変わりゆく音楽のビジネススキーム。デジタル配信が秘める可能性

▲マーケティングクリエイティブ本部デジタルマーケティング部2Gマネージャー・石井 慎一。今まさに変化している音楽配信ビジネスと向き合う毎日だ

石井 「音楽のビジネススキームがどんどん変わって行く中で、デジタル配信は今後、さらに重要になっていく可能性を秘めたセクション、ジャンル。そこを任されていることにはやりがいをものすごく感じています。
そもそも僕がこの部署に来る前からOfficial髭男dism(以下ヒゲダン)とストリーミング会社との関係性はできていたので、自分が入って急に何かが変わったわけではないんです。元々あった繋がりの中で更に大きな取り組みをさせていただけることになり、ヒゲダンのデジタル担当という形で携わった、という感じですね。とにかく“最大限”できることを“常に”やっていきたい、と考えながら仕事に取り組んでいます」 

そんな石井は、2004年に新卒でポニーキャニオンに入社。エンターテイメント業界への憧れを抱いたきっかけは、高校時代からのサッカー仲間である親友が音楽の道を志していたこと。その影響で石井もギターの弾き語りやピアノを独学し、大学生になると親友の父が経営するライブハウスに出演するようになります。 

石井 「毎週水曜日はビートルズ・セッションデーで、いろいろな業界の方々がビートルズの演奏で出演するので、僕もひたすら一緒に歌ったり、ギターを演奏したりしていたんです。そんな中、プレイヤーへの憧れというよりも、何か表現をする人たち、音楽やエンタメにまつわるいろいろな大人たちと接したことで単純に“楽しそうだな”と思い始めました。
自分にできることで言うと、“こういう音楽をつくりたい!”というよりは、“表現したい”人を手助けできるような仕事に就きたいな、と思うようになったのが発端でした」 

就職活動はレコード会社などに的を絞り、唯一受けた音楽関連以外の業種はビール会社1社。ポニーキャニオンには当時インターン制度がありましたが、「インターンをしている時間がもったいない」と判断した石井は、面接だけの採用ルートを選択。狭き門をくぐって入社を果たしました。

地方支社からスタートしたキャリア。 A&R、K-POPチームで得たスキル

▲「K-POPチーム時代、アーティスト写真を撮影するときにポーズのアドバイスをしてたんですが、まさか自分がカメラのこちら側に立つとは思いませんでした(笑)」

「 A&Rの部署を漠然と志していた」と入社当時を振り返る石井ですが、1年目は名古屋勤務となり、まずは営業職からキャリアをスタート。ヴィレッジヴァンガードや書店、赤ちゃん用品専門店など、CDショップ以外の取引先にCDを売り込む業務を担当していました。 

石井 「その1年間はすごく楽しかったですね。北陸に毎月出張して、そこでおいしいお酒を覚えさせていただいて(笑)」 

翌年には東京へ転勤し、メディア開発室に配属。当時はスマートフォン時代到来前夜であり、モバイルコンテンツとして大きな市場を形成しつつあった「着うた」サービスなどに石井は関わります。 

石井 「当時ウェブ専門のセクションはまだ立ち上がったばかりで、部ではなく室でしたし、音楽のデジタル配信はもちろん主軸ではありませんでした。当時はそこで“音楽のこれから1.5歩先”くらいを考えながら仕事をするスタンスを学びました」 

2007年からは念願だったA&Rに配属。アーティストと直に関わる部署は入社して初めてでした。iS Roomにアシスタント的ポジションで加入した石井は、右も左も分からない中OJTで全てを体得していったと言います。 

石井 「チームとしてはかなり少ない人数で大きな仕事を動かしていたので、全体像も見られたし、僕ができていないところはすぐに指摘してもらって一つ一つ仕事を覚えることができました。最初の段階で良い環境に置いてもらったと思います。しかもaikoというメガアーティストを担当しているチームなので、様々な現場を経験できましたし、そこで広い視野を身に着けることもできました」 

A&Rの部署に身を置きながら、石井は自身のやりたいこと、特性を更に具体的に見定めていきました。 

石井「A&Rには、どちらかというとディレクターみたいな“この音をつくりたい”という制作志向の人と、アーティスト担当的に“宣伝をしたい”人がいるのですが、自分はどちらかというと宣伝をしたいほうだったんです」 

2009年以降はプロモーター業務を軸足としつつ、時にはその一環として、デジタル部署にも再び携わるようになります。更に、雑誌の表紙掲載などのタイアップを獲得するなどプロモーターとしての敏腕ぶりを認められ、K-POPチームに招き入れられ、BTS(防弾少年團)やチャン・グンソクというアジアのトップスターを担当する思いがけない展開に。 

石井 「自分は“この音楽をつくりたいんです!”というタイプではないですし、仕事が広がることで新たな世界を見させてもらえるのは面白いし、僕にはすごく合うんですね。K-POPに関わる中では、世界に出て行くクリエイティヴのつくり方、SNSの運用の仕方など間近で見ながら“すごいな”、と同時に日本のクリエイティヴでも“何かやらねば”と感じていました」 

当時は、韓国に月3、4度渡航する生活。韓国サイドとのやりとりを重ねる中で、痛感したことがあると言います。 

石井 「人と人の関わり合いの中で、韓国の歴史、日本の歴史、そして双方の文化についてちゃんと勉強しないといけない、と度々感じました。韓国には韓国の考え方があって、日本には日本の考え方がある。飲みながらほんとにいろいろな話をしましたね」

レコード会社の枠組みを超えたトライアル。画家・笹田 靖人との出会い

▲社内にあるイベントスペースもコロナ禍のこの2年間、撮影でしか使用されてないのが寂しい限り

2017年からは、画家・笹田靖人のプロジェクトにも取り組んでいます。レコード会社のラインナップに画家が名を連ねるのは異例のこと。その発端もまた、思いがけないところにありました。 

石井 「笹田 靖人プロジェクトを一緒に始めたのが、BTSを以前一緒に担当していた社外スタッフの一人なんです。その人と話していたのが、“自国のものが世界に通ずるっていいな”“日本のコンテンツでもそういうものを生み出せるといいよね”ということで。アニメ以外に世界で展開できる新しい何かを見つけられないだろうか?と探していた時に出会ったのが、笹田 靖人さんの絵だったんです」 

初期段階では、笹田氏の絵をミュージシャンの作品の“アートワークに取り入れる”という枠組みで捉えていた石井。しかし次第に笹田 靖人という人物、その人への興味を深め、対面後に大きな意識変革が起きるのです。 

石井 「もちろん笹田さんの絵はすごいんですけれど、彼自身が持っている熱量とか精神が音楽のアーティストと似ているな、と思って。“あ、この人を売り出せばいいんだ”と気付いたんですね。彼の個展は、ただ展示を静かに見ていくのではなく、笹田さん本人が作品についてひたすらしゃべるんです。絵と自分の言葉とで作品が完結すると感じている人で、それが音楽で言うとライブに似ているな、と。
だったら僕たちが持っている音楽のプロモーションのノウハウを活用できるし、彼のクリエイティヴと掛け合わせたら今までにはない面白いことができるんじゃないか?と。会社も“音楽の部署で画家を手掛けるなんて”、と止められることもなく、“どんどんやろうよ!”と受け容れてくれて、プロジェクトがスタートしていきました」 

笹田プロジェクトに継続的に関わりつつ、2020年にはデジタル配信グループのマネージャーに就任。「着うた」サービス全盛期には国内向けだった音楽配信サービスが、外資系企業の参入により状況が一変しています。 

石井 「以前携わっていた時に比較して、楽曲を全世界に向けて容易にリリースできるようになり、目指すべき市場が格段に広がっています。日本のコンテンツをもっと海外に広めたいですね。また世界に挑戦する上で、ポニーキャニオンは音楽だけの会社じゃないんだ、というのは大きなメリットです。
中でもアニメは海外ユーザーにポテンシャルが高く、ものすごく大きな起爆剤になるので、いろいろなことができるのは強みです。そして今は、海外で勝負できる、アニメの“その次”をつくらなければいけないな、とも思っています」

デジタル戦略で大切なのは、数字と熱量。チャレンジできる社風を愛し18年

▲これまでのキャリアを振り返りつつ静かに話すが、怒涛の日々が偲ばれる濃い内容だ

会社の未来を担うデジタル配信チームを束ねる立場として、データはもちろん重要。「統計学などが得意な理系の学生さんも、スキルを活かせるんではないでしょうか」とアドバイス。そして数字と同じぐらい大切にしているのは、生身の人間が放つ熱量。現場で叩き上げられてきた石井の原点がそこにあります。

石井 「コロナ禍という要因もあるし、そもそもデジタルの領域というところで、机上の空論とまでは行かないですけれど、どうしてもデータを机の上で見て考えがちになってしまう部分はあるんです。でも、数字上で出た結論を実際にアーティストや作品にどうマッチさせていくか?がものすごく重要だと思っています。
そのためにはやはりアーティストのことを知らなければいけない。聴いてくれるのはまずファンの方たちなので、ライブを観て、“ファンの人たちはどういうことをすれば喜んでくれるのか?”ということを考えねばなりません。
そのためには “生” で熱量を感じないといけないな、とつい最近も思っていたところです。デジタルで仕掛けたい企画があったんですが、どうしても机の上で考えたつまらない案しか出て来なくて。アイディアが欲しくて以前担当していたアーティストのライブを観に行きました。担当時代も含めもちろん数えきれないほど観ていますが、あの熱を改めて感じたことで、アイディアを絞り出すことができました」 

勤続18年目。生え抜きの社員である石井は、ポニーキャニオンを「何でもチャレンジできるのがすごく面白い会社」だと評します。 

石井 「自分以外の社員を見ても、例えば地域活性化事業という新しい分野での取り組みでは、音楽・映像ではない事業をどんどん立ち上げて形にして、単純にすごいなと思います。CDのように“100万枚売れたら何億円の売り上げになる”という計算ができる事業ではないですし、でも今や国とも大きな仕事をしていて、“エンタメ×地域”の第一線を張るプロジェクトになっています。
ポニーキャニオンはいろいろなチャレンジができる社風だと感じます。僕も、笹田さんのような新機軸のアーティストを担当させてもらっているのをありがたいと感じていますし、その分ちゃんと結果を出さないといけないなと思っています」 

最後に、石井がポニーキャニオンで一緒に仕事をしてみたいのはどんな人か?と尋ねると、こんな答えが返ってきました。 

石井 「なんでも楽しめる人……ですかね?その一方で、好きなものをとことん貫いている人もすごいなと思います。そういう人がすごいコンテンツを生み出して、それを一緒になって楽しみながら可能性を広げていくことができる会社だと思います」  

キャリアを辿りながら石井は、どんなエピソードも「楽しかった」と笑顔で振り返っていたのが印象的でした。更なるイノベーションが望まれるデジタル配信の分野で、石井はきっと何事も楽しみながら、ポニーキャニオンならではの戦略を打ち立てていくことでしょう。