空間情報技術で防災に貢献。アジア航測のミッションがそこにある
小林は防災やインフラ関連のお客様に対し、空間情報技術を提供する「空間情報技術センター」の副センター長です。
小林 「当社は空間情報を利活用して、行政機関の管理者や鉄道、電力などの事業者に対し、防災やインフラメンテナンスなどのコンサルテーションを行います。空間情報技術センターは、そのコアとなる空間情報のデータ取得(計測)および可視化を行う技術を統括しています。当社の高い品質を確保しながら、お客様のリクエストに応じたデータを製造する部署です」
そのような中で新しく始めたAAS-DX、防災や環境対策などのプロセスや検証モデルの変革とはどのようなものなのでしょうか。
小林 「防災などのプロセス変革実現の前提に、測量分野での急速な技術革新があります。地図のデジタル化は1995年ごろからですが、航空測量では2000年ごろから航空レーザ計測が実務で用いられるようになりました。
それまでの空中写真による測量でも、情報としては3次元で捉えていましたが、その成果を表現するのは2次元の等高線図など限られたものでした。2021年現在では、レーザ計測により3次元デジタルデータを一気に大量に取得することができます。
これにより、測量成果の高度な利活用が可能となりました。例えば、国土交通省Project PLATEAU(プラトー)で公開している浸水シミュレーションの3次元表現のように、住民に分かりやすく説得力の増す可視化ができるようになりました。
これには、大量のデータを高速で処理する自動化技術や高度な解析結果を表現するための高精度なデータ融合技術が求められ、まさに測量分野・空間情報のDXに取り組んでいると言えます」
このようなミッションがより重要視されるようになってきたのは、東日本大震災以降の相次ぐ甚大災害があると小林は言います。
小林 「まず今の国土の状態がどうなっているのかを知らないと、国土強靭化事業も進められません。高度なシミュレーションもそうです。また、災害が起きたときには自社機で迅速に情報を取得し、二次災害の防止などに努めることがわれわれのミッションだと思っています」
デジタル技術の普及、東日本大震災がキャリアに大きな影響を与えた
大学ではシステム工学、ロボット工学、電子機器の分野を専攻していた小林。もともとモノをつくることが好きな性格でした。
就職活動はいわゆる大氷河期の時代、手当たり次第に応募してアジア航測のグループ会社へ入社を決めます。
小林 「何をやっている会社なのかよく知らずに入りました(笑)。それから9年間、現場の仕事やデータをコツコツつくっていく仕事をしましたね」
その後、グループ会社がアジア航測に吸収されることになり、本社に異動をしてきた小林。望まれていたキャリアではないところからスタートした社会人生活でしたが、現在は副センター長を務めています。転換期となったのは、デジタル技術の普及でした。
小林 「私は95年入社なのですが、そのころWindows95が出始め、一般向けにもパソコンが普及していました。デジタル地図とか3次元表現などが出てきて、おもしろいなと感じていましたね。
CADをつかって図面をつくる仕事が多かったのですが、覚えていくうちに、3次元のコンピュータグラフィックによって測量成果がいろいろな見た目になっていくんです。なにか新しいものをやっていると感じ、そこからのめり込んでいきました」
また、東日本大震災の復旧・復興での体験も小林に大きな影響を与えました。小林は震災の4年後に仙台へ異動し、原発の放射線状況調査に尽力していたのです。
小林 「原発の放射線状況調査をする中で、やはり震災からの復興は終わってないのだなと感じました。実は震災直後にも仙台へ20日間くらい行ったのですが、当時はガスも食料もなく、濡らしたタオルで体を拭き、炊き出しのご飯で食いつなぎながら仕事をしていました。
津波によって防波堤が破壊されていて、次に大きな波が来たら防ぐものがない、すぐに復旧しないといけないという状況だったんです。国土交通省の方と一緒に、極限に近い状態で2週間やりました。私を含めてみんな辛いのでしょうけど、これをやらないと本当にまずいと思い、必死にやりました」
こうした経験から、小林の震災に対する考えや思いが強まりました。
100%を120%にしてやらなくてはいけない状況の中、誰かのためにという気持ちが大きければ大きいほど頑張れる──その想いが彼を突き動かしていました。
大切なのは、情報も失敗も「ありのまま」に伝えること
小林が大切にしている美学やこだわりは「品質」です。それはDXにも影響する「客観性の保証」とも言えます。
小林 「デジタルツインという言葉を聞いたことがありますか?リアル(物理)空間にある情報をサイバー(仮想)空間で再現する技術で、災害や渋滞などリアルで起こりうるものをシミュレーションし、課題解決をするものです。
私たちはそのリアルな姿を正確に再現する作業をしています。それが間違っているとその上に成り立っていることも間違ってしまうので、正確に測ることと正確に伝えることが一番大事だと思っています。
お客様がこういう状態だろうなと思っていることに、寄せてしまってもいけないのです。ありのままを知らせる。それが基盤となるデータをつくっているわれわれの一番大切な部分だと思います」
一方で、小林はミスやエラーに対して前向きです。グーグルのプロジェクトアリストテレスガイダンスで、チームがもっとも効果を発揮できる要因は「心理的安全性」と知り、感銘を受けたのだと言います。
小林 「仕事はミスやエラーなど不測の事態がつきものです。それをオープンにして正直に伝える。失敗を繰り返してはいけないし、悪いものは良くしていかなければならない。罪悪感で落ち込んだりする必要もなくて、それが新しい技術に寄与するんだということを、技術者として思いながらやってほしいと思っています。
それが、ものをつくるという取り組みの全てという気がしていて、失敗でなくても次はもっとこうしたいという気持ちが必要かなと思うんです。失敗は失敗かもしれないですが、次に向かうためのいい材料と思わないといけないと感じますね」
技術革新の大きな変化の中で、空間情報技術が果たす大きな役割
今より豊かで便利な社会を目指すために、アジア航測の技術がどう役立つのか。
自動運転やドローン、ロボティクスなど、「マシン」が活動するためにも、空間情報の技術は必須なのだと小林は言います。
小林 「政府が進めているソサエティ5.0など、新しい情報社会にはさまざまな技術があると思います。たとえばドローン宅配では、ドローンがどこからどこまで飛ぶか、障害物の有無などをわかってないといけないわけです。また、ドローンが人や家にぶつかってしまわないよう、私たちが空間情報をより正確に提供する必要があります。
これからは、脱炭素など環境にも配慮し、ヒトとマシンが共存する、高度にICTを駆使したまちづくりが求められます。現実の空間を正確にサイバーの空間に再現するという点で、空間情報はすごく重要な役割を担っています。そういうデータを提供するのがわれわれなのです」
その先にさらなる技術革新がある。学生時代にやっていたことが、時をこえて自分たちが携われるところにやってきていると小林は感じています。
小林 「将来的には周りの状況をデータ化していくことが、もっと速くリアルタイムに、人間の手をかけずにできるようになっていくと思います。
今僕らは事前に飛行機を飛ばして調査していますが、そこにいるヒト・マシンが瞬時に周りの世界を計測して把握し、何があるのか把握できればそういった調査はいらなくなってしまうかもしれません。
地図を持っていなくても、人工衛星やさまざまなセンサーでリアルタイムに計測して位置も状況もわかる。そんな時代が来るのではないかなと思っています」
ロボティクス社会に対して自分たちは何をすればいいのか──やはり社会のために貢献できることを基軸に、これからも模索していく必要があると小林は考えています。
小林 「空間情報のつくり方は、これまでもこれからも変革(DX)していくかもしれないのですが、それを使って社会に貢献しなければいけない。そこが私たちの根幹です」
社会問題をこれからの手法やプロセスで解決するために必要とされる基盤。これまでの技術・ノウハウをもとに、正しく知らせる義務や責任を小林は自負しているのです。
新たな未来のための礎として、日々より良い方向へ変化しながら、これからも歩みを進めていきます。