父の介護がきっかけで出会った天職、一対一でケアする重度訪問介護の道へ

全国的な重度訪問介護事業所の運営を手掛ける「ホームケア土屋」のゼネラルマネージャーを務める岡田 千秋。

難病、肢体不自由、重度の知的・精神障害を抱えるクライアントのご自宅に「アテンダント」と呼ばれるヘルパーを派遣し、24時間365日体制で見守りやサポートを展開する事業の責任者のほか、社内組織である防災委員会の委員長、そしてクライアント向け広報誌『土づくり』の編集者も務めています。

「土屋での仕事には、自分の今までの経験が全て凝縮されている」と本人が話すほどに、引き出しの多い岡田の経歴。1983~1985年には社会保険労務士事務所に勤務し、担当事業所の給与計算や労災・雇用・社会保険の手続き業務などを担当していましたが、1985年からは実家の生花店の経営を手掛けました。

岡田 「父親が病気になり、その介護をしながら生花店を経営するのが難しくなったので、実店舗はたたんでネットショップ運営に切り替えました。介護と事業半々の生活を送っているときに、父から『介護に向いているんじゃないか、天職じゃないか』といわれたのが、この世界に足を踏み入れたきっかけです。

父の足が日々細くなっていって『だるい』といわれれば私はずっと足をさすりましたし、お風呂などで背中をこするときも、自然と力加減を考えていたと思います。

父が歩けなくなってきたときも先回りして障害物を全部避けるなど、自分としてはごく普通にやっていたことが、父には『配慮』だと映ったようで、『よく気づくよね』と言ってくれました。それでも、その時は仕事にする気は全くなくて、『そっか、私って介護に向いているのかな?』くらいにしか思っていなかったんですよね」

そして、父親が亡くなった後、将来を考えた岡田はふと父の言葉を思い出しました。

第二の人生は介護の仕事をしよう──それは岡田が50歳の時のことでした。

岡田は2014年から特別養護老人ホームやデイサービス勤務を経験。しかし、ワンフロアで100名近くを担当する多忙さに戸惑い、「一対一で利用者と向き合いたい」との思いからやがて重度訪問介護の道を志すようになりました。

岡田 「そのあと縁あって2年ほど、重度訪問介護事業所の管理者を務めました。その会社の社長はALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けていて、実際に福祉介護サービス利用者だったんです。社長は『もう、何年も外に出たことがない』と仰っていました。

そこで、私が福祉車両を購入しまして、ご本人がそれまで諦めていたようなこと、ご実家に行ったり、お亡くなりになったお父様のお葬式に参列したりすることができました。障害、難病があってもなくても、大切な家族の人生の大事な場面に参加したい気持ちは誰でも同じじゃないですか。病気や症状を超えて、「その人の人生」をそばで支えるという、何物にも代えがたい経験をさせていただきました」

そして2020年10月。前職、重度訪問介護サービス運営会社での事業所管理者やエリアマネージャーを経て、現在の土屋に入社しました。

岡田 「接客やネットショップ運営の経験が今とても役立っています。福祉の道に入ってからは医療的な知識も身に付きましたし、会社の運営も任されていたので、人間関係の対処法も身につけてきました。これまでやってきたすべてのことは、本当に今の自分のためだったんだな、と痛感します」

女性の活躍を会社が後押し。ジェンダーイクオリティ前進に抱く使命感

介護の現場の担い手には女性の割合が多い一方、管理者など役職への女性進出が少ない介護業界。そこで岡田は女性のキャリアアップを応援したり、働きやすさを実現させたりすることを目的とした土屋の社内組織「ジェンダーイクオリティ委員会」の委員も務めています。

岡田 「介護の世界は、人間関係のもつれを経験するなど大変な部分があります。とくに、女性が働きやすい環境をつくりたいという思いがずっとありました。

SDGsの浸透などにより社会的な時流として女性の進出を応援する雰囲気は出てきていると思います。ただし、介護の世界で働く女性は多いにも関わらず、そこから役職者になる、あるいはキャリアアップしようと考えても、家庭の状況などいろいろな事情で難しくなることが少なくありません。けれども、女性は介護の世界において重要な担い手なのです。

だからこそ、女性を応援して、働きやすさを広げていきたいんです。私自身も泣きながら過ごした日々がないわけではありません。壁にぶち当たった時に、こういう制度があったらいいなと思っていたものなどを形にしたのが、この委員会なんです」

もっと介護の仕事にスポットがあたり、誇りを持てるすばらしい職業であることを世間に広めたい。その想いは岡田自身を奮起させました。

自分自身の発信力をつけるためにも、より実績やキャリアを積もうと行動を起こした岡田は現在、全国にいるコーディネーター以上の女性リーダーたちとともに、キャリアアップや職場環境の向上につながる提言をまとめる活動を進めています。

岡田 「コーディネーター以上の女性でつくる『女性リーダー会』を定期的に開催しています。関西、東海、北海道の3ブロックに分かれて、座談会という形で『小さな声』を集める場を設けているんです。今抱いている思いや困難なことが発生したケースについて話してもらい、悩んでいることや会社への要望なども聞き取っています。

女性リーダー会での声に会社が応える形で、男女でトイレが分かれている物件に事業所ごと移動した事例もあるんですよ。ほかにも、働くお母さんのために、会社が社内に託児所を作ってくれました。こうして女性スタッフの思いを聞くだけでなく、会社が具体的に目に見える、実感できる形で動いてくれているという点は、働く上でとても励みになります」

現場の小さな声を逃さずに、傾聴・対話を深める

土屋が掲げる「探し求める 小さな声を ありったけの誇らしさと共に」のミッションに含まれる「小さな声」について、クライアント・アテンダント双方から聞き取ることが重要だ、と語る岡田。編集を手掛ける広報誌『土づくり』の発行目的も、クライアントの声を拾い届けることにあります。

岡田 「私たちのクライアントは、自分で体が動かせなかったり言葉が発せられなかったりする方々なので、凝縮されたコミュニケーションに摩擦が生じて、ケアにちょっとした行き違いがあると、感情をぶつけてしまうケースが無きにしも非ずなんです。

広報誌『土づくり』は、クライアントの生の気持ちを聴くこと、そして他の複雑な状況を抱える方々に対しては、『こんな風に障害や病気と向き合う姿勢もあります』という情報発信も目的としています」

アテンダントの声を聴く機会として、困っていることや会社へ対する不満を、どこにも漏らさないことを約束した上で話し合う「ぶっちゃけ会」なども開催しています。

岡田 「当社のミッションである、【探し求める小さな声をありったけの誇らしさと共に】この小さな声は、こちらが聞こうと思わないと聞こえてきません。聴く姿勢を持った上でいろいろな声に応えることが大切ですし、やはり『人対人』の対話を重視したいですね。何かあればすぐに一対一で話したり、ちょっとしたメールやチャット、LINEなどで何気ないコミュニケーションを取って反応を見たりすることを心掛けています。

会社が導入したRECOG(「称賛」を送り合うチームワークアプリ)によって、現場での働きの『見える化』も推進。いろいろな小さな声が拾えますし、感謝の言葉も送れるので、しっかりコミュニケーションをとり、信頼関係を築くのにも役立っています」

事業の拡大などが進み、現場での担い手が多くなる中で、小さな声を逃さずに聴くことがますます重要になる、とも考えています。

岡田 「会社が大きくなって階層も分かれてくると、どうしても声を上げにくくなるケースが出てくると思うんです。この仕事は直行直帰で、クライアントへのサポートも一対一で行います。そのため、孤独感を抱く人も多いのです。『何かあったときに誰に相談していいかわからない』という状況は一対一の現場で働くアテンダントを疲弊させます。

支援における『これでいいのだろうか』という悩みは、アテンダント本人が一対一の支援を大切にする気持ちや、向上心があるからこそ出てくるものだと思います。そうした声に上長たちが気づいて対応していくこと。それは現場に限らずバックオフィス等の支援の現場以外でも同じことが言えます。そして上と下からの板挟みのポジションにある人たちの悩みも吸い上げることも、組織の強靭化を図るうえでとても重要です。

すぐには傾聴することしかできない場合もあるかもしれないけれど、共感を得ることで悩みを持つ人の気持ちに少しでも動きが生じれば、と考えています。現場の担い手はもちろん、社内で働くすべての人に、少しでも『この会社にいてよかった』と感じてほしいと思います」

会社と社員が相互成長。重度訪問介護のやりがいと可能性を一緒に広げたい

重度訪問介護以外にも訪問看護、デイサービス、グループホームなど事業の拡大や新規事業を進める土屋。日々変化する状況の中で、社員に対しては「自分自身のために、プロになってほしい」と土屋は語ります。

岡田 「アテンダントであればケアのプロ、コーディネーターであればアテンダントによりよい状態で働いてもらうためのプロ、マネージャーならマネージメントのプロと、それぞれの道のプロ、リーダーになってもらいたい。会社も社員に育ててもらって、ともに成長できる仲間たちと歩んでいくのが私の夢であり、理想です」

土屋が業界のトップリーダー的役割を果たしている重度訪問事業の仕事については、小さな判断ミスがクライアントの命にも関わるもの。しかし、『アテンダントがいるから私たちの日々がある』、とクライアントからいっていただけるなど、すごくやりがいがある仕事だ、と岡田は語ります。

岡田 「アテンダントとクライアント、重なり合いつつも、どちらも大切な人生であることには変わりありません。ですから一人のアテンダントだけがクライアントに厚い信頼を集めている状況は「よい支援の現場だ」とは言えないのではないでしょうか。もし、一人の熟達したアテンダントが支援を離れることになったとしても、その後のクライアントの人生とそのあとを引き継ぐアテンダント達が困らない、長期的な視点を持った支援を行えるのがプロのアテンダントだと私は考えています。

そしてクライアントご本人やご家族、そして他職種を含んだ支援チームと一丸となって成功体験を生みだせたり、その喜びを多くの人と共有することなどが、新人アテンダントにとってやりがいにつながり、視野もひらけていきますから。土屋に限らずできるだけ多くの人と相互理解できる現場をつくっていくことで、様々な思いを互いに伝え合える、プロの仕事をする人たちを育てていくのが当面の目標です。

一人のクライアントの『諦めていた外出ができて子どもの野球の試合を見に行けた』という喜びを共感できる人の輪が、深く大きく広がっていくことって素敵だと思いませんか?」

一方でまだまだ課題も多く、疲弊してしまうアテンダントがあとを絶たない現場もあるのが介護の世界の現状だ、ともいいます。

岡田 「もし現場が一度疲弊してしまったとしたら、たて直すには相当なエネルギーを要します。それは支援チームも、アテンダント個人においても、です。そこで重要なのは、介護の現場で働きにくい状況が繰り返し生まれないように、その後に生かすこと。今、土屋で頑張ってくれているアテンダントには感謝しかありません。だからこそ、彼らの日々の経験や学びを社内で共有したり、誰もがヘルプを出し合える安心できる体制づくりが大切なんです。

クライアントの生活と、アテンダントの継続的な勤務、どちらも掛け替えのない人生の一部です。アテンダントが疲弊してしまう現場では、結果的にそのどちらか一方を優先する決断をせざるを得ない場面が実際にはあります。本当に複雑で、心苦しい心境になることもあります。

しかしながら私たちは、多くのクライアントを支援しているからこそ、会社組織として継続していかなければならない使命があります。そして今現在出会えていない助けを求める誰かの『小さな声を探し求める』こともまた、土屋の大事な使命です。

問題や困難がない仕事ではありませんが、そうであるからこそ、取り組む価値があると思います。そんな思いを一緒にしてくださる方には是非土屋に来ていただきたいですし、私自身、社内、社外にかかわらず、ひとつでも多くの『小さな声』に応えていかなくては、と思い続けています」

リーディングカンパニーのマネージメントを担う第一人者として、小さな声を漏らさずに傾聴し、事業を進める決意を強くしている岡田。会社を巻き込み、人を巻き込みながら働きやすい介護環境づくりへ、岡田の前進は続きます。