重度訪問介護へようこそ。介護業界の入口で、新人アテンダントを迎える

愛媛県新居浜市。

瀬戸内海に程近いその場所で、上杉は現在、ケアカレッジ四国の運営マネージャーを務めています。

担当するのは、重度訪問介護(重訪)養成研修の資格取得にあたってのスクール運営や人材の育成です。

ケアカレッジは、土屋に入社した人にとって、そしてこれから介護に関わる人にとって必要な資格と心得を学ぶ場所。「現場に向かう前のアテンダントたちを一旦預かる大切な役割を担っている」と上杉は言います。

全国展開を続ける土屋では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、そんな中でも上杉の仕事は、香川・愛媛・徳島・高知の4県で採用された人全員と実際に顔を会わせて話せるというメリットがあるのだとか。

重訪へようこそ、介護へようこそ。いわば“会社の入口”とも言える場所で、日々、新人アテンダントたちを迎え入れる上杉。自身も、全くの未経験から介護の仕事をスタートさせました。

上杉 「カレッジは、会社が大事にしていることをいちばん最初に伝えるという役割があります。未経験から始める人の不安やしんどさを和らげるために、自分と同じように経験がない人が来た時にも『僕でもできたから大丈夫』と声をかけています」

そんな上杉がカレッジで伝えていることとは。

上杉 「介護技術に関しては、回数を重ねれば習得ができます。これは自分もそうでした。全くできなかったけれども、できるようになっていく。技術は後からでも追いついてくるのだけれど、やっぱり心を使ってする仕事なんですよ、というところを伝えていますね」

現在は、土屋に入社するアテンダントの研修だけでなく、資格取得を目的とする人にも門戸を広げているケアカレッジ。

上杉のこうした思いの先には、「支援の届いていない地域に重訪を届けるために、介護にかかわる人口を少しでも増やす」というカレッジの使命があります。

未経験から介護業界へ。地元・愛媛で出会った「世の中を良くしていく仕事」

そんな上杉の経歴を遡ると、接客や人材育成に携わる仕事をめぐり、いくつかの転機がありました。

愛媛で生まれ育った上杉は、大学進学時、県外へ。

学生時代にアルバイトを始めた大手ファーストフードチェーンで「仲間と働くことの面白さにハマり」、そのまま就職。日本各地で、転勤を重ね、働きます。

そして5年が過ぎた2000年。

上杉は、その頃、シアトルから日本に進出し、各地に出店し始めていた大手コーヒーチェーンの企業理念を本で読み、興味を持ちます。

上杉 「そのコーヒーチェーンでは、お店に入ってきたお客さんに『いらっしゃいませ』と言わず、『こんにちは』と言うんです。お客さんと従業員という関係ではなく、人と人としての挨拶から始めよう、その心地よい距離感に魅了されました」

当時、日本では珍しかった企業文化に面白さを感じ、実際に東京の店舗へ行ってみたのだとか。店に足を踏み入れ、店員の「こんにちは」という挨拶を聞いた時には「ここで働いてみよう」と決めていたのだそう。

その後、念願の大手コーヒーチェーンに転職した上杉は、ここでも転勤を重ねながら、四国1号店・愛媛1号店の立ち上げや人材育成に関わる等、充実した日々を過ごしました。

転機はその後。

結婚をし、お子さんの誕生を経て、転勤や単身赴任のあるそれまでの働き方を家族で話し合ったと言います。そして、出した結論は「地元に帰って仕事をしよう」。20年程勤めたその仕事を退職し、2019年、大学進学以来離れていた地元・愛媛へ戻ります。

愛媛では、飲食に限らず仕事を探していたという上杉。その中のひとつに現在の仕事がありました。

上杉 「介護のことは全く知らなかったので、最初は『未経験でもいい』というフレーズに惹かれました。介護業界は労働環境がキツいイメージがあったのですが、代表の高濱さんの話を聞いていた時、その先に、もっと壮大なものを感じたんです。
ソーシャルビジネスという観点ですね。話を聞いているうちに『この会社は世の中を変えていこうとしているんだ、世の中を良くするために私はいるんだ』、そんな高揚感みたいなものを感じました」

未来を変えていくために必要とされる仕事。壮大なビジョンを語る代表の言葉と、会社のミッションに魅力を感じた上杉は、2020年1月、重度訪問介護を始めることにしました。

言葉をかけることで人は変わる。自ら動き出すエネルギーをどう与えられるか

そして向かった重訪の現場。

それまで人の体を触ったこともなかった、という上杉にとって、その現場は「命を預かる重要な責任を感じた」経験となりました。

上杉 「それまでやってきた飲食の仕事は、『人を笑顔にする仕事』だと思っていました。その場に集まって、楽しい時間や空間を提供する。それは、日常にプラスアルファの笑顔でした。
重訪の現場に行った時、(これは語弊があるかもしれませんが)その日常のゼロのところまで行けていない人がいる、と感じたんです。物事を楽しむ余裕がなかったり、そんな気持ちになれなかったり。『人を笑顔にする』というベクトルは飲食と同じだけれど、スタート地点が全く違う、と感じました」

「その時は技術もなかったので、力技でやっていた」と当時を振り返る上杉ですが、「それでも自分が、猛烈に人の役に立っている、命を繋いだんだ、という感覚を覚えた」と言います。

その後、数ヶ月の現場経験を経て、マネージャーへ。そして現場を離れ、ケアカレッジの運営マネージャーとなります。

前職でも長らく人材育成に関わっていた上杉には、人を迎え入れ、育てていく上で大事にしてきた、ひとつの視点がありました。

上杉 「『北風と太陽』というおとぎ話があって、僕はこれがすごく好きなんです。旅人の服を脱がすために、北風は風の力で無理やり脱がそうとするけど、太陽は照らしつけることで、旅人自ら服を脱いでしまうという話です。
言葉をかけることによって人は変わります。声のかけ方ひとつで、成長に繋がったり、自信をなくしたりする。『自分で動き出そう』というエネルギーをその人にどう与えられるか。そこに興味を持って、これまで仕事をしてきました。
仕事というのは強制的にやらされているより、『自分で動き出す』というモチベーションで動いている組織の方がやっぱり居心地がいいですよね。だから、社内研修の講師をする時は、(受講者本人に)気づきを与えられるようなところにいきたいな、と思ってやっています」

飲食の仕事で培ってきた、持ち前の朗らかな雰囲気。そして、その人が心地よくいられるための環境づくり。その点を引き継ぎながらも、重訪の現場に入ったアテンダントたちとは実際に会う機会が少なく、ラインや電話でやりとりをしてはいるものの、ひとりひとりの成長に声をかけることの難しさも感じると言います。  

上杉 「『今日どうだった?』って一緒に悩んだり、毎日、夜に電話をかけてくる人もいました。そういう限られたコミュニケーションの中で、何かを伝えていくには工夫がいります。  ただ、そこで共感し合えるような環境があれば、もうちょっと気持ちの持ちようが楽になる。共感して『大変だったね』って言葉をかけてあげるだけでも緩和されるのかな、というのは感じました」

困難さを感じているからこそ、日々のフォローを続ける今の上杉。

上杉 「やっぱり自分が苦労した経験というのは、かけてあげられる言葉の中に、真実味というか、リアルな言葉になると思うんですよね。私も本当にたくさん失敗してきたので、そういう経験をしているところから、リアルな言葉をかけてあげられると感じています」

笑い、時には違う場所から見てみよう。笑って働くことがお互いを許容する

真摯な面持ちで仕事を語りながらも、人を笑わせることを忘れない上杉。その点について尋ねると、土屋が掲げるバリューと重ね、こんなふうに答えてくれました。

上杉 「土屋にはバリューが12個あります。そのいちばん最後に笑いというフレーズが入っています。『笑い、時には 違う場所から見てみよう』。 介護にはどうしてもしんどい現場がある。だからこそ、最後に『笑う』というのが掲げられているのは素敵やな、と。
僕は笑いながら仕事するというのが、めちゃくちゃ大事なことだと思います。みんなで笑うことを意識して、許容しあって。それは、土屋で働く人の姿勢のひとつであってほしいです」

これからを尋ねると、「統合過程の講師を目標にしている」と具体的な夢を語る上杉。そして「介護業界全体の中で、土屋としてのブランディングがみんなでできたらいい」と会社としての夢も語ります。

創業2年目。走り出したばかりの土屋では、まだない仕事を自らつくり、あたらしい人を着実に育てていくことが重要な仕事です。

上杉 「重訪は命を預かる責任ある仕事。そこに対する報酬って、もちろん給与や昇給といった物理的なものもあるとは思うんですけれど、心に対する報酬ってやっぱり言葉だと思うんですよね。そういう心の報酬は絶対に必要だな、と思います」

人が成長していく過程を側らでしっかりと見届ける。そして、その成長に対して言葉を贈る。これまでも上杉がしてきた仕事は、今、試行錯誤しながらも別のかたちとなって、続いているようです。

家族との時間を大事にするため、転職してもうすぐ2年。最後に、現在、7歳になるというお子さんの成長について聞きました。

上杉 「いちばんは、時間の大切さを教えてもらいました。家族と過ごす時間、そのために僕は生きているんだな、と。それを教えてくれたのは娘です。今までは単身赴任や転勤もありました。週末だけ帰ったり、月に1回帰ったり。でもそういう生き方が僕にはできなかったんですね。
だから転職をして、今、娘と一緒に過ごせている時間を考えた時に、これは間違っていなかったなという考え方にはしてもらえています。ただ甘やかしすぎて、娘にマウントを取られるのは時間の問題ですが(笑)」

仕事を変え、そこで出会った小さな声と、命というかけがえのない時間。

介護という場で、「笑い合うこと」がもたらす寛容さを育むために。四国という地を選んだ上杉は、その土地から、今日も土屋の企業文化を支え、創り続けています。