障がい者のテレワーク推進を妨げる障壁──継続のための第一歩

withコロナ時代の働き方として定着しつつあるテレワーク。その目的がウイルス感染拡大防止であることは言わずもがなですが、障がい者雇用におけるテレワーク推進の発端は、まったく別のところにありました。

大野 「障がい者雇用においては、テレワークというと、身体障がいの方向けの求人が大半でした。最近は精神障がいの方が増えていますが、精神障がいの方向けのテレワーク求人を出している企業はあまりありません。

在宅勤務によって体調や勤怠が安定するケースも多いので、障がいの種類を問わず、テレワークを推進していこうと企画したのが本事業です」

企業側も障がい者側も経験がない中でのテレワーク推進には、予想以上に大きい壁があります。新しい業務を教える/覚えることのほかにも、業務ができる環境づくりや心身のケアまですべて自己管理となるため、継続が難しいのが現状です。

そこで、テレワークの第一歩として、まずはオフィスを離れて仕事ができる環境をつくろうと開設したのが、このテレワークオフィス『こといろ』です。

大野 「こといろは、オフィスと在宅の中間のような存在です。支援付きのコワーキングオフィスというとイメージしやすいかもしれません。第三者の支援を受けながら、ゆくゆくは在宅勤務ができるように準備する場所とイメージしていただけたらと思います」

こといろには支援員が常駐しており、パソコンの接続や情報セキュリティ対策、体調面、自己管理の方法などテレワークができる環境づくりのサポートが受けられます。それによって、テレワークをまったくやったことがない方でも、スタートしやすく続けやすい環境となっているのです。

こといろなら雇用ゼロをイチにできる

こといろの役割は、テレワークオフィスの場所提供だけではありません。企業支援という側面も備えています。障がい者雇用を進めたいけれど、どうしたら良いのかわからないという企業様にもぜひ相談してほしいと大野は話します。

大野 「現在障がい者雇用ゼロの企業様だと、まずなんの仕事を任せていいかわからない、相談体制がないなど、最初のひとり目を雇うまでの課題がたくさんあります。

特例子会社のノウハウもある私たちにご相談いただければ、業務の切り出しから運営体制づくり、求人の出し方、求職者への対応などすべてサポートします」

すでに障がい者雇用をしている企業でも、立地条件がマッチせず車のない障がい者が通勤できない、特性に配慮した環境設備が整わないなど、思うように雇用を進められないケースもあります。そんなときは、シェアオフィスとしてこといろを利用することができます。

大野 「こといろは博多駅から徒歩4分の好立地にあります。1社でビルの1室を借りるのは難しくても、こといろなら月4万円で利用が可能です。その上、私たちが求職者も探しますし就業サポートも行うので、利用料を払っても絶対に損はさせません」

2019年現在、福岡における法定雇用率達成企業の割合は50.6%。約半数の法定雇用率未達成企業のうち、雇用数ゼロの企業も1,000社近くあり、多くの需要が見込めます。こといろを利用することで、求職者の募集も代行してくれるのだと言います。

大野 「綜合キャリアグループには自社内に100名規模のエンジニアチームがあり、テック領域にも長けています。障がい者向けの求人サイトを福岡県のサイトとして立ち上げて、誰でも見られるオープンな求人にしています。多くの方に情報が届いて分母が増えれば、それだけ利用につながる確率も上がりますから」

綜合キャリアトラストがオープンな求人としてサイト環境を変えたのが数年前。以来順調に登録者は増え、現在では1500人もの求職者が利用しています。こうしてグループの得意とするHRテックも活用し、こといろの事業展開をすすめています。

障がい者雇用のパイオニアとして、絶対に自分がやりたかった

福岡県は10年以上前から障がい者雇用に力を入れている県で、これまでもさまざまな実績を上げてきました。

一方、綜合キャリアトラストは「ソーシャルオフィス」と言われる障がい者雇用の新しいスタンダードを生み出している障がい者雇用のパイオニア。これまでのノウハウを活かして何か新しい事業ができるのではないか―。大野は常にアンテナを張り巡らせていました。

大野 「4年前、福岡に赴任してきたときから県庁を訪問し、当社から何か事業協力ができないか模索し続けてきました。まだまだたくさんの課題がある分野ですから、新たな一手を打っていく必要があると考えていたんです。そんな中で今回の障がい者テレワークオフィスの事業化が決まって。全国初の取り組みですから、絶対に自分がやりたいという気持ちがありました」

受託先決定は公募となるため、民間7社と競合することになった大野。他社に取られるまいと必死で提案書をつくりました。その結果、当社への委託を勝ち取ります。決め手はどこにあったのでしょうか。

大野 「提案自体はバツグンに良かったと言われたので、事業コンセプトや運営体制でしょうか。あとは、過去の実績もあるかもしれません。

今も継続中の福岡県障がい者雇用拡大・職業紹介事業では、前任の別事業者が未達だった目標値に対して2倍以上の結果を出していたので、期待値もあったのかなと感じています」

全国初の試みを行うにあたっては、試行錯誤の日々。提案の段階である程度計画は立てていますが、それでも実際に構築してみると想定外のことも多くあったのだそうです。

大野 「一般的なコワーキングオフィスというと、パーテーションの少ないオープンな空間が主流だと思います。こといろはあまりオープンな環境よりも、作業は半個室がいいよねとか、設備についても前例がない中でどうしたら使い勝手がいいのか考えました。

受託してから構築していくので、経験のないことを計画して、やりながら修正して……楽しい反面、自分の手の内で簡単にできることだけではないので、いろいろな方に相談して協力していただき、やっと準備が整いました」

さらに、企画時には予測もしていなかったコロナ禍―。急に訪れた苦境は、テレワークという働き方の認知を上げ、こといろにとって追い風となりました。

大野 「テレワークを取り入れる企業様も増えたので、追い風になったことは確かです。実際に、4月以降話を聞いていただける機会が増えました。

一方で、テレワークを導入してみた結果、やっぱりテレワークは難しいよねという反応をいただくこともあります。そういう企業様には具体的な課題点をお聞きして、類似事例をご紹介したり、どうしたら実現できるかをご提案しています」

入社したときから「できないと言わない」を信念に、顧客と真摯に向き合ってきた大野。苦境を味方につけ、どんなときでも実現できる方法を考える。そんな大野だからこそ実現できた事業なのかもしれません。

福岡で成功させて、こといろを全国展開していきたい

現在のこといろ利用申込数は、8社10名。ブース数15に対して、開設時点で半分以上が埋まり幸先の良いスタートを切っています。今後の展望を大野はこう話します。

大野 「今回は福岡県の事業として運営していますので、まずは企業からも障がいのある方からも、使い勝手がいいと思ってもらえるサービスにして認知を上げることですね。福岡で成功させた後は、全国に展開していくことが目標です」

全国に150以上の拠点をもつ綜合キャリアグループのネットワークを利用すれば、全国展開も夢ではありません。

そしてこといろがスタートしたばかりですが、大野はさらに新しい企画を考えているのだと言います。具体的には、テレワーク雇用を検討している企業と希望する求職者向けに、こといろを利用したテレワーク実習の開拓とその先の雇用をアシストするといった、需要と供給をつなぐ次なるサービスです。

大野 「ほかにも、コロナ禍でテレワークが定着してきたように、Webを使った合同説明会やウェビナーと言われるWebセミナーなども一般的になっています。これらが障がい者雇用においても取り入れられるように、企業と障がいのある方の媒介をしたり、利便の良いサービス提供をしていきたいですね」

障がい者雇用の新しいスタンダードをつくる。大野の挑戦はこれからも続きます。

■関連リンク
福岡県障がい者テレワークオフィス『こといろ』

福岡県障がい者雇用拡大事業