吹奏楽に打ち込んだ日々は、かけがえのない財産

▲ミュージッククリエイティブ本部A&R1部・小西 隆之。見た目はスポーツマン!?実はトロンボーン奏者だったり指揮者だったり

IRORI Records(イロリレコーズ)の制作A&R、プランナーとして、有望な才能を世に大きく羽ばたかせるべく指揮を執る小西 隆之。吹奏楽との出会いが、すべての始まりでした。 

小西 「僕は見た目でスポーツマンに見られることが多いんですけど(笑)、実は小学生の頃から大学卒業まで吹奏楽をやっていて、金管楽器のトロンボーンを担当していました。チームのメンバーが気持ちをひとつにして音を重ねていく、そこに他では得られない楽しさや喜びを見出したんです」

好きが高じて、高校は吹奏楽の強豪校である男子校に進学。フォーメーションを組んだり、ドラムライン、旗で演技をするカラーガードなどと合わせてパフォーマンスをするマーチングという演奏形態で、地元・福岡から全国大会を目指すことになります。

小西 「正月以外は朝5時半に起床して朝練に行き、放課後は22時くらいまで練習に明け暮れる日々でした。振り返ると、よく体力がもったな、と思うんですけどね。当時は大変だなんて少しも感じなくて、とにかく毎日が楽しかったし、充実していたんです。その結果、全国大会で金賞を獲得することができました。あの感動、嬉しさは生涯忘れないです」 

ひとつの頂点を極め、「吹奏楽やマーチングに関してはもう燃え尽きたかな、と思っていた」と言う小西。しかし、大学入学後、高校の先輩が新たに立ち上げたマーチングバンドに誘われ、今度は指揮者としてチームを牽引することになります。

小西 「曲のリズムを示したり、練習時にはバンドの指導を行ったり、先頭に立ってすべてをまとめるのがマーチングバンドの指揮者の役割。チームをまとめることの難しさを感じながらも、次第にその醍醐味がわかっていき、活動2年目にしてマーチングバンド全国大会の一般の部に出場、さいたまスーパーアリーナのステージに立ちました。仲間と一緒に苦労も喜びも分け合った日々は、自分にとってかけがえのない財産です」 

小西にとって、音楽は自分の人生を豊かに、鮮やかに彩ってくれるもの。就職活動を始めるにあたり、音楽に携わる仕事を意識するようになるのは、自然の流れでした。 

小西 「全国大会の舞台などを通して味わった感動が忘れられなくて。次第に音楽を仕事にするっていうことを意識し始めました。学生の自分がこれだけの大きな感動を味わえたのだから、プロとして音楽をやっているひとたちはどんな感動を味わっているんだろうと興味が湧いてきたんです。

そんなことを考えている中で、音楽に携わる仕事といえば、レコード会社があるじゃないかと。大学までずっと福岡で過ごしてきた自分にとって、レコード会社は身近な存在ではなかったし、レコード会社に就職したり目指したりするような先輩や友人もいなかったので、なかなかイメージが湧かなかったんです。

言葉は悪いのですが記念受験くらいのつもりで、駄目だったら音楽業界への就職はすっぱり諦めようとポニーキャニオンの入社試験を受けました。そしたら奇跡的に受かったんです」

日本を代表するコンテンツとの出会い

2011年に入社し、まず配属されたのは、希望していた音楽の部署ではなく大阪営業所。レコード会社に入社すれば、所属アーティストに直接関わってライブ会場に出向いたり、テレビ局やラジオ局で収録に立ち会ったり、そんな華やかな日々が待ち受けているかと思っていたのに現実は違いました。しかし、そこで発動したのが、持ち前のポジティブシンキングです。 

小西 「学生の頃は週に3日バイトするのもめんどくさいな、と感じていた自分としては、毎日働くという社会人として当たり前の日々に慣れることさえ、最初は大変でしたね(苦笑)。 

そして、CDショップやレンタル店を地道に回り、自社のCDやDVDなどの商品をプロモーションするというのが自分の役割。正直言って、東京勤務になった同期が羨ましいな、という気持ちもありましたね。

でも、現状を楽しまないと損だし、自分のやるべきことに全力で向き合おうと開き直りました。大阪ならではの人情に助けてもらいながら、2年の月日があっという間に過ぎていきました。今思えばめちゃめちゃ楽しんだ2年間でしたね(笑)」 

入社3年目、転機は突然訪れます。アニメクリエイティブ本部に異動し、東京勤務になったのです。 

小西 「実を言うと、それまであまりアニメ作品に触れたことがなかったので、異動した当初は右も左もわからず……戸惑うことばかりでした。そんな中最初に担当することになったのが、『進撃の巨人』で。プロモーションやプランニングのアシスタントとして、国内外から注目を浴びる作品にいきなり関わることになったんです」 

アシスタントとして経験を重ね、『進撃の巨人』の“Season 2”終了後には宣伝プロデューサーに着任。『進撃の巨人』のほか、京都アニメーション制作の『響け!ユーフォニアム』なども担当することになりました。

アニメの放送に合わせ、どのタイミングでどういったプロモーションを仕掛けるかなどを考えプランニングし、作品に関連するプロモーションの考案、イベントの企画運営を手がけるなど、自らが舵取りをすることになります。 

小西「初めの頃は、作品の重圧や、人気コンテンツの規模に合わせた新たな宣伝手法を考える上での悩みもやはり多く、この仕事は自分に向いてないんじゃないかなって悪戦苦闘してました。

そんな時期に出会ったのが、吹奏楽を題材にした『響け!ユーフォニアム』でした。『進撃の巨人』は僕を育ててくれた作品で『響け!ユーフォニアム』は、僕を救ってくれた作品という感じでしょうか。自分の学生時代の経験も相まって、宣伝マンとしての仕事の幅を広げてくれた出会いだったし、作品たちとの出会いを通して、この仕事面白いぞって実感するようになりました。 

『進撃の巨人』を例に挙げると、会社を代表する、もっと言うと日本を代表するコンテンツでもあるだけに、絶対に失敗できないというプレッシャーが常にあって、壁にぶつかることも多々ありました。

でも、作品やそれにまつわるイベントに対して反響があればあるほど大きな達成感を得られるし、それほどのコンテンツを自分が動かせるなんて、なかなかできることじゃない。アニメの部署に配属になるまではあまり通って来なかったジャンルの業務でしたが、せっかくの貴重な機会、全身全霊で楽しまないと損だなと思うようになったんです」

成功の秘訣は、“駄目でもともと”な突破力

▲頭だけで考えても何も始まらない、当たって砕けろ精神が『進撃の巨人』のプロモーションを日本から海を越えてワールドワイドなものにしたのです!

素晴らしい作品をひとりでも多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいのか。知恵を絞り柔軟な思考で小西が編み出した型破りな戦略は次々と功を奏していきました。

小西 「ベーシックな宣伝をしっかりやることは勿論なのですが、より多くの人に『進撃の巨人』を知ってもらうために、何か面白い仕掛けができないかなと考えるようになりました。

何個か例を挙げると、2017年にはティーン世代を取り込めるようTGC(東京ガールズコレクション)とコラボレーションして、タレントさんやモデルさんに「進撃の巨人」の世界観をコンセプトにした衣装を着ていただいてランウェイを歩いてもらいました。

2018年には東京ヤクルトスワローズvs読売ジャイアンツ戦の始球式、2019年には海を渡ってアメリカ・ロサンゼルスのドジャー・スタジアムで行われたロサンゼルス・ドジャース vs サンディエゴ・パドレスの始球式に“巨人くん”という宣伝キャラクターを登場させ豪速球始球式もしましたね(笑)。

当時ドジャースには前田 健太選手も在籍していたので球場でコラボも実現できました。結果多くのニュースに取り上げられ、ジャンルの壁を越えて『進撃の巨人』をプロモーションすることができたと思います。

ファッション業界や野球業界にはなんのツテもパイプもありませんでした。でもチャレンジしてみないとわからないし、頭だけで考えても何も始まらないので、当たって砕けろ精神で飛び込み営業しましたね(笑)。まあ提案するのはタダだしなと思って、MLB JP.(メジャーリーグベースボール)にひとりで乗り込んで何度もプレゼンしたりもしました。

とにかく、その時のプロモーションにおいての課題をどんな方法でクリアしていくか、型にはまらない考え方で試行錯誤いろいろ試していく日々でした。

その中でも自分はたまたま担当になっただけで、別に自分が凄いわけでもないっていうことは常に頭にありました。コンテンツの力、影響力に多くを救われたし、学ばせてもらったんです。突拍子もないことばかりやることが正解ではないと思いますが、とにかく自分の力、持ち味が作品にどれだけプラスを生み出せるかは人一倍考えました。その結果の行動だったと思います」

豪胆な発想力と決断力と行動力。それは、小西の強みです。ただ、その前提には、俯瞰の視点と深い思慮があります。

小西 「常日頃作品のプロモーションを行う上で、公式アカウントからツイートひとつ投稿するにしても、作品に傷をつけることがあってはいけないという緊張感はいつもあります。

宣伝効果をすべて可視化するというのは難しいし、絶対の正解はないだけにプロモーションは試行錯誤の繰り返し。普段目にするもの、何気ない会話から閃くこともあるので、常にアンテナを張っておくことを心がけながら物事を俯瞰して見るということもプランニングにおいては大事だと思います」

アニメと音楽、両方のヒットコンテンツの景色を観てみたい

▲身長185cm。「撮られる側になるとは……」が正直な感想。6月23日にkroiのMajor 1st Alubun、5月23日にhomecomingsのメジャーデビューアルバムがリリースされたばかり。多忙な中でのインタビューとなった

2020年6月には、ポニーキャニオン内で立ち上がったレーベル・IRORI Recordsに異動。入社当初に希望していた、音楽部署です。

小西 「『進撃の巨人』『響け!ユーフォニアム』などといった思い入れのある作品から、担当としては卒業しなくてはいけないという寂しさ、心残りはありました。一方で、学生時代から生活の中心にあった音楽にいよいよ仕事で関わることになり、心機一転、また新しいジャンルに挑戦できるというワクワク感がありました。 

ただ、実際にA&Rとして動き出してみると、エンターテインメントとして通ずるところもあれば、同じ会社でもアニメと音楽の部署ではこんなに違うのかという戸惑いも最初はあったんです。

レコーディング現場に行くというのがそもそも初めてのことで、金管楽器の演奏経験しかない僕からしたら、それこそバンドの機材に関しての知識量も圧倒的に足りませんでした。転職したようなレベルでゼロから勉強しなきゃいけないことが今もたくさんあります」

現在、小西が担当しているのは、ブラックミュージックをルーツとするミクスチャーバンドのKroiと、ギターポップが耳に心地いいHomecomings。次世代音楽シーンの担い手になるであろうアーティストたちと一緒に未来を描く日々は、刺激と高揚感に満ちているようです。

小西 「KroiもHomecomingsも、どちらも才能に満ち溢れたアーティストたちです。もっとたくさんの人に聴いてほしいし、そうなるべきアーティストたちだと心から思うんです。レコーディング現場で楽曲が生まれていく瞬間に立ち会い、ステージに立つ姿を間近で見るたびにその想いは強くなるし、音楽好きにとってこの上なく素敵な仕事ができている今に、感謝しています」

また、コロナ禍にあって活動内容やできることが制限されてしまう中でも、「それならそれで、その環境にいかに適応してそれをどう逆手に取れるか、ということを考えるのが自分の仕事」と言い切る小西。どんなことがあっても冷静に俯瞰し、最善策を見出す彼は、新たな道を切り拓こうとしています。 

小西 「Official髭男dismに続くような、音楽ファンに長く愛されるビッグアーティストを発掘し、育てるというのが僕の夢です。アニメのヒットコンテンツと音楽のヒットコンテンツ、どちらにも携わった人はそうそういないはずなので、どちらの景色も見てみたい貪欲な夢は持っておこうと思います(笑)。

これからは、アニメの仕事に携わった経験値を持つという強みを活かして、自分にしかできない音楽やアーティストとの関わり方で、その魅力を広めていきたいです」

「いつ死んでも後悔がないように、日々を生きる。良いことであれ悪いことであれ、起きる物事には必ず意味がある」

小西が自らの胸に刻むのは、その2つの信念。決して手を抜かず、どんな変化も受け入れていく日々が連なるその先には、きっと未だ見ぬ素晴らしい景色が広がっているはずです。