地図のもとデータとして需要拡大中、公共性が高い航空撮影士の仕事

航空撮影士の仕事は、パイロットと一緒に航空機に乗って、地図作成のもととなる写真やデータ、調査研究を目的とした写真やデータなどを撮影・計測すること。藤田 周平は、アジア航測株式会社(以下、アジア航測)で全国でも数少ない航空撮影士として仕事をしています。

藤田 「航空撮影士はひとりではできない仕事なので、パイロットと相談しながら撮影・計測を行います。航空機や測量の専門的知識も必要です。世間的にはあまり知られておらず、従事している人は全国で70〜80人程度。測量は会社の根幹となる業務なので、責任意識を強く持って取り組んでいます」

近年、スマホやタブレットで使える地図やナビシステムのデータとして、精巧な航空写真が求められていることから、航空写真の需要は拡大中です。

藤田 「特に増えているのは、山の中の計測や砂防ダム建設計画の地図のもとデータを取得する仕事。最近は水の中を計測できるレーザー機器が登場し、河川や海岸を飛行して水の中の様子を撮影することもあります。送電線に木や葉っぱが引っかかっていないかなども計測対象です」

測量計測機器を搭載する航空機は、修理改造検査を受けて航空局の承認を得ることで、初めて飛行できます。そんな希少な測量計測機器を扱う藤田の仕事内容は、自然を相手にするがゆえの特性が表れています。

藤田 「フライト前に撮影エリアを確認し、計画図を作成するところから私の仕事は始まります。フライトは1日2~6時間、太陽が昇っている間に業務を終了する必要があるのです。目的地に到達したら、ひたすらシャッターを切り続けます。枚数は平均して2,000 ~3,000枚。着陸後はデータをチェックして、デジタル画像を処理します。天気の悪い日は撮影ができないので、機材の整備などを行っています」

撮影以外にも、レーザーを地面に照射し、跳ね返った光をもとに地表面からの高さのデータを測ることもあります。藤田に航空撮影士がいない世界を想像してもらいました。

藤田 「航空撮影士がいないと、この世に地図が存在しないかもしれません。航空撮影士が広範囲に測量するからこそ、一気にデータを取得できるため、非常に公共性が高く、社会に貢献できる仕事だと自負しています」

上空では臨機応変に対応。パイロットの負担を軽減できるベストな選択を

空中撮影を行う場所は、家の形がある程度確認できるくらいの高さ。具体的には雲と山の間です。測量士の資格も持つ藤田ですが、航空関係の専門用語には苦労したといいます。

藤田 「たとえば、航空機の速度単位はノット、高度の単位はフィートです。速度70キロ、高度500mと計画図に記載されているのですが、単位の切り替えがうまくできずに苦労しました。航空撮影士になって15年目ですが、機体も機材もどんどん進化しているので毎日が勉強です」

天候の良い日に航空機に乗り、悪い日は地上で仕事をする、いわゆる「天気商売」ならではの悩みといえば、やはり予定が組めないことだと藤田は苦笑いします。

藤田 「最近は天気予報の精度も上がってきているので、ずいぶん予定が立てやすくなりましたが、昔は予定が立てられず大変でした。年間の3分の1ぐらいは出張ですし、一度出張に出ると、2週間ぐらい家に帰らないこともあるんですよ」

上空での仕事は計画通りには進みません。管制官から、近くに別のヘリコプターが飛んでいるとのアナウンスが急に入ることもあり、その都度、的確で機敏な対応が求められます。 

藤田 「臨機応変に対応するのが、航空撮影士の大変さでもあり醍醐味です。パイロットと話し合いながら決めるのですが、できるだけパイロットに余計な負担がかからないように心掛けています。

航空機は、ほんの少しの飛行でも、ものすごいコストがかかるのです。だから、ムダに飛ばない。飛ぶときは安全に、一番お金がかからない方法で飛ぶのがコツです。しかし、それだけでは撮影は思うようにはかどりません。いかに短い飛行時間で、効率的に撮影できるかをコーディネートするのが航空撮影士の役割なのです」 

東日本大震災の本震があった数日後に、藤田はヘリコプターに乗り、宮城県を上空から撮影したこともありました。

藤田 「津波で仙台空港が全て流された様子も空から見ました。復興していくための基礎となる貴重なデータですから、災害が起これば、すぐ飛び立って被災地に向かいます。家族から心配されることもありますが、私たちは復興につながる一端を担っているのだと使命感を持って測量に臨んでいるのです。数年後に再び撮影に行き、復興している様子を目にするとこの仕事の存在意義を感じますね」

パイロット、整備士との三位一体での仕事──大切なのは相手を敬う心

▲協力会社「つくば航空」のパイロットと打ち合わせをする藤田(右)

航空撮影士の仕事をする際には、パイロットと航空機を整備する専門家である整備士との協力関係が不可欠です。三位一体となって仕事を行う上で、藤田は「尊敬の念」を大切にしています。

藤田 「パイロットや整備士との協力関係は、相手を尊敬することが基本だと思います。それぞれの専門領域がある中で、協力してひとつの仕事をしているわけですから。いい塩梅に折衷案が出せるようにするのが航空撮影士の仕事です。パイロットも整備士も、日々新しい機体の勉強をしています。航空機を操縦できるパイロットも素晴らしいですし、自分の苦手なネジを取り扱える整備士もすごいです」

日本の航空業界では、飛行時間ごとに綿密な整備計画が定められています。安全確保のためにも、規定の整備日数は守らなければなりません。

藤田 「航空機の整備は安全に関わることなので、整備日数の短縮は強制できませんが、時には少しでも早められないか、とお願いすることもあります。そういった時にも、しっかりコミュニケーションをとることで協力関係がより深まりますし、仕事もスムーズになるのです」

地図作りの測量技術は、点から面、3次元での測量へと進化しています。測量計測機器や航空機も日々進化しているため、新しい知識を貪欲に吸収しないと対応できません。

藤田 「勉強しないでいると、すぐに置いていかれます。航空機も、エンジンが変われば動き方が変わるのと同じ。空中写真測量では、上空から写真を撮るだけでは情報不足なのです。撮ったときの機体の位置と傾き、速度、進行方向などのデータが把握できて初めて写真のデータが活きてきます」

航空機に関して、藤田は常にパイロットや整備士に質問するといいます。

藤田 「速度の情報としては、数字よりも実際に乗った感覚が大切です。撮影するためにこのような操縦をしてほしいと依頼するときも、機体の特性や性能を知らないと依頼できません。専門用語を扱うコミュニケーションなので、自分もそうした用語がわからないようでは意思疎通が図れませんから、そうした勉強も大切です」

航空撮影士として初の育休を取得──一目置かれる専門家になりたい

航空撮影士として長いキャリアを持つ藤田ですが、2019年10月から半年間、育児休業を取得。世の中に100人もいない稀有な職業で、しかも育休を取得したニュースは、同業他社の航空撮影士にも広まり、話題になったといいます。厚労省によると、男性の育休取得率は令和2年で7.46%です。

藤田 「次女が切迫早産で3カ月早く生まれたのです。1,000グラムで生まれて少し大変だったので、家族と一緒にいたいという気持ちが強かった。上司に相談すると、ふたつ返事で了承。長女の出産のときは出張で一緒にいられなかったこともあり、少なからず負い目を感じていたので、育休期間中は長女の学校の送迎なども行っていました」

アジア航測の空間情報技術センター撮影部に所属する航空撮影士は現在13人。常に人材不足の状態です。そんな中でも、温かく送り出してくれた同僚たちの姿を藤田は振り返ります。

藤田 「同僚、後輩を含めて『何とかしますので(育休を)取ってください』と言われました。わざわざ見送ってくれた同僚もいたほど。本当にありがたかったです」 

育休を取得することで、改めて自身の職業の稀有さと向き合った藤田。

そんな藤田が考える航空撮影士の仕事とは──

藤田 「航空撮影士は、この世になくてはならない仕事だと思います。私たちが撮影した写真データは地図を作るもとデータになり、国家プロジェクトの災害対策や、山林・河川管理の資料となる。地震や津波などの災害が起きた際には被害状況を歴史に残す記録を担う立場でもあります。アジア航測の根幹業務ですから、航空撮影士として、信頼される存在であり続けたいです」

航空撮影士を魅力的な仕事にしたいと考えている藤田は、働き方や時間管理が今後の課題だと分析します。

藤田 「航空撮影士になりたてのときは、『日本一の航空撮影士になる』と意気込んでいました。でも、いざ仕事を始めてみると、業界全体の人数がものすごく少ない仕事だと知り、かなり特殊な業種だと改めて認識しました。

航空撮影士の大会はないので日本一は決められないですが、一目置かれるような存在であり続けたい。そのためにも長く第一線で働き続け、航空撮影士の仕事の魅力を伝えていきたいです」

地図という、あらゆるものの指標の元を生み出す藤田。航空撮影士としての理想を追い求める姿は、地図のように多くの航空撮影士が歩む一つの指標となるのかもしれません。