ベトナムでの現地調査が原体験。「海外で働きたい」との想いを貫いて辿り着いた現在地
谷口が海外に興味を持ったのは、学生時代のこと。大学で建築学を専攻し、ベトナムでのフィールド調査に参加したことがきっかけでした。
谷口 「大学生のときに、世界遺産保全のためのプロジェクトに参加する機会があり、ベトナムへフィールド調査に出かけたんです。調査の内容は、現地の建物の測量調査をして図面に起こしていくというもの。第二次世界大戦で焼失した建物を対象に、どう復元していくかを検討するためのデータを収集していました」
もともと旅行が好きだったという谷口。復元に向けた現地での活動に意義を感じ、海外で働くことへの関心を深めていきます。
谷口 「現地の遺跡保存センターのスタッフさんとともに仕事をする中で、国内で培われてきた知見や経験が、まったく違った環境で活かされていく。その過程にすごく興味を持ちました」
「海外で役に立てるような仕事に就きたい」という想いを持って谷口が選んだ就職先は、ゼネコン。しかし、新人の谷口に回ってくるのは、国内の仕事ばかりでした。
谷口 「その建設会社で配属されたのは、建築施工管理。国内でマンション建設を担当していました。アフリカで手がけているプロジェクトがあるということで選んだ会社でしたが、海外に出るには、少なくとも10年は国内で経験を積まなければいけないことを入社後に知ったんです。
『体力があるうちに早く海外に出て仕事をしたい』という想いが日増しに強くなっていきました」
キャリアチェンジへの足がかりを得ようと、谷口は、JETROアジア経済研究所の開発スクールの門を叩きます。
谷口 「ゼネコンから開発協力の領域へと転職したいと思っても、私の短い経験年数で実現するのは簡単ではありません。必要な知識やスキルを身につけたくて、スクールに応募しました。
スクールには開発途上国からの研修生が招へいされていて、多くを学べただけでなく、海外の方とコミュニケーションできたことも有意義だったと思います」
開発スクールの卒業と同時に、任期付き職員として外務省に入省します。
谷口 「国際協力局というところで、2年ほどODA事業に携わりました。仕事の業務は、JICAボランティア事業に関する関係各所への調整業務が中心で、海外に行く機会はありません。次こそは現地で仕事ができるところで働きたいという想いが強くなっていきました」
そんな谷口が次の転職先として選んだのが、アジア航測でした。
谷口 「開発業界のキャリアフェアに参加したとき、当時の海外事業部長らと話す機会がありました。ベトナムでの話をさせてもらって、とても親近感がわいたのを覚えています。
入社の決め手になったのは、『案件形成ができそうな国に出張して、プロジェクトを作ればいい』といわれたこと。若手にも海外で働く可能性が開かれていることがとても魅力的に思えました」
JICAのODAプロジェクトに参加。技術協力支援を通じて、現地への貢献を実感
2022年5月現在、社会インフラマネジメント事業部の事業推進室に所属している谷口。JICAの技術協力事業に団員として参加しながら、さまざまな業務に携わっています。
谷口 「当社が関わる海外プロジェクトは主に2種類あります。ひとつは森林環境保全、もうひとつが地理空間情報の整備・維持管理です。
私が関わっているのは、カンボジア、バングラデシュ、イラク、ルワンダの4カ国のプロジェクト。自然資源管理、地理空間情報整備・利活用、都市計画など、国ごとに分野は異なりますが、いずれも技術研修やトレーニングを実施するといった、技術協力支援の形で関わっています」
ひと口に技術支援といっても、業務の内容はさまざま。
谷口 「直近に参加したカンボジアでの森林保全を目的としたプロジェクトでは、現地の方を対象に、OJTのような形で、固定翼ドローンの操作方法に関する研修を実施しました。現地で研修を行う前に、事前に私自身も国交省指定のドローン操作講習を受講しています。
そのほか、得意とする地理情報の利活用の面では、GIS(地理情報システム)を活用した地図の利活用方法の検討なども担当しました」
コロナ禍による混乱がこのところ安定し、プロジェクトの現地活動が再び活発になりつつあるという谷口。
谷口 「停滞気味だった出張先の外国人受入れ状況が緩和されてきていると感じます。私自身も、国内にいるより出張している期間のほうが長くなってきました。2022年は1年のうちの8割くらいを海外で過ごす予定です」
メンバーの一員として海外のプロジェクトに参加できていることに、大きな意義を感じているといいます。
谷口 「海外のプロジェクトに参加する当社の技術者の多くは、国内で長く実績を積んできた、その領域の高いスキルを持った人たちです。一緒に活動していると技術支援の面で、現地の方に対して貢献できていることが実感できます」
目標を同じくする人がいるから、前進できる。「必要とされている」と思えることが力に
ODA事業を含む海外事業を進めていく上で、コミュニケーションの部分で苦労することも多いという谷口。
谷口 「プロジェクト開始までのあいだは、JICAの方が中心となって進められますが、プロジェクトが始まると、私たちが現地の方と直接話し合いながら、業務を実施していくんです。相手国の政府機関の担当者の方と一緒に仕事をすることが多いのですが、手続きの面でかなり時間がかかることが多く、調整に手間取ってしまうことがよくあります。
また、渡航できない時期はオンラインで会議を実施しながらプロジェクトを進めたのですが、対面と違ってうまく英語で真意を伝えることができなくて。コロナ禍特有のコミュニケーションの壁も感じました」
負担を強いられることも多いとはいえ、自ら望んだ海外生活。決して苦に感じることはないと話します。
谷口 「国によっては、生活すること自体に厳しさを感じることもあります。移動も大変で、たとえばアフリカでは日本からの移動に、丸2日かかってしまうことも。身体面で負荷がかかることは多いですね。
また、私は経験がありませんが、クーデターやテロに遭遇した同僚もいます。
とはいえ、現地のことを知ることも仕事の一部。安全に十分に配慮しながら、積極的に現地の文化に触れるようにしています。とくによく行くのが、スーパー。売っているものや人の様子から、その地域のことがよくわかるんです。あとは現地のレストランに出かけるなど、自分なりに楽しみを見つけながら、仕事に役立てています」
そんな谷口の原動力になっているのは、目標を同じくする人とともに取り組めていること。
谷口 「ひとりですべてをやるとなると、気持ちを維持できないこともあると思うのですが、幸い、仕事をするときは相手の国の政府機関の方が一緒です。『必要とされている』と、感じることができていて、それがモチベーションにつながっていると思います。
疲れを感じているときでも、政府機関の方やローカルスタッフなど話し相手がいるだけで気晴らしにもなりますしね」
現地の開発支援に貢献できる技術者を目指して
常に海外を転々としながら、複数のプロジェクトを抱えている谷口。仕事を円滑に進めていく上で大切にしているのは、自分の考えをきちんと言語化し、伝えること。
谷口 「日本で仕事をしていると、何かについて率直な意見を求められたり、ディベート形式で話し合いをしたりすることはあまりありません。お互いに行間を読み合うことで、物事がうまく運ぶところがあるというか。
しかし、海外では言いにくいことも、きちんと言わないといけません。日本でやっているみたいに空気を読もうとすると、後でこじれて、かえって大変なことになるケースがあるんです。ですから、聞かれたことには必ずはっきりと答えるように心がけています」
技術部門に異動になってまだ1年目。今は実地で経験を重ねながら、ニーズが高まりつつある分野の勉強をしている段階だと話す谷口。彼女には、大きな目標があります。
谷口 「現地では業務調整を担当させていただくことが多いのですが、たとえば、ドローンを使った地理情報整備や森林モニタリング、GISによるデータ整備など、特定の領域の技術者として、いずれは一人前の仕事ができるようになりたいですね。自分の持つ知見やスキルで技術支援ができるような存在になって、先輩方のように現地の方の力になりたいと思っています」
重責を背負っていることを感じさせない、おだやかな笑顔が印象的な谷口。これからも世界中を駆け回り、現地の開発支援に全力を傾けます──世界から求められる技術者となって、多くの人々のより良い暮らしに貢献するために。