『Empowering Smarter Lives』という考え方です」

Empowering Smarter Lives──日本語にあえて訳せば、「ハードウェアの力で、人々のスマートな生活を後押しする」ということ。Ankerグループが提案するのはハードウェアですが、物理的な製品を作ること自体がゴールではありません。むしろハードウェアを通じていかにユーザーの生活にプラスのインパクトを与えられるか、それこそがAnkerグループのミッションなのです。

井戸 「Ankerグループは2011年の創業以来、ハードウェア・スタートアップとして新しいメーカーとユーザーの関係を作り上げてきました。

世界中のユーザーと直接繋がれる時代において、ユーザーのニーズを深く理解し、真に求められる製品を生み出し続ける新しいメーカーのあり方を確立するというAnkerグループの旅は、まだ始まったばかりです。その旅をともに進める仲間を、アンカー・ジャパンは求めています」