転職エージェントの道に進むきっかけとなった、ふたつの出来事

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転職市場の黎明期から転職エージェントとして、多くの人材に向き合い続けてきた森本。メディア露出や講演活動などの情報発信を通し、今や人材業界で知らぬ者はいないほどの存在となっています。森本が転職エージェントという道を歩むに至った背景には、ふたつのきっかけがありました。

森本 「ひとつは父の存在です。休日になると、中小企業の経営をしていた父の会社でアルバイトをし、会社に向かう車中でいろいろなことを話しました。経営者って孤独なことが多いのですが、仕事上でのさまざまな悩みも私には話してくれていて。
大好きな父が、経営資源でもあるヒト・モノ・カネのうち、ヒトにすごく苦労をしていました。なかなかいい人が採用できない。やっと採用出来たと思ったらすぐにやめてしまう。いつもヒトに関することに苦労していたことが、今でも強く印象に残っています。
幼いころから、私がやりたいといったことはすべて、なんの制約もなく背中を押してくれた父への恩返しがしたくて、彼が一番苦労していたヒトの部分で社会に貢献したいと思ったことが原体験ですね」

そしてもうひとつは、大学時代に出会った一冊の本。アメリカにおける人材ビジネスのことが書かれていたその本の内容に、森本は衝撃を受けました。同時に、現在に至る仕事のヒントを得ます。

森本 「当時の日本は、終身雇用が当たり前の時代。それが本の中には、アメリカではヒトが自由に転職をしながら、自らをバリューアップし始めている、それに関連する業界も活況になってきていると書かれていたんです。近い将来、日本にもこんな時代が来るのではないか……。そうピンときました」

こうして人材ビジネスに興味を持った森本は、リクルートの子会社であるリクルート人材センター(現・リクルート)に入社。「転職=アウェー」というネガティブなイメージが先行し、ひとつの会社で定年まで勤め上げることが当たり前であるといわれていた時代です。家族をはじめ、周囲の人たちから全方位で反対されたという転職希望者も少なくなかったといいます。

森本 「もともとは、父のような世の中の経営者や中小企業を応援したいという想いで企業側の支援をしていましたが、2010年にリクルートエグゼクティブエージェントというCxO等のエグゼクティブ層のキャリア支援をするグループ会社に出向したことを機に、企業だけでなく求職者側のサポートも自分自身のミッションとして掲げ、取り組むようになりました」

転職は、一人の人生を大きく変えうる重要なターニングポイント。採用する企業にとっても同じです。それだけに一つひとつに思い入れがあり、担当した案件についてはすべて覚えていると森本は思いを馳せます。

森本 「社長案件を決めたとか、世の中的に影響力が大きい企業の再生に携わったとか、インパクトのあるエピソードはたくさんあります。一方で、『もう一度、新たな人生のスタートを切りたい』という60歳近い方を紹介したり、大きなキャリアチェンジをサポートしたりしたことも忘れられません。本当に、すべてに思い入れを持ってやってきましたから」

「先入観を持たない」「自分のすべてをさらけ出す」森本の流儀ここにあり

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リクルートキャリア時代、MVPやグッドプラクティス賞など、30回超もの受賞を果たした森本が常に意識しているのは、「先入観を持たない」こと。じつに3万人以上と対話し、新たな道へとサポートしてきたからこそ、大切にしているポリシーです。

森本 「私は求職者との面談に臨む際、敢えて事前にレジュメを読み込む事をしていません。会ったそのときに初めて目にすることが多いんですよ。というのも、相手の方と実際に会って話をする前に、余計な先入観を持たないためです。先入観って、持った瞬間からいろいろな制約条件を無意識に設定してしまうんですよね。
私の場合はとくに、経験してきた事例が多いので、これまでの傾向から『こういう人は、こういう業界に行きたがらない』とか、『この業界の人には、このジャンルの仕事が向いている』と勝手に自分の中でステレオタイプとして作り込んでしまいがち。バイアスが可能性を摘んでしまうのです。エージェントして最も注意しなきゃいけないことです」

今でこそ、異業種から異業種への越境転職はめずらしくありませんが、森本は以前から「非連続のキャリア」を流儀としてきました。転職を選択したのであれば、前職の延長線上では意味がない。そうであれば今の環境で頑張ればいい。そのほう方がバリューアップできる可能性も高い場合が多い。まったく違うジャンルに飛び込むことで、その人にとっては更に成長できる。そう確信しています。

森本 「これまでに、越境転職をして成功したり飛躍したりする様子をたくさん見てきました。だからこそ、先入観を持たず、予定調和ではない選択肢を提供したい。今活躍している分野での転職先なら、自分で想定もできるし、探そうと思えば思いつくじゃないですか。皆さんがわざわざ転職エージェントを頼ってくるということは、自分では見つけられない選択肢を提案してほしいという期待の表れだと思うのです。延長線上ではない、非連続のキャリアになるような提案を心がけています」

とはいえ、本人が気づいていない、しかも納得するようなキャリアの提案は容易ではありません。森本は、求職者の心の声に耳を傾け、本人も気づき得なかった「本当に大切なもの」を丁寧に紐解いていきます。

森本 「ご本人のwill、can、mustを引き出し確認していくと、本当にその業界、その職種にこだわる必要があるのか?が見えてきます。そのうえで、こういう形で価値を発見することもできるよ、こうすると違った世界が見えるのでは……。といった可能性を一緒に探します。
ただし、私はいくつかの選択肢を提供しますが、最終的には本人が納得する形で決断しないとうまくいかない。新しい世界に飛び込んだとき、誰しもカルチャーショックはありますし、100%思い通りに進むとは限りません。それをアジャストしながら、自分自身で選んで決断した道を正解にしていくことが大事なんです。正解の選択肢を求めるのではなく、自分がとった選択肢を正解にする。だからこそ、『自分自身で選んだ』という気持ちになって覚悟を持ってもらうことを大切にしています」

もうひとつ、森本が必ず意識していることがあります。それは求職者に対して、自分のすべてをさらけ出すということ。そのため、自身のホームページなどでも、経歴から想いまですべての情報を発信するようにしています。

森本 「本人が納得する転職先を探し求めるには、その人の詳細な情報……。ポジティブな面だけでなく、ネガティブな部分や苦手なことまでも引き出し、理解する必要があります。でも、担当者である私が何者かわからない状態では、自分のポジティブだけでなくネガティブなことも含めすべてをさらけ出すことはできません。相手のことをよく知らないまま自分のことをさらけ出すなんて、怖くはありませんか?
だから、面談前にはHPのURLを事前に送った上で、私はこういった人間ですと伝えています。当日に顔を合わせた段階で、相手が私のことをよく知っている状態にしておきたいんです。いわば、心理的安全な環境作りですね。私はいろいろなところで自分のことをオープンにしていますから、もう丸裸状態(笑)。だからこそ、相手もすべてを見せてくれるんです」

嘘偽りなく、相手と密なコミュニケーションを。頼られる存在でいられる所以

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「自分は万人にとって最高のエージェントではない」と語る森本は言います。確固たるポリシーを持ち、すべての案件に真摯に向き合ってきた森本がそう語るのには理由があるのです。

それは限りある時間の中で、お互いがベストな関係でいられること──エージェントそれぞれの強い領域において、相手が抱えている課題解決に直結するような情報提供や伴走ができることこそが、あるべき姿だからです。

森本 「私のお客様のほとんどは、経営者や社長といった方々なんです。そうすると、求めるのは自ずと、経営者たちが会いたいと思う人材、つまりCXO(Chief x Officer:組織の責任者や執行役などの役職を持っている人)といった『自分の同志』なんですよね。さらに、会社が抱えている課題解決に直結するような人を求めています。そのニーズに応えるためには、同じ観点で見渡して、求職者の方をご紹介するようにしています」

相手が求める人材を見つけ、パイプ役となるには、お客様である企業のことをよく知らないことには始まりません。担当者とコミュニケーションを重ね、時には現場を見に行く時間も惜しまないといいます。もちろん、詳細なリサーチや情報収集も欠かしません。

森本 「何より、人材の採用において最終的な意思決定者に会うことを大切にしています。最終決定者がそもそもどんなバックグラウンドで、何を大事に思いどんな人生観や仕事観をもっているのか。また、創業背景や、今のビジネスの中で大事にしていること。どんなニーズを持っていて、どういった基準で採用をジャッジするのかを把握したうえで、求職者の方にご紹介するようにしているんです」

そんな綿密なリサーチと密な関係性を築き上げているからこそ、求職者には、かなり詳細な企業の情報までを伝えることができます。

森本 「良い面ばかりをいおうとは思っていなくて、真実をそのまま伝えるようにしています。たとえば『休みがたくさんとれる』という事実に対して、『休みが多いなんてラッキー』だと思う人もいれば、『もっとバリバリ仕事がしたい』と感じる人もいますよね。ですから、私の価値観で良い悪いという表現を使わないようにすること、この点は意識しています。あくまでも、求職者が気づいていない企業の一面を、情報やコンテンツとして届ける……。というスタンスです」

さらに、企業や社長が困っている話を積極的に求職者にするという点も、森本らしいところ。

森本 「私がお会いしている方たちの傾向だと思うのですが、勢いのある会社よりも、いま課題を抱えている会社を探している人が多いんですよ。順調であれば、自分は必要ないですよねって(笑)。『この会社は、こんな課題があって、足りない部分はこういうことです、だからあなたが必要なんです』というお話をすることのほうが多いですし、『火中の栗を拾う』ことにやりがいを感じる方が非常に多いのも事実です」

「困ったときのもりち」であるために。これからも新たな未来を切り拓く

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森本が、今目指すのは「オールラウンダーエージェント」。すでにエージェントとしての地位を確立している森本は、転職に限らず、あらゆる困りごとに対応できる存在でありたいと笑顔を見せます。

森本 「私のブランドビジョンは、『困ったときのもりち』です。ありとあらゆる困りごとが発生したとき、一番に想起されるような人でありたい。ありがたいことに、日々いろいろな人たちから相談事が寄せられるのですが、その中でもとくに私が得意としている領域が『キャリア』なんですよね。
ですから、転職して終わりではなく、その先もずっと伴走していけるようなパートナーでありたいと常に思っています。紹介した会社を卒業して、また新しいフィールドで仕事がしたいという方から、再び連絡をいただくこともすごく多いですね」

人に向き合って語り合い、人に寄り添って伴走し続けてきた森本は、変化の激しいこの時代を前向きに見つめています。

森本 「コロナパンデミックによってもそうですし、時代はものすごいスピードで加速しながら変わっていきます。これから新しい雇用がどんどん生まれていきますし、そういった選択肢を選ぶ人も増えるでしょう。そんな新たな働き方を、私自身が作り出していけたらいいなと思っています。
昔のような、正社員で、朝から夜まで拘束されて、一つの会社でずっと働き続ける人生じゃなくていいじゃないですか。今だって、副業もあればフリーランスという選択肢もあります。もっともっと理想的な働き方が生まれてもいいと思っているので、そういったものを作り出す側でありたいです」

現在の日本は、森本が大学時代に感銘を受けたビジネス書通りの状況になりました。森本自身がそうなるように動いてきた、といっても過言ではないかもしれません。そしてここからは、さらなる新しいストーリーのはじまりです。

誰もが働きやすく、イキイキとできる世の中になるように。そして、困ったらいつでも声をかけてもらえるように。森本の挑戦はまだまだ続きます。