地域住民の安全を守るため、全国各地に足を運ぶ

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2015年に入社し、入社7年目となる菊地の主な業務は、土砂災害ハザードマップの作成と火山の土砂移動状況の把握。ハザードマップの作成は入社直後より携わってきた業務です。

菊地 「毎年多発している大雨による被害を未然に防ぐ、土砂災害ハザードマップを作成しています。その流れは、まずお客様の地方公共団体から地形図データをいただき、土砂災害の3つの事象『崖崩れ』『土石流』『地滑り』が発生しやすそうな場所を仮で決めます。

そして必ず現地に赴き、災害が起こりそうか否かを判断し、その情報を地形図のデータとともに専用ソフトに入力。そうした結果をもとに土砂災害警戒区域や特別警戒区域を設定・出力し、マップにまとめます。

2020年は現地調査が多く、特に7月〜9月ごろは月に5回ほど現場を訪れていました。ハザードマップを作成した後は、土砂災害の起こりそうな場所を住民の方々が理解できるようわかりやすく図面に起こします。そして、その図面に行き着くまでの判断材料は記録した上で報告書にまとめ、図面と一緒にお客様の地方公共団体へ納品します」

ハザードマップの作成は4〜5年おきに見直し調査を実施。作成する市町村・地区は数多く、東は兵庫県から、南は鹿児島県まで担当してきました。

菊地 「とくに、山間部は至る所に斜面や土石流の起こりやすい谷があり、作成すべき箇所がとても多いです。そのため一つの地区が終わったとしても次の地区の調査があり、ピークの年はハザードマップの作成業務につきっきりでした」 

「火山の土砂移動状況の把握」は2018年、現在の九州支社へと異動になってから担当。火山体に溜まっている堆積物が雨によって下流の集落に流れて被害をもたらすことがあるため、火山が多い九州では欠かせない業務です。

菊地 「火山地域でどれだけ土砂が移動しているのか、モニタリング業務を行なっています。弊社の『航空レーザー計測技術』を用いて火山地域上空に航空機を飛ばし、レーザーで地表面の地形を計測後、三次元モデルを作成。活発に土砂移動が見られる地域は同じ計測を1年毎に実施し、昨年、一昨年のモデルと比較して標高に変化がないかを調べます。

これによって、土砂移動が起きている箇所とそうでない箇所がわかり、下流側の重点的な防災対策の検討ができるようになるのです」

一人の技術者として芽生えた「守りたい」という思い

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▲乗鞍での露頭調査

大学では理学部理学科にて地質学、とくに火山地質学について学び、修士まで研究に勤しんだ菊地。そのころから現地調査の大切さを実感していたといいます。

菊地 「私の出身地である茨城には火山がないのですが、どういうわけかある地域に火山堆積物があり、その堆積物がどこから堆積したのか、いつ堆積したのかなど、不思議さに惹かれました。地質学の研究では地層や岩石が露出した『露頭』をどれだけ見られるかという数が重要なので、露頭調査を頻繁に行なっていました」

大学生の時に東日本大震災を経験し、防災への意識が高まった菊地。大学で学んだ知識を活かしたいという思いを強く持ち、就職活動を行いました。

菊地 「アジア航測は火山の研究分野で有名な『赤色立体地図』を作成しており、事業分野に興味がありました。また、学会などでアジア航測の社員と会う機会が多く、そのときの対応や雰囲気がとても良かったので、アジア航測への入社を決めました」

入社後は神奈川の本社に配属され、4年目で九州支社へと異動。転勤は仕事の幅を広げる良い契機となりました。

菊地 「九州は一度も訪れたことがなく、初めて上司から異動の打診を受けたときは驚きました。しかし、火山の多い九州なら必然的に火山の分野に深く携わることができますし、新しい場所で頑張るのも良いと思い、異動を受け入れました。九州支社の国土技術課の社員は約18名で、私が所属している防災グループは8名。人数が少なく複数の分野を皆で協力して行うため、私一人が対応すべき分野が広くなり能力の幅も広がると感じました」

異動後、とくに印象に残っている出来事が「平成30年7月豪雨」。西日本を中心に発生した豪雨によって菊地の防災意識がさらに強まり、確固たる信念が生まれました。

菊地 「入社して初めて調査から取りまとめまで一連で携わったのが、広島・岡山などで発生した平成30年7月豪雨です。災害調査として2〜3週間現場に向かい、被災状況の確認や土石流が出た渓流の調査を実施しました。災害の怖さも改めて痛感し、防災に対する意識がより高まりましたね。災害の中で民間や行政の人々が協力し合いながら、復旧に向けて頑張っていた姿も印象的でした。

今は毎年のように全国各地で大雨による土砂災害が起きているので、今後もいつ、どこで発生してもおかしくはありません。その中で自分が一人の技術者として、一人でも多くの人を被害から守れるようになりたいと強く思ったのです」

2020年に技術士試験に合格。成長を目指して歩み続ける

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土砂災害ハザードマップの作成など、菊地の業務は一人では決してできない作業量です。調整役としてのスキルも必要になります。

菊地 「ハザードマップの作成は調査箇所が多く、作業量的に社内だけでは対応できないことがほとんどなので、別の協力会社に外注し、お客様と外注業者を結ぶ調整役としても進行します。お客様の納期までに納めることができるかが重要ですので、作業量の多い仕事ほど、改善を重ねていくことが大切ですね」

土砂災害ハザードマップの作成は入社直後から携わっている業務。だからこそ、自身の成長も実感しています。

菊地 「本社でハザードマップの作成をしていたときは、上司の指示を受け業務にあたっていました。しかし2019年ごろから企画立案、調整など、実質的に指示を出す立場になってお客様との打ち合わせを行うようになりました。入社直後と比べると責任あるポジションを任されるようになったと感じています」

成長のための努力を惜しまない菊地は、2020年に技術士試験に合格します。

菊地 「技術士は主に土木工学の分野において、高度な専門知識を有していることを証明する資格です。当社のビジネスモデルは、国土交通省や地方公共団体から業務を受注して成果を納めるというもの。競合他社もいる中で、高度な専門知識を有している『技術士』の資格は、お客様から信頼をいただけるポイントになっているのです。

毎年夏に試験が実施されるのですが、私は2020年の春より勉強を開始しました。平日の仕事終わりに勉強するのは大変だったので、毎週日曜日の昼〜夕方は資格試験の日と決めて、自宅近くにある自習室を借りて、必死に学びました。自分の実力を確かめるという意味でも、試験に挑戦して良かったですね」

一人でも多くの人が被害を受けずに済む未来のために

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▲現地の消防団の方と図面作業を行っているところ

仕事をするうえで「興味や好奇心を失わないようにしたい」という思いを持っている菊地。これは九州支社の先輩社員から学んだことです。

菊地 「50代のベテラン社員なのですが、良い意味でベテランらしくないのです。物事に対して好奇心を強く持っていて、たとえば市販されている道具を活用して現地調査で役立つツールを試作したり、防災の現場でトレンドの三次元ソフトをいち早く導入したり。年齢を重ねても好奇心や興味を失わない生き生きとした姿勢がすばらしく、私も学ばせてもらっています」

今後は一つのスキルだけでなく、専門性を広げたいと話します。

菊地 「今まで培ってきた基本的なスキルを活かしつつ、ほかの防災の分野に関わり専門性を広げていくことが一つの目標です。たとえば砂防ダムを建てるとしたら、現地調査、図面を用いた設計、建設、維持管理といった一連の流れがあります。

しかし、現段階で私が携わるのは初めの現地調査の段階のみ。現地調査以降の知識も知っておくことで後々活用ができると思うので、そういった意味で知識を広げていきたいと考えています」

最近の気候状況を踏まえると、自然現象は避けられないのが現実。人々が被害を受けないよう、防災意識向上の啓発に携わることも目標としています。

菊地 「ハザードマップを作成しても、住民の皆さんに見てもらわないと意味がありません。マップ作成業務とは別に、マップを見てもらえるように情報発信を行うことも必要です。防災意識を高め、もっとたくさんの方々に防災について知ってもらいたいと思っています。最終的に一人でも多くの人が被害を受けずに済む未来のために、私ができることを実践したいです。

私は大学時代に研究していた分野をそのまま活かしたいと思って入社しましたが、それよりも会社に入って学ぶことがとても多く、特定の専門知識のない人でも活躍していける会社だと実感しました。素直に誠実に聴くことを大事にして学ぶことで、仕事もおもしろくなっていくと思っています」

新人の技術者がこころがけるべき大切なことは、現段階での知識量ではなく「素直さ」。技術を習得していく探究心や吸収力の方が大事だと語ります。

自然現象による被害を未然に防ぐために、一人の技術者として関わり続けたいと強い思いを持つ菊地。

一つずつ知識を蓄え、さまざまな人と連携し、大きな目標の実現へと向かっていきます。