2022年6月17日より全国劇場にて公開された劇場OVA(オリジナルビデオアニメーション)『怪盗クイーンはサーカスがお好き』。児童文学の名手・はやみねかおるによる「怪盗クイーン」シリーズは、2002年に同作が発表されて以降、15巻を数え、累計発行部数120万部を突破している人気作。そんな本作をアニメ化につなげたのは、学生時代に愛読していたアニメクリエイティブ本部の山本 京佳と北川 温子。自らがファンだけに惜しみなく愛を注ぎ、その反面ビジネスとしての苦悩にも対峙したふたりが、完成にいたるまでの軌跡と今後の夢を語ります。

大人になって読んでもおもしろかった!入社してすぐに企画書を提出!!


──まずは、本作のプロデューサーである山本さんが、アニメ化を企画したきっかけとは?

山本 ポニーキャニオンに入る前まで遡るんですけど。本作と同じ「青い鳥文庫」から刊行されていた『若おかみは小学生!』のアニメ映画を友達と観に行って号泣するくらい感動したんです。そのときに、小学校の図書室で『怪盗クイーン』シリーズを読んでいたなと思い出して、すぐに電子書籍で購入したんです。大人になってもおもしろくて、むしろ歳を重ねたからわかることがあって、“なんていい本なんだ!”と改めて感じたんです。

──そういう経験ありますよね。

山本 当時、アニメ関連の仕事はしていたけど、アニメの企画や制作などに携わりたいと思っていた時期で。そこで将来そういう立場になれたら『怪盗クイーン』シリーズをアニメ化したいと決意したんです。

──では、そんな想いを胸にポニーキャニオンへ入社したんですね。

山本 そうです、無事にアニメクリエイティブ本部所属になりました。この部署は、若手社員もどんどん企画を出して、先輩方がバックアップするという方針だったので、“今だ!”と思い本作の企画書を提出しました。

──では、足掛け3年くらいかかっているんですね。

山本 当時の企画書を見ると今となってはお恥ずかしい内容ですけど、『オッドタクシー』プロデューサーの伊藤 裕史や、『Free!』プロデューサーの中村 伸一に「とにかく作品が好きなことは伝わったから、実現できるように頑張ろう」と言ってもらえたんです。そこから、部内で何度も何度も打ち合わせを重ねて、原作のはやみねかおる先生にご提案できるまでの形になりました。

──そこからはとんとん拍子だったんですか?

山本 そこからが大変でした。まず、児童書原作でビジネス的に成功しているアニメの前例が見つけられなくて。あとは、マーケティングがしづらく、学生のころに読んでいた大人の方が、今にいたるまで「この作品が好き」と発信していることが少なくて。現役の小学生もSNSをやっているわけでもないので、ファンの数字を可視化できる材料がなかったんです。

──確かにそうですね。

北川 部数としては、120万部以上出ているんです。ですが、図書館に入っていることが多いので、実際アニメ化されたときにどれだけの人が観てくれるのか明示するのが難しい、それだと稟議が下りないという八方塞がり感がありました。

山本 宣伝の北川に担当をお願いしたのも、私がデスクに本を置いていたら「すごく懐かしい!私、大好きだったんですよ!」と声をかけてくれたのがきっかけで。20代から30代の方はピンとくるんですけど、社内で決定権を持つ先輩方にはあまり知られていなかったのもハードルのひとつでした。

ご恩を少しでもお返したい!“はやみねチルドレン”だからこその取り組みとは!?


──おふたりにとって『怪盗クイーン』シリーズの魅力とは?

山本 児童書とはいえ、子どもながらにストーリーがおもしろくてスラスラと読めましたし、表紙や挿し絵もすごく印象が強くて、久しぶりに読んだときにこれこれ!って思いました。何歳になって読み返してもおもしろいんです。あとは、やっぱりクイーン自身の魅力ですね。

北川 クイーンの性格や、性別、年齢、国籍が謎なところと、取り巻くキャラクターたちの関係性に惹きつけられるのかなと思います。ストーリーだけを見ても、はやみね先生が教鞭を取られていたからか、作品ごとのテーマがしっかりしていて、背景や教訓など訴えかけるものがあるんです。そういう意味では、今作の映画ではイントロ部分が要注目です。

──確かに印象深いポイントでした。あと、上映時間が約60分というのもすごく観やすかったです。

山本 先ほどお話したようなビジネス的なハードルが高く、そんな中でもアニメ化するには、予算面でもやりくりが必要で、今回は60分尺で作ることになりました。なので、原作の一文一句すべてを映像化できたわけではないんです。細かいくだりがカットされている部分もあるんですけど、何度も脚本打ち合わせを重ね、はやみね先生にもご確認いただいて。泣く泣く削らざるを得なかったエピソードもありますが、本作のおもしろさは損なわないように、しっかりと作ったつもりです!

北川 私たちも作品のファンなので、全部はまだお話しできないのですが、そういった削らざるを得なかったポイントの補完ができて楽しんでもらえる企画を考えました。入場者プレゼントでは、はやみね先生にスピンオフとなるようなショートストーリーを書いてもらったほか、この後も準備しているものがあります。

──なんと!でも、そういうフォローができるのは、作品への愛があるからこそですよね。

北川 スタッフに昔からのファンが多いからこそ、みなさんに喜んでいただきたいと制作、音楽、宣伝など含めたスタッフ全員で考えながら取り組む座組みになったのかもしれないですね。

山本 そう、私たちは“はやみねチルドレン”ですから(笑)。先生に育ててもらったご恩を少しでもお返ししたい。あと、60分だと仕事帰りでも観に行きやすく、劇場では長編よりも上演スケジュールを入れていただきやすいというメリットもあります。

北川 今回は、劇場版OVA(オリジナルビデオアニメーション)でありながら、50館以上の劇場で上演できることになりました。規模としては、ありがたいことに大きいほうです。また、ビジネスの話になりますが、映画は上映直後のお客さんの入りがとても重要で。乏しくなったら、その劇場での上映が終了してしまいます。なので、公開したら最初の週末にファンのみなさんにはすぐに映画館に来ていただかなければならないんです。どの劇場作品でも公開タイミングはハラハラですが、今回必ず興行として成功させて、他の『怪盗クイーン』シリーズも映像化したいとスタッフ一同強い想いで取り組みました。先生にお会いするたびにその気持ちはより強くなりますね。

──そういうシビアな側面もあるのですね。

山本 ファンの方はもちろん、そうでない方にも何度でも足を運びたくなるように作品に隠れたネタを準備しました。何回観ていただいても楽しめるはず。

大和 悠河の存在が印象的だった!キャスティングのエピソードに迫る!!

──ちなみに、はやみね先生の印象はいかがでしたか?

山本 最初はオンラインでの打ち合わせでしたが、以前小学校の教師をされていたからか、久しぶりに学校の先生に会ったような懐かしい気持ちになりました(笑)。

──続いて、キャスト陣についてですが、クイーン役に大和 悠河さんをキャスティングされた経緯は?

山本 クイーンは年齢、性別不明だけど、優雅で美しくエンターテイナーなキャラクター。私の中では、宝塚のような羽を広げ階段を降りてくるイメージがずっとあったんです。以前、たまたま友人と『美少女戦士セーラームーン』のミュージカルを観劇したときに、大和さんがタキシード仮面役を演じていて、元宝塚で男役を演じられる方という印象が残っていたんです。そんな出会いから、企画書の段階でクイーンは大和さんにお願いしたいと書いていました!

北川 キャスト発表やキャラクター声付きの特報映像を公開したときに、ファンのみなさんから良い反響をいただけたので、さすが山本の見立てだなと思いました(笑)。大河さんは今回初声優ということで、アフレコの際ものすごく真摯に取り組まれていて。

──大河さんの声が、クイーンの華やかさに負けていないのがすごいと思いました。

山本 アフレコ現場に来られたときには、もうクイーンでしたよ。

──現場で印象に残っていることはありますか?

北川 役との切り替えのスイッチなのかなと思うんですけど、スタジオにスニーカーでいらして、ブースに入る際にヒールに履き替えられたんです。演技はもちろん、立ち姿もカッコよかったです。

──ジョーカー役の加藤 和樹さんについては?

山本 大和さんにクイーンを務めていただくなら、掛け合いにミュージカル的な華やかさもほしいと思っていて。そこで、ミュージカルも声の演技もできる方と考えたときに、浮かんだのが加藤 和樹さんだったんです。

北川 近い世界観を持っていて、声でも表現してもらえる方ってことですよね。あと、RDの声は実力派の内田 雄馬さんです。大和さん、加藤さんと作品全体の架け橋となってくださったと思います。

山本 はやみね先生も3人のアフレコを聞いて、「この声をずっと聞いてきたよな、と思うくらいすごくハマっていて良かった」とおっしゃっていたので嬉しかったです。

──主題歌は、ポニーキャニオンからデビューしたリトルブラックドレスが担当です。


山本 まず、私の中で歌い上げる女性アーティストにしたいというイメージがありました。それで、社内共創という背景もあり、まずは音楽の部署に相談してリトルブラックドレスさんの曲を聴かせていただいたら“いた!この歌声だ”とピンときました。

──実際に映像と音を体感してみていかがでしたか?

山本 原作自体は20年前に発行されたものですが、時代を限定しない世界観だと思うんです。その時代に捉われない魅力と、元は歌謡ロックというジャンルのリトルブラックドレスさんの美しい歌声がすごくピッタリで、とてもいい映像に仕上がりました。

2年に1回でもいい!子どもたちが劇場でクイーンと会える環境を作りたい!!

──では、最後に改めて本作の見どころを聞かせてください。

山本 やっぱり小説である『怪盗クイーン』シリーズが初めて映像化するっていうのを楽しんでいただければと思います。作品の魅力やクイーンの美しさは存分にエフェクトを使って表現しているので、お近くでまだ上映劇場があれば、ぜひ劇場で応援してください!

北川 私もそうなんですけど、色が鮮やかについて、音がついて、みなさんの中のクイーンが現実に現れる機会になると思います。とくに原作を読んでいた方は、劇場に足を運んで『怪盗クイーン』の世界を体感していただきたいです。

山本 あと、夢ではありますが、某名探偵シリーズのように毎年劇場公開されるようにしたいです。『怪盗クイーン』も長く愛され続けているシリーズなので、年に1回、いや2年に1回でもいいので、その時代の子どもたちが劇場でクイーンと会える環境が作れたらと思っています。原作はすでに15作ありますから。

北川 ファン目線でもありますが、アニメ化によって原作も盛り上がって、総合的に『怪盗クイーン』が世の中に広がっていくと嬉しいです!

劇場OVA『怪盗クイーンはサーカスがお好き』
公式HP:https://miragequeen.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/miragequeen_

©はやみねかおる・K2商会・講談社/「怪盗クイーン」製作委員会