もの作ることが好きだった幼少時代
今井は、子どものころから図画工作などでものを作ることが好きで、お小遣いでよくプラモデルを買って作っていました。
今井 「プラモデル以外にも、小さいころからいろいろなものを作っていました。自分のイメージしたものが実際に形になることがうれしくて、時間があれば家にあるもので創作を始めていました。
とくに、中学の美術の授業で、ことわざをもとに粘土細工を作る課題があったことが印象に残っています。『キジも鳴かずば撃たれまい』ということわざから、キジを作ったのです。高い評価を受けて、学校に飾られました。みんなから、『上手だね』『すごいね』といった称賛の言葉をかけてもらい、嬉しかったことを覚えています」
ものづくりの情熱は高校時代も衰えず、大学進学の際には、建築関係の学科か機械関係の学科かで迷い、機械工学科を選びます。
今井 「すごく迷いましたが、ものが動くことへの興味と機械へのあこがれから、機械工学科を選びました。ただ、悩んで決めた学科だったのですが、実は大学時代はあまり勉強せず、演劇に没頭していたのです。学園祭や小劇場を借りての公演は楽しかったですね。
目立つことが好きだったので役者もやりましたが、ものづくりに関係することで言えば、大道具を担当したことも良い思い出です。出演している役者が、私の作ったパネルを見て『これはテンションがあがる!』と言ってくれたのです。ものづくりの腕が認められ、仲間の役に立てたことが嬉しかったですね」
就職後1年で離職、専門学校を経てアビストへ
就職活動では、大学の専攻を活かすことができ、ものづくりに携われる会社を中心に応募。そして美術の展示用ケースを制作している企業から内定をもらいます。
今井 「大学時代に演劇で大道具制作に力を入れていたこと、美術品が好きで商品が親しみやすかったことから、美術品の展示ケースや金物加工を行っている会社に就職しました。
仕事内容は、2D-CADでの設計や現場への商品搬入、設置です。ただ、さまざまなタイプの注文に応じるため残業も比較的多く、体力的な限界を感じて、約1年で退職しました。
退職後は、スキルアップのため3D-CADを学べる専門学校に入学。大学時代よりも目的意識が明確だったこともあり、勉強にも力が入って、3次元CAD利用技術者試験1級など3つの資格を取得しました」
そして、専門学校時代に、2度目の就職活動を開始します。
今井 「2度目ですから、働くことに対してより具体的なイメージを持ちながら会社を選ぶことができました。専門学校で学んだ3D-CADを活かし、設計業務に携われる会社を軸に探した中で、アビストは説明会の場でランプの実物を見ることができ、具体的な仕事をイメージすることができました。
また、プロフェッショナル技術者として顧客企業に常駐して働くだけなく、受託業務として社内で製品の完成まで責任を持って行う仕事が多いことも魅力でした。加えて、自動車を中心に電気・情報分野も手がけているので、幅広い製品に関わることができそうな点にも惹かれました」
アビストに入りたいと決意を固めた今井は、採用試験を通過し、2018年に入社します。
バイクのランプ設計からプラモデルの設計へ
入社後は、約1カ月の集合研修を経て、バイクのランプ設計を担当する部署に配属されます。念願かなって3D-CADで設計を行うことになりますが、思うようにいかないジレンマもありました。
今井 「専門学校で勉強していたものの、学校の課題とは複雑さがまったく異なり、とても難しかったことを覚えています。ランプはなめらかな曲面を作ることが必要ですが、それを3D-CADで作るためには、かなりの技術が必要だったんです」
自分の設計開発したランプが形になっていく仕事にやりがいを感じていた今井。入社3年目には、玩具メーカーを担当する部署へ異動になります。
今井 「異動先は、玩具の中でも主にプラモデルの設計をする部署。今までも何度か手伝ったことがあったのですが、私が小中学生のときによく買って組み立てていたプラモデルの設計開発ができることに、とてもワクワクしました。
樹脂設計である点はランプの設計と同じなので取り組みやすかった一方で、大変だったのは開発スピードに慣れること。ランプの設計は、1年くらいかけて1つのプロジェクトを行うことが多いのですが、玩具の場合、基本的に1つのプロジェクトにかかる期間は2~3カ月。場合によっては1カ月ということも。その中でデザイナーや作者も含めた担当者とのやりとりも出てくるので、短時間で対応しないといけません」
関係者が増えることで、完成イメージの共有なども重要になってくると言います。
今井 「まずは、キャラクターや衣装のデザインイラストや図面から3Dの立体画像を作ります。ところが、正面、後ろ、横など何枚かのイラストから立体にしていくため、整合性が取れなくなる場合があるんです。そのときは、どういうところにこだわりたいのか、かっこよさなのか、かわいさなのか、体の動き方なのかといった作り手の意図を考えるようにしています。
担当者やイラストレーターが納得するまで修正を繰り返し、OKをもらえたらプラモデルとして組み立てられるようにパーツとして分割。たとえばAさんは頭と腕、Bさんは胴体といったように、担当を分けて一つひとつのパーツを作成していきます」
スケジュールがタイトな中、難しい修正対応を迫られることもありますが、この仕事のやりがいは実際の商品が店頭に並ぶことだと今井は話します。
今井 「締め切りに追われながら、何度も修正し、苦労して作った商品が、半年から1年後に店頭に並んでいるのを見ると、嬉しくて今までの苦労が吹き飛びますね。自分で購入して、『かっこいい!』と悦に入ることもあります。『ここはこうすれば良かった』など反省点が先に浮かぶこともありますが、どれも一つひとつすべてが自分の子どものように思えるんです」
後輩を育成して大きなプロジェクトを成し遂げたい
現在、顧客企業との窓口も任されるようになった今井。さらにお客様から信頼されるよう、責任を持って役割を果たしたいと話します。
今井 「直接お客様と対話する機会を増やし、これまで以上に信頼してもらえるようになりたいと思います。
また、リーダーをめざし、後輩の育成にも取り組んでいきたいと考えています。規模の大きな案件は数人のチームで対応する必要がありますが、その際に後輩の教育や業務の割り振りを行いながら、プロジェクトの成功をめざします」
より大きな視野で自身の仕事を見るようになった今井は、これまでの経験を踏まえて、設計業務に携わりたいと考えている人に知っておいてほしい考え方があると続けます。
今井 「これから設計技術者をめざす方には、与えられた業務に対して『なぜこの業務や作業が必要なのか』『全体の中での位置づけや意味は何か』『この業務を行うことによって、どのようなメリットがあるのか』を考えてほしい。そうすることによって、設計の知識がさらに増えていきますし、仕事の理解も深まります。
私も昔は、言われたことをそのまま実行していました。しかし、業務の意味などを考えることによって、自分に何が求められているのか気づくことが増えました。自分の役割を認識することで、やりがいを持って業務に関われるのではないかと思います」
今でも、そしてこれからも、今井が設計したプラモデルは店頭に並び続けます。夢と想いをのせて──。
※ 記載内容は2023年4月時点のものです