成長著しいAR・VR市場で、新たなプレイヤーが次々と誕生
「想像の世界が現実になったらいいのに」そんなふうに感じたこと、ありませんか?
想像の世界では、目の前の世界を色鮮やかにするのも、空間を飛び越えてワープするのも自由自在です。そんな世界を現実に感じさせてくれる技術があります。それが、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)。
近年の大きな技術進歩により、AR・VRは私たちにとってより身近になっています。その一例が、2016年に大流行したスマホゲーム「ポケモンGO」。このように、現実の空間に新たな意味を与え、人間の行動に影響を及ぼすAR・VRは、新たなサービスを生み、未来のビジネスとして飛躍的に成長する可能性を秘めているのです。
ARとVRを合わせた市場規模は2020年までに1,200億ドル(14.1兆円)まで膨らみ、とくにVRに関しては、2016年から2020年にかけて約10倍に市場規模が成長するとの予想も(出展:Digi-capital、Trend Force)。これからのビジネスを語るうえでAR・VRが欠かせないことは明らかです。
こうした市場規模の予測を裏付けるデータもあります。FacebookやAppleなどのテクノロジー系企業によるVR関連事業への投資や買収が増加傾向にあり、世界のVR分野におけるM&A件数は、2012年から2016年にかけて、約20倍にまで拡大しました(出典:CBinsight)。
これらのトレンドは、日本でも起きています。
東日本旅客鉄道(JR東日本)が社員研修にVRを取り入れたのです。ソフトバンクが制作したVR教育ツールや、サムスン電子が開発したウェアラブルVR端末「Gear VR」を活用し、“電車にひかれる”という仮想体験を通じ、社員に安全意識の浸透を図りました。
さらに、娯楽産業におけるAR・VR活用も進んでいます。首都圏を中心にエンターテイメント事業を展開するアドアーズグループが、2016年12月に渋谷店の一部を改装し、VRテーマパークをオープン。11種類のアトラクションにより、誰でも気軽にVR体験ができる場を提供しました。
AR・VRには、すでにある”場”に価値を加えるという、他の技術にはない特徴もあります。VRコンテンツの企画・制作を手がける株式会社ejeは、アニメや音楽LIVEなど、さまざまなVRコンテンツを、映画館やネットカフェ、カラオケボックスなどで提供し、新たな顧客層を取り込むことに成功しています。
このように、今後、飛躍的な成長が予想され、私たちの暮らしを変えゆく“AR・VR”を、2017年8月の第19回NEDOピッチのテーマとして選択。最先端の技術とアイデアをカタチにした5人の事業者が、それぞれが手がけるビジネスについて語ってくれました。
圧倒的な力と繊細な動作を両立させるロボットが、人間の能力を拡張する
最初に登壇したのはTELEXISTENCE(テレイグジステンス)株式会社です。“遠隔存在”を意味する社名を掲げる同社は、人が遠隔でロボットを操作し、場所を問わず人々が労働力を提供することで、生産性を向上させるソリューションを提供しています。
TELEXISTENCE株式会社 Co-Founder/CEO&CFO富岡仁氏
「人間のインプットをインターネットでリアルタイムに伝えることで、遠隔地のロボットを操作することができます。さらにロボットが触れたものや聞いたものの感覚を情報化し、操作する人にフィードバックすることもできるんです」
TELEXISTENCEのロボットは、物をつまんだり、紙をめくったりと、繊細な動作が可能であり、操作する人間の細やかな動きを、データとして蓄積する機能を備えています。つまり、熟練技術者の動作をデータ化することで、その高度な技術を初心者に習得させることも将来的に可能となるのです。
富岡氏は、今後、事業提携を考えるべき分野として製造業や建設、警備、倉庫などを挙げ、「TELEXISTENCEの技術がサービスとして実現するインパクトは大きく、夢のあるビジネスを仕掛けることができる」と語り締めくくりました。
続いて登壇したのは、株式会社人機一体。人間のみ、あるいは機械のみでは実現できない機能を、人と機械の相乗効果によって実現することを目指す同社は、人が乗り込み、操縦することのできる重機ロボットを開発しています。
株式会社人機一体 代表取締役 金岡博士
「2011年に起きた福島第一原発の事故では、被爆の危険性があるにもかかわらず、人間が事故処理をしました。現場で使えるロボットがなかったからです。ロボット工学者としてこれほどの無力感はありませんでした。だから私は、人間が操ることのできる強力なロボットを開発するための技術を磨いてきたんです」
人機一体が開発するロボットは、重機の大きな力だけでなく、生卵をつかむといった小さな力をも扱うことができます。同社はさらに開発を進め、ロボットを操る人間が、まるで自分の身体を動かすように自在に操ることのできる技術の実現を目指しています。
金岡博士は、建築や機械の組み立てといった、これまで自動化が難しいとされてきた分野や、人間が作業するには危険な環境下で同社の技術を活用できるとし、志に共感してくれるパートナーと一緒にビジネスを進めたいと語りました。
このように、両社はいずれも、ロボットを人間の動作とリンクさせることにより、人の能力を拡張させようとしています。
続いて登壇する企業は、私たちの感情を測定し、チューニングすることまで体験させてくれます。
AR・VRが生み出す圧倒的な“臨場感”が、リアルな生活を変えていく
3社目に登壇したのは、株式会社リトルソフトウェアです。同社が開発した感情認識AI「Little AI」は、脳波計や心拍計等のウェアラブル端末から収集したデータにより、感情や感性を測定することを実現しました。Little AIの技術は、新たなサービスを次々と生み出しています。
株式会社リトルソフトウェア 代表取締役 川原伊織里氏
「脳波計から弊社のプラットフォームに集めたデータを解析して、『今のあなたはこんな状態ですよ』と可視化します。たとえば、本人が眠気を催す前から、『そろそろ眠たくなりますよ』といったことを予知することもできるんです」
同社の技術をVRと組み合わせることによって可能となるのが、“感情のチューニング”。深海の映像を見ることで、気温が変わらずとも寒さを感じるように、VR映像によって望ましい感情を作り出せるのです。たとえばプレゼンの前に落ち着きたい、熟睡したいといったニーズをLittle AIとVR技術が実現します。
川原氏は今後の展開として、認知症予防など脳のヘルスケアのための商品開発や、視聴者が求めているメディア・コンテンツの共同開発、従業員がクリエイティブになれるVR空間を構築するなど、幅広い分野で事業提携し、新たなサービスを生み出していきたいと語りました。
4社目は2008年に創業した研究開発型ITベンチャーであるカディンチェ株式会社が登壇。同社は、顧客がクオリティの高いVR映像を配信・管理するためのプラットフォーム「PANOPLAZA LIVE」、「PANOPLAZA MOVIE」をBtoB向けに提供しています。
カディンチェ株式会社 専務取締役 内田和隆氏
「すでに弊社のサービスを取り入れられている実績もありまして、たとえばハウスメーカーのダイワハウスさんとは、販促用に新築マンションの360°動画を作成しました。物理的なマンションはたくさんありますが、VRを使えば、場所を問わず複数のマンションを見学することができるんです」
同社の技術は、エンターテイメント事業でも取り入れられています。小室哲哉氏のライブ映像や、プロレスのリング上に設置した360度カメラの映像により、リアルタイムで臨場感のあるコンテンツを配信。このようにクライアントに合わせてサービスをカスタマイズしています。
内田氏は、コンテンツの撮影から動画の配信・管理まで、すべてを同社のサービスにより完結できる点が同社の強みであるといいます。今後は、ライブなどのコンテンツ配信に加え、工場の360度モニター監視など、同社の技術を求める企業に、広くサービスを提供していきたいと語りました。
デジタルとアナログ、2Dと3Dの境界を越えるサービスを実現
最後に登壇したのは株式会社Synamon。「BE CREATIVE、MAKE FUTURE」を経営理念に掲げる同社は、VRを活用したい企業向けのVR空間構築サービス「NEUTRANS」を手がけ、企画から開発まで一貫した支援を行なっています。
株式会社Synamon Co-Founder/CEO 武樋恒氏
「私たちは、2Dや3D、デジタルとアナログが一緒になった世界観を、VR技術によって実現したいと考えています。ただ、現状はまだVRを体験している人が少ない。そこで私たちはNEUTRANSによって、低コストかつ短時間でVR空間を提供していきたいと考えているんです」
NEUTRANSに注目した某旅行理代理店では、VR空間内に店舗を構築。オンライン空間内にいながら、パンフレット・動画を見せる当の接客応対が可能となりました。
VR空間を変えられるので、ハワイの提案をハワイの空間で行うなどより訴求力の高い効果を見込めます。
VRで店舗設計を行うことで、店舗設計のコストや家賃等が抑えられるのはもちろんのことオンライン接客も可能なため人件費も削減することが出来ます。
また、遠方で開催しているセミナーをVRで視聴することによって、まるで現地にいるかのような臨場感を味わえるという、VR専門メディアと共同で手掛けるVRセミナールームのサービスも手がけました。
同社は、今後、航空産業や建設業に業務用のVRシミュレーターを提供するほか、グローバルに展開する企業向けにVRミーティングルームの導入支援といったビジネスを展開する予定です。武樋氏は、これからもVRの活用事例を増やし、日本のVR活動を活性化していきたいと意気込みを語り、締めくくりました。
以上登壇した5社は、AR・VRの技術を現実のビジネスに応用し、これまでに実現不可能だったサービスを提供しています。今後、彼らの手がけるビジネスが、私たちの認識能力や身体能力を拡張し、暮らしのカタチを変えていくことでしょう。
NEDOピッチは、このようにさまざまな技術を持つ企業同士が、それぞれの技術や展望を語り、互いを知ることで、新たなアイデアを生み出す事業パートナーとつながる場所です。今回のNEDOピッチを通じて生まれたつながりが、どんな未来を創りだしていくのか、私たちもとても楽しみです。
【第19回NEDOピッチの映像】
- NEDO Channel:AR・VR
https://www.youtube.com/watch?v=Kl4gI2L8FAs&list=PLZH3AKTCrVsWlSjYvu8R_yT0Sf8hz9Xgk
【第20回NEDOピッチのご案内】
-テーマ:ライフサイエンス
- 日 時: 2017年9月26日(火)18:00~20:00(受付開始:17:30~)
- 場 所:NEDO川崎本部5F
- 参加費:無料
- 申込み:https://www.joic.jp/index.htm