AI領域で、開発者体験の最大化を目指す
丸山がアビストでAIソリューション事業を立ち上げたのは、2019年。ビッグデータによる機械学習やディープラーニングの実用化を経て、この業界でも各社がAIの事業活用に力を入れ始めたころのことでした。
丸山 「当時、AIという言葉が世の中でよく使われるようになっていました。『この技術を使えば、お客様により貢献できるようになるかもしれない』という期待から立ち上げたのが、AIソリューション事業。アビストには全体で1200名を超える社員がいますが、まずはエンジニア4人と私の計5人で、AIのスタートアップ企業の研修を受けるところから始めました。
アビストは、創業社長の進が新しいことに積極的であるからか、もともとチャレンジが好きな会社なんです。新しい事業に対する風当たりや抵抗感のようなものは、まったくありませんでしたね」
2022年8月現在、メンバー数は12名となり、アルバイトの学生も活躍しています。その中でリーダーの丸山が担うミッションは、スタート時から一貫して事業の立ち上げ。自身はエンジニアではないため開発には参加しませんが、クライアントへの事業紹介や、展示会の準備といった業務を担当しています。
丸山 「部署立ち上げ当初から意識しているのは、エンジニアファーストであることです。いま“DX”と聞くと“Digital Transformation”を連想する方が多いかもしれませんが、私が担っているのは“Developer Experience=開発者体験を最大化する”こと。
エンジニアがやりたいことを基盤に事業を立ち上げていきたい——その一心でここまでやってきました。それがいま、AR領域で少しずつ市場に受け入れられてきていると感じています」
XR総合展で感じた手応え。競合も注目する、正確な位置合わせ技術
アビストが手掛けるAI事業の中で、とくにクライアントからのニーズが集まっているのがAR技術の活用です。アビストでは独自アルゴリズムに基づいて、現実と仮想コンテンツを高精度で重ね合わせる技術を開発。現在は主に建設業・製造業(メーカー)向けに展開しています。
丸山 「CADを使った設計はメーカーにかなり普及していますし、建設業界でもBIM(Building Information Modeling)による3D化の動きが広まっているんです。3Dで設計するだけでなく、でき上がりが設計通りかどうか、現実に3Dモデルを重ね合わせて視覚的に確認したい、というニーズが生まれています」
このニーズに応えるには、アビストが誇る“高精度な認識技術”がカギになり、産業のあり方を変えうると、丸山は考えています。
丸山 「産業用途となると、狙った場所にぴたりと置かないと意味がありません。しかし、位置合わせの技術については、世の中にあるライブラリを使ってもそれほど精度が出ないのが現状です。当社は独自の認識技術を使うことで、正確な空間認識・位置合わせを実現しています。
最初は私たちもこの技術が何に活かせるか見えていなかったのですが、HoloLens2(Microsoft)が出て、iPadなどにも空間認識センサーが搭載されるようになりました。こうしたデバイスの進歩と、社内のエンジニアの知見が蓄積してきて、『3Dモデルを現場に置くには、こうしたら良いですよ』という答えが出せるようになってきたんです」
ARを使ったソリューションを提供し、徐々に事例を増やしていった丸山たちは、2022年夏、満を持してXR総合展に出展。周囲からの大きな反響を得て、この技術の可能性を確信したといいます。
丸山 「展示にあたって、私たちは3つのアプリケーションを用意しました。現場で空間を認識し、3Dオブジェクトを置けるARレイアウトアプリ。現物を認識し、3Dモデルとの差を出せるAR差分表示アプリ。そしてもうひとつが、3DCADデータを使って、教育コンテンツを作成できるAR教育アプリです。
たとえばARレイアウトアプリでは、仮想の配管で干渉を確認したり、仮想の設備で配置を確認したりすることができます。AIやARという新しい技術が、現場でどう役立つのか?何を解決するのか?をわかりやすく具体的に伝えることにこだわりました。
加えて、『設計や検査を変えますよ』とうたった結果、ターゲットである建設業・製造業のお客様が数多く足を運んでくれました。お客様からは『精度の高さをウリにしている企業はほかにない』という声があり、私たちの強みを伝えられたなという手応えがありました。また、業界にとってはARソリューションの取り組みそのものが、まさに注目すべき動きなのだと確信しました」
“請負”以外のソリューションが、アビストの可能性を広げる
これまでは、設計の請負や技術者派遣を主幹事業としてきたアビスト。AIソリューション事業を立ち上げたことで、顧客との関係性にも変化が生まれています。
丸山 「いままで当社は、設計分野のアウトソーシング先でした。しかし今回独自のソリューションを用意したことで、これまで顕在化していなかったニーズの掘り起こしにもつながると思っています。
たとえば、既存事業のエンジニアは基本的にはクライアント先に常駐していますが、お客様にARソリューションの話をするとかなり良い反応があるようなのです。そこから『こんなことってできる?』『ほかの部署でも話を聞きたいんだけど』というコミュニケーションが増え、プロジェクト化につながっています」
丸山が見据えるのは、ARの認識技術の高度化。そして、設計のDX(開発者体験)のアップデートです。
丸山 「3DCADデータとARで使う3Dオブジェクトのデータは、同じ3Dではありますが、中身はかなり違います。そのため、CADからAR空間へデータを移す際に、正確にインポートする必要があります。AR空間にインポートされたデータに修正やレビューが入ったら、AR空間から再度CADに戻す。CADとAR空間をサイクルとして回すようなソリューションを打ち立てられたら、他社にはない、当社独自のサービスが確立できると思います。
そして、そこに関わることが当社のエンジニアにとっての価値となり、モチベーション高く仕事に取り組める環境を作りたいと考えています」
チームで取り組むことで、ひとりでは辿り着けない新しい領域へ到達できる
アビストの新たな可能性を提示し、社内外から期待を集めるAI×ARのソリューション。それを手がけるのが丸山率いる開発チームであり、新しい技術を扱うがゆえ、メンバーは簡単に答えの出ない課題に日々向き合っているといいます。
丸山 「まだ世の中にないことに取り組んでいるので、検索しても答えが出てこないんですよね。最終的に学術論文にたどりつき、読み解いて、『この部分を試してみよう』とか、そういったことをずっと繰り返しています。大変だろうとは思いますが、当社の開発者たちには、それを楽しんでいるような節もあって。
また、現在はフルリモートワークを取り入れていますが、常に孤独な仕事というわけでもないです。AIやARの技術に的を絞って開発していると、皆おのずと似たようなところで詰まるようで、オンラインで『ここはどうしてる?』『そこはこうしたら良いよ』というコミュニケーションも生まれています」
ひとりでやれることは限られている。チームで取り組むことで、ひとりでは到達できない新しい領域に到達できる──技術者たちをまとめる丸山のそんな言葉が、部署のカルチャーを象徴しています。
丸山 「仕事に関係なく、ARアプリをみんなで試して、ばかばかしいものでもいいから何か作ってみようという動きもあります。やっぱりエンジニアの集まりなので、プログラムを通して会話をするようなコミュニケーションは盛り上がりますね」
今後各社で、人材獲得競争が激化するであろうAIソリューションの分野。求める人材像について、丸山はスキルよりもマインド面が大切だと話します。
丸山 「答えがないことに取り組むので、先が見えない中でも進んでいけるメンタリティが必要になります。いま活躍しているメンバーを見ていても、経験やスキルは皆バラバラ。でも課題や技術に向き合うことを楽しめる人が、このチームにはフィットするだろうなと思いますね」
最後に、AIやARの技術で実現したい未来について、丸山はこう語ります。
丸山 「ひと昔前、スマホのカメラで街の空間を認識して、画面上にその場所や建物のタグ(情報)を表示・共有できるアプリケーションがあったんですよ。ものを調べるとき普通は検索エンジンを使いますが、そのサービスはテキストや音声で入力しなくても、目で見るというごく自然な動作で必要な情報が手に入る、ということですね。
10年以上前にそんなことを考えたなんてすごいなと思うのですが、ある意味、私たちもそこを目指しているのかもしれません。たとえば3DCADのデータを現物に重ねたとき、『ここが違っているよ』とアラートが上がるとか、何が違っているのか教えてくれるとか。AIによって精査されたその瞬間に必要な情報を、より簡単な動作で提供する──そんなサービスを実現できればいいなと思います」