技術が進化し、航空レーザ計測の需要が大幅に拡大

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▲ LP、MMS、深浅測量から墳丘の大きさや濠の貯水量、墳丘浸食状況を把握する業務を行った仁徳天皇陵の前で

佐田が課長を務める事業推進本部 西日本空間情報部 西日本計測技術課では、航空レーザ計測をメインとした業務を行っています。

航空レーザ計測とは、レーザ光を発射してレーザ光が地面から反射して戻ってくる時間差から距離を測る方法のこと。河川や砂防、文化財などさまざまな分野において、航空機から距離を計測し、データ処理(※YouTube KYODO NEWS 【共同通信社】 へ移動します )をして基礎となるデータをつくります。

佐田 「最近では、水中の計測ができるALBという技術が発達してきたため、河川定期縦横断測量業務に適応できるようになりました。これにより、河川の高低がわかる縦断図や、構造の構成がわかる横断図の作成など、業務の幅も広がっています」

航空レーザ計測は面的に計測するため任意の断面図を作成するなどの作業は現場計測よりもたやすく、需要が高まりつつあります。一方、現場計測にはない苦労もあると佐田は言います。

佐田 「現場で計測すれば、草や木がたくさん生えている場所でも、地面の高さを実際に確認できますよね。しかし、航空レーザ計測の場合は、レーザの計測点が草の上なのか、地盤に当たっているのかの判断が難しいんです。測量の方法や精度管理方法が定められているから簡単だと思われがちなのですが、実際の現場は同じものがふたつとありません。同じ方法で同じ精度のデータを出すことには毎度非常に苦労しています」

技術が進歩し、計測できる範囲が広がったいま、航空レーザ計測の需要はますます拡大するばかり。西日本計測技術課のメンバーは12名と少数ながら、課として60~70もの案件を抱えています。ひとつの業務に対して2~3人の担当をつけることから、ひとりあたり10件ほど担当する計算です。

そうした多忙な課においては、メンバーの負担を軽減することも課長である佐田の役目のひとつ。

佐田 「作業量ができるだけ均一になることと、業務を効率化して残業しなくていいような環境づくりを目指しています。また、課員の精神的負担を少しでも減らして働きやすくなるよう、メンバーの話をできるだけ聞くよう心がけることも大切にしている点です」

技術の高さや携わり方は変わろうとも、飽くなき航空レーザ計測の魅力

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▲ 2012年に橿原考古学研究所の西藤先生と学会参加のためにメルボルンへ行ったときの様子(写真左:佐田)

入社以来ずっと航空レーザ計測に携わり続けている佐田。メンバーにさまざまな経験を積んでもらいたいという会社の方針もあり、佐田のように同じ技術を担当し続けることは珍しいと言います。20年近くにわたり継続して航空レーザ計測を手がける中、佐田はその進化を目の当たりにしてきました。

佐田 「技術が進歩したことで、さまざまなことができるようになりました。たとえば、レーザの計測データから、生えている木の種類や本数がわかるようになったんです。航空レーザ計測による森林関連の業務が出てきたのも最近のことですが、ここ20年ほどで業務の量も種類も大幅に増えました」

そう語る佐田の業務は入社当初、機材の使い方を模索するところから始まりました。

佐田 「私が最初に携わったのは、計測機材を使ってどういったデータを取れるのかとか、どう精度を管理するかといったことでした。いろいろなやり方がある中からベストなものを選んで、より精度の高いデータをつくるのはチャレンジングですし、もし最上流の工程を担当する私が失敗すると、後続の作業をやり直さなければなりません。

大きな責任がともないましたが、機械やデータにとにかく触れながら自分なりに試行錯誤し、うまくいったときは本当に楽しく、嬉しかったのを覚えています」

技術が進歩し、新たに導入された機材を使ったデータ解析にもおもしろみを感じていた佐田。その後はデータを作成する業務へと徐々にシフトしていきますが、業務内容が変わっても、新たなやりがいを見出していきました。

佐田 「データを作成していると、発注元のお客様と直接やりとりすることが多くなります。お客様の事業や研究に関連するデータを作成し、お客様が求める成果をつくるのですが、ご要望に応じた成果を出して喜んでいただけたときは、とても大きなやりがいを感じました」

災害復旧や文化財の領域でも、人の役に立てることが喜びに

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▲ 2018年に国土交通省近畿地方整備局から表彰を受けたときの様子(左から2番目:佐田)

さまざまな業務に携わってきた佐田が最も印象に残っている仕事は、2004年10月に起きた中越地震での航空レーザ測量。2003年4月に入社した彼にとって、仕事を始めて間もない時期の業務でした。

佐田 「災害関係の復旧のための計測業務は印象に残っています。当時は計測計画もデータ処理もデータ作成もすべて自分で行っていたんです。さらに、被災状況の把握がメインになるので、スピードが命。空港に計測したばかりの生データを取りに行ってデータ処理をして、翌朝までに速報を出さなければならず、家に帰ることなく対応し続けた日も。

当時は無我夢中でやっていただけでしたが、被災状況を把握したり、応急処置的な作業をしたりする上で役に立つなど、自分が作成したデータが社会的責任を果たしうるんだと気づいたとき、この仕事をやっていて良かったなと思いました」

また、佐田は文化財の領域でも業績を上げています。橿原考古学研究所が大型古墳の測量を行っていた際、航空レーザ計測を使って古墳の測量を行いました。

佐田 「もともとは堺市が古墳を実測していたのですが、レーザ計測を取り入れることで広い範囲を面で測量するため、周辺の関連施設の立地関係も把握できる上に、実測ではわからない地形も測量できます。橿原考古学研究所の方は、そうしたメリットを感じて導入を検討されていました。

ただ、精度の高さに不安があったようで、ひとまず堺市が行っている実測と我々のレーザ計測を突き合わせることにしたんです。その結果、レーザ計測の有効性を認識していただき、日本文化財科学会での論文発表や、調査結果を報道発表してくださいました。

その後、この研究の中心的な役割をされていた西藤 清秀先生からのお声がけがあり、私はいくつかのプロジェクトに参加。学会に同席したほか、論文に名を連ねることもありました。その結果、文化財領域におけるレーザ計測の認知度が高まり、受注拡大につながっていったのです」

また、こうした着実なデータ作成が認められたこともあって、2018年に佐田は国土交通省から優良業務・優良技術者の表彰を受けています。

業務効率化を実現し、技術者がスキルに磨きをかけられる環境づくりを

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▲ 課内のメンバーとの打ち合わせの様子

2022年10月で課長として3期目を迎えた佐田。1期目と2期目でできなかったことを3期目で果たすことがいまの目標です。

佐田 「今後の目標は、航空計測をする上でのワークフローと横断図作成、データ作成における業務の効率化です。業務がますます増えていく中、効率化が実現できなければ、メンバーの負担が大きくなってしまいますから。新たに採用するのか、外注を増やすのか、不要な作業をなくすのか、いずれの方法をとるにしても、業務の見直しはしていかなければならないと思っています」

佐田が業務効率化を急ぐ背景には、後輩をいたわる気持ちもさることながら、技術やスキルを未来につなげていきたいという技術者ならではの想いがありました。

佐田 「私が入社したとき、いまと比べて業務量はそんなに多くなかったので、いろいろなことをやらせてもらっていたんです。自分の技術を仕事の中で試して、スキルアップにつなげることもできました。

一方、いまの若いメンバーたちは業務量が本当に多いので、自身のスキルアップにつながるような経験や試行錯誤できる時間がなかなか取れていないことを懸念しています。業務を効率化したいという気持ちの背景には、単に負担を減らすだけでなく、技術者が各々で、自身の技術に磨きをかけることに時間を使ってほしいという想いもあるからなんです」

技術やスキルを、そして自身が経験してきた現場で働く喜びやおもしろさを次の世代に伝えていくために——管理職としての佐田のキャリアは、まだ始まったばかりです。