世界中で「飛び恥」と揶揄されるようにCO2削減は航空業界全体の大きな課題です。自社で航空機を運航するアジア航測は、2022年3月、航空測量業界で初めてバイオジェット燃料(SAF)で運航を行いました。部門を超え連携しながらSAF導入を進めた3名が、プロジェクトの裏話や今後チャレンジしたい取り組みについて語ります。
【動画公開中】ワンチームで進めたSAF導入プロジェクト
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SAFプロジェクトを推進した3名による座談会の様子を動画で観たい方は、ぜひYouTubeでご覧ください。
ここからは動画でお伝えしきれなかった内容も含め、対談の様子をお伝えします。
業界初!SAFによるフライトを実施
▲SAFを使った初のフライト「あおたか」
──まず、SAFについて教えていただけますか。
衛藤 貴朗(以下、衛藤):SAFは「Sustainable Aviation Fuel」の略で、持続可能な航空燃料のことです。CO2排出量を実質0にするため植物や動物由来の原料等が用いられています。弊社が使用したのは株式会社ユーグレナが製造・販売している「サステオ」というバイオジェット燃料で、原料に使用済み食用油と微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)由来の油脂などを使用したものです。
──貴社は2021年に自社運航機へのSAF利用を宣言し、2022年3月に日本の航空測量業界では初めてSAFを利用したフライトを実施しましたが、SAFを導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか?
衛藤:弊社は環境省より認定を受けたエコ・ファースト企業として、これまでさまざまな環境施策に取り組んできました。そのひとつに、脱炭素の取り組みがあります。航空機を利用して計測する事業を行っている以上、航空機の燃費消費に伴うCO2排出量は多かったんです。SAFのようなバイオ由来の燃料を使うことで、CO2排出量の削減が期待できます。
──貴社がSAFの導入を意識しはじめたのは、いつ頃のことだったのでしょうか。
衛藤:弊社がエコ・ファースト企業の認定を受けたのは2012年10月で、その後は基本的に5年おきに更新します。2021年に2回目の更新時期を迎えたのですが、当時の目標のなかにSAFは入っていませんでした。
今後脱炭素社会に向けていろいろな企業や世の中が動いていくなかで、今までの目標設定では低いだろうと考えたんです。新しい目標を立ててCO2排出量を削減するためには、新しい取り組みをはじめなければなりません。そこでSAFの導入が必要ではないかと社内で議論を進め、導入に至りました。
チャットを活用し、部門や勤務地を超えて密に連携
──SAFを導入するプロジェクトにおける皆様の役割について教えてください。
衛藤:私は経営企画部に所属しており、経営管理や新規事業を担当しています。今回のプロジェクトは業界初の取り組みだったので、新規事業として扱い経営企画部が主体となって進めました。どういったプランニングをしていくのか、どのような会社に協力を依頼するのか、社内でどう連携して進めていくのかを考える旗振り役として動いていましたね。
金子 史之(以下、金子):私は航空部に所属しています。航空部は弊社の航空機を運航したり運航管理を担ったりしているので、本プロジェクトでも運航や業務の監理や割り振りを行い、当日はパイロットとして飛行を担当しました。現場監督のような役割ですね。
森重 憲章(以下、森重):私も航空部に所属しています。本プロジェクトでは現場作業員のような役割ですね(笑)。SAF導入に伴う関係各所への申請や、当日の現場の調整などを行いました。
──皆様は勤務されている場所も違うそうですが、プロジェクトではどのように連携していったのでしょうか?
衛藤:2021年2月頃からSAFの導入を検討しはじめたんですが、当時は私たちには対面による接点がなかったんです。新型コロナウイルス感染症の影響で対面することも難しかったので、金子と森重は大阪、私は神奈川にいながらWeb会議でコミュニケーションを取っていました。
冬から検討を開始して8月頃にはじめて会いましたが、それまではずっとオンラインで打ち合わせをしていました。
──経営企画部と航空部、お互い普段は関わることが少ない分野間の連携だったと思いますが、いかがでしたか?
衛藤:私は以前社会インフラのコンサルタントの部署にいたので、航空測量で取得した後のデータを活用して計算や画像解析をしていました。そのためデータを取るまでの仕事についてはほとんど関与しておらず、この会社にいながらあまり航空機のことをよく知らなかったんです。
航空機の運航やメンテナンスの事などの基本的なことも詳しくなかったんですが、ふたりに教えてもらいながら、燃料についても勉強させてもらいました。
金子:私も、今まで聞いたこともない言葉や情報が出てきてとても勉強になりましたね。いろいろ質問してもらえて、私も知らないことを聞けて、とてもやりやすかったです。
衛藤:私は旗振り役として細かいことを知らないといけないので、いろいろ聞いていたんです。でも、お二人とも多忙な状況でもあったので、「今忙しいだろうから、電話したら悪いかな」と気にして、チャットをよく使っていました。離れた場所にいても、チャットを有効に使って密にコミュニケーションが取れたのは良かったですね。
3年かかると思われたSAFの導入が、現場の努力により1年で実現
▲給油の様子
──検討をはじめてから導入まで1年ほどでしたが、これはスムーズに進んだ結果なのでしょうか?
衛藤:そうですね。結果としては、思ったよりも早く実現できました。本プロジェクトでは、燃料を供給してくださるユーグレナさんとの接点を持てたのが大きかったですね。弊社は燃料を供給する企業と、どこからどうやって連絡を取ろうというところから入ったんです。それがたまたまユーグレナさんとご縁がありまして、そこからは順調に進みました。
──想定より早くSAFを導入できても大変なことはあったと思うのですが、いかがでしょうか。
金子:やはりプロジェクトを一気に進めることができたターニングポイントとなったのは、燃料会社との接点ができたことでした。SAFは大手エアラインが先行して使っている実績がありましたが、私たちのような小型機業界ではどこにコンタクトを取って供給してもらうかがわからなかったんです。そのため、当初はSAFの導入は3年先になるかもしれないと考えていました。
だからこそ、SAFが手に入ると具体的にわかったとき、一気にいくしかないと思ってプロジェクトを進めました。供給してくれる燃料会社を探すところは、特に森重が本当に苦労したと思います。
衛藤:経営企画部が関与する前から、森重が市場や燃料を供給している会社を調べてくれていたんです。アジア航測にいる約1,500人の社員のなかで、唯一SAFの存在に気づいて誰にも知られずひとりで調べ上げていました。
森重:業界初のSAF導入だったので、許認可関係もすべてはじめてのことでした。そのため情報収集はもちろん、空港や自治体など関係者にコンタクトを取って交渉や調整を進めるのも大変でしたね。当初は燃料会社に直接メールでお願いしたりしましたが、なかなか接触できませんでした。しかし、ユーグレナさんとコンタクトを取ってからはトントン拍子で話が進んでいったので、期限内に申請を行うのも苦労しました。
金子:SAF燃料利用の安全性についても、森重が調べてくれましたね。提供していただいたSAFが使用可能だというところまでエビデンスをもって確認できたので、当日も安心して飛行できました。
内心ハラハラした飛行も無事成功し、SAFの継続利用が決定
──森重さん、それだけ情報収集や現場作業を念入りにしていたのであれば、2022年3月のフライト当日はかなり達成感があったのではないですか?
森重:どちらかというと、内心ハラハラしていましたね。もちろん安全性は確認していましたが、無事にフライトが終わるか緊張しながら見ていました。
衛藤:私も一緒ですね。何かあれば協力いただいた関係者の皆さんに迷惑がかかってしまうかもしれませんし、絶対に事故を起こしてはいけないと考えていたので、一日中ハラハラしていました。航空機にはパイロットとして金子が乗っていたので、無事に帰ってきてほしいなと思っていましたね。
金子:そうなんですね。私はその話を聞いて、そんなに心配してくれていたのかとむしろ申し訳なくなりました。もちろん万が一のことも考えていましたが、事前準備はしっかりできていましたし、エンジンの計器類の数値モニタリングを行ってくれる方もいたので、普段の飛行と変わらず操縦に集中していました。
当日は大阪の八尾空港を発着地として、小豆島方面を約60分間飛行しました。特に問題はなく、2022年6月に行った2回目のフライトも終了し、今後も継続的にSAFを使用する予定です。
▲2回目のフライトの機体「JA11AJ」を点検する様子
ベクトルを合わせられたからこそ、連携がうまくいった
──貴社では、普段から複数の部門が連携してプロジェクトを進める機会が頻繁にあるのでしょうか?
衛藤:私自身は航空部との連携は今回がはじめてでしたが、社内で新たなサービスや製品を作るために部署連携するというのはよくあります。ただ、会社の経営方針に関する全体のベクトルは、全社員が共通認識を持って仕事をしていても、部署ごとの短期的な目標ではベクトルが違うケースはあるので、連携の際に苦労することもあるのが事実です。
今回は「業界ではじめてSAFの導入を成功させよう」という目標を経営企画部と航空部でベクトルを合わせられたので、プロジェクトがうまくいったんだと思いますね。
──現場としてはSAFの導入によって新たに増える業務や苦労もあったと思いますが、モチベーションはどのように保たれていたのでしょうか?
森重:エコ・ファースト企業として、どうしても航空部のCO2排出量を減らさなければならず、これまでSAF以外の手段も考えて実施していたんです。しかし、減らせる量は微々たるもので、やはり世界を見ると今後はSAFが主流になっていくだろうと感じ、航空部もSAFに目をつけていかなければならないと思っていました。
だからこそ、現場での申請や交渉は大変でしたが、SAFの導入に向けて頑張ろうという想いがモチベーションになりましたね。
金子:やったことがないことをやるのは大変ですが、楽しいことでもあります。また、ひとりではなく一緒にやってくれる人がいたので、楽しくプロジェクトを進められましたね。
衛藤:そうですね。ただし、社内でもいろいろな考えがありました。安全管理やコスト、実績などの視点で考えると、今の時期に導入するのが本当に適切なのかどうかという声は社内でもあったんです。
社内にしっかり説明して、共通認識を持ってSAFの導入を進めていくところは難しかったですね。主に私と金子が中心となって、関係する部署とのコミュニケーションを何度も繰り返し、意識統一を図っていきました。
業界をリードしながら、脱炭素社会に貢献する目標の達成を目指す
──フライトも無事成功し、SAFプロジェクトは一旦終了とのことですが、これからもエコ・ファースト企業としての取り組みは継続されると思います。次はどのようなことにチャレンジしていきますか?
衛藤:弊社は脱炭素社会への移行に貢献するため、2030年度までに2020年度比でCO2排出量を42%減らすという目標を掲げています。かなり高い目標ですが、達成するために2022年7月現在取り組みをはじめているところです。
そのなかでもSAFは重要な対策のひとつなので、継続的に使っていきたいと考えています。しかし、残念ながら現在の技術では、SAFの利用だけで目標を達成できるほどCO2排出量を減らすことはできません。再生可能エネルギーやEVを使う、アジア航測特有の計測技術により創出される森林クレジットを活用するなどの対策も同時並行的に進めて、設定した目標を達成したいと考えています。
また、弊社だけでなく業界全体でもCO2排出量を削減できるようにしたいですね。航空測量業は国土の保全やインフラの維持に役立ち、安心安全な社会づくりに大きく貢献しています。一方、私たちの仕事では常に航空機を使うため、飛行にともなう燃料消費でCO2を排出してしまうというジレンマがあります。
そこには真摯に向き合ってCO2排出量を削減する姿勢が必要ですし、弊社の取り組みだけでは大きな削減に向けた貢献にならないので、他社とも連携して業界全体でSAFを利用するのが当たり前の時代を作っていきたいですね。
金子:SAF導入のプロジェクトは目標達成で一旦終了しましたが、やはり継続して使っていかなければ意味がありません。私たちは事業を行うだけでなく、航空機を飛ばす会社として環境をどのように意識し保全に貢献していくか考え、取り組みを進める必要があります。
SAFの利用をはじめましたが、いずれはSAFを使わなくても電気や水素で飛ぶ航空機が出てくるかもしれません。また新しい世界が見えてきたら、その実現に向かっていきたいなと考えています。
森重:私もすでに、SAFの次の段階としてどのような機体を導入できるのか、エコにどうやって貢献できるのかを調べているところです。また、私は釣りが好きなので、自然を大事にしていきたいという想いは強く持っています。
弊社だけでなく業界全体がSAFの利用を進めるなどして、CO2排出量を減らし環境保全に貢献していく必要があると思います。弊社は業界をリードしながら、対策を実施していきたいですね。
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