「趣味イノベーション」を掲げる人材の誕生

▲IS社モノづくり革新センター 生産システム開発部 の宮島 勇也

宮島が所属する、パナソニック インダストリアルソリューションズ(IS)社モノづくり革新センターは、IS社内にある8つの会社・事業部について、文字通りそれぞれの部門のモノづくりを革新していく部署。2020年4月に誕生した新しい組織です。

宮島 「さまざまな事業部からくる多様な相談や開発案件を、研究開発から現場の生産ラインの検討まで含めて一緒に進めていく、いわば社内コンサルタントのような部門です。ほとんどのメンバーが、各事業部で設計や開発を実際にやっておられた方で、多彩なプロフェッショナルの集団といった感じです」

かく言う宮島自身は、これまでも社内のさまざまな改革を手掛けて来た人間。ただユニークなのは、それが本業ではなく、「趣味」として手掛けていたところです。

前職で10年以上、技術者として腕を磨いてきた宮島ですが、彼が一般的なエンジニアと違っていたのは、機械、電気、ソフトウエア、工学など、幅広い分野に精通していたところ。実際に、世界初の超音波浮上技術を実用化し、世界の第一人者となったり、世界中の装置メーカーが匙を投げたカラー電子ペーパー装置を、たった半年で装置化したりと、成果を上げて来た分野は多岐にわたります。

宮島 「幸い10年くらいで世界の第一人者と言っていただけるまでのモノづくりのノウハウを確立できたので、より広い分野へチャレンジしたくなったんです。その時に、声をかけていただいたのがパナソニックでした」

 生え抜きばかりの部署に初めての転職者として迎え入れられた宮島は、当時の上司から「新しい風を吹き込んでほしい」と言われ、意欲的に改善提案に励みました。ただ宮島の提案は、当時のパナソニックには先を行きすぎていたのか、スムーズに受け入れてもらうことはできませんでした。

宮島 「できることをまず進めようと自分の業務をどんどん改善し、時間を創出していきました。その創出した時間で社内研修を頻繁に受けていましたね。同時に、もっとイノベーションを量産できる風土をつくらなければと思い、One Panasonicという社内の有志組織にも入りました」

そのOne Panasonicで、経済産業省が主催するイノベーター育成の国家プロジェクト「始動 Next Innovator2018」を知った宮島は、これにチャレンジし見事合格。宮島の提案はメンターや他の参加者にも好評で、それが宮島にさらなる自信を与えたと言います。

宮島 「始動で他の参加者と話していくうちに、みんな僕の話を面白がってくれて。自分のやっていることは、間違いないと自信がわきました。ただ会社では、社内のことといえど業務時間内で他部門の改善活動を行うのはOKが出ない。そこで趣味としてイノベーションを進めることを思いついたんです」

宮島は他の事業部の工場などへ赴き、どんどん改善提案を行うように。こうして、「趣味イノベーション」を掲げる、ユニークな人材が生まれたのでした。

面倒でも、やってしまえば感謝され、仲間も増える

▲宮島が立ち上げ、未来会議ワークショップ。「Yes and」で楽しく未来を考れるワークショップです

イノベーションの社風を醸成していくためには仲間が必要だと考えた宮島は、さまざまな場所に出かけ、多くの人と交流を図っていきます。

宮島 「例えば、大阪本社の一角にWonder LAB Osakaというオープンイノベーションのスペースがあります。そこでは毎週のように何かしらイベントをやっているので、多様な人が集まるんです。

僕もそこに出向いて、たくさんの人と話しましたね。時には、どなたかに僕を紹介されたとおっしゃる方が相談に来たりもしました。そうして話を広げていくと、みんなも徐々にイノベーションを起こしたくなってくるんです。だんだん仲間が増えたこともあり、しばらくして“インキュベーションサークル BOOST”という、有志団体も立ち上げました」

社内にとどまらず、社外にも仲間を広げ、イノベーションを起こすためのつながりをどんどん拡大していった宮島。現在は活動の幅も技術だけにとどまらず、経営や人事制度改革など、多岐にわたっています。

宮島 「僕は技術者として研究開発をやってきてたこともあり、イノベーションは課題解決だと思っているんです。商品を開発する時も、例えばコストがかかるとか、品質が悪いという課題を解決するためにやっていた。それが身についているので、これまでやってきたさまざまな課題解決を応用してイノベーションにつなげているだけなんです。

ただ、特に技術者の人は課題を見つけるのは上手ですが、それに取り組む一歩手前が面倒で挫折するんです。もしその課題解決が会社の方針なら業務時間でできますが、業務と関係なければ、基本はできないし、やらない。でも、それをやっちゃうことでみんなに感謝されたり、仲間が出来たりするのが、僕は面白いんです。だから、趣味にして楽しんでいる。そんな感じです」

イノベーションの達人が感じた宇宙への可能性

▲「始動2018」同期メンバーとJAXAへ視察

こうしてイノベーションの輪を広げてきた宮島に、新たなチャレンジが訪れます。それがパナソニックの航空宇宙事業です。宮島がこの活動に出会ったのは、2019年3月。自身もよく参加し、登壇もしているオンラインの勉強会「松下村塾」がきっかけでした。

宮島 「パナソニックで宇宙事業を目論んでいる出口さんの社内ピッチだったんですが、そのスライドの中の1ページに興味を惹かれたんです。すぐに連絡をとり、一緒に宇宙事業に向けた取り組みを進めることにしました」

そのスライドには、これまでパナソニックが関わってきた、宇宙での実績がプロットされていました。

宮島 「それを見た時、こんなに実績があるのに、なぜみんな知らいないんだと驚きました。僕も含めて知らなかったし、社内にアピールしていないことが、本当にもったいないと感じたんです。

僕の引き出しにあった製品でも、宇宙で使えるものがいっぱいあったし、次の100年という長いスパンで考えると、パナソニックの市場として当然宇宙は視野に入ってくる。これならいけると思って参加しました」

事業として絶対に進めなければならない。そう感じた宮島は、その後推進チーム名を「有志団体 航空宇宙事業本部」として部署横断で積極的に活動しました。ミーティングからお酒の席まで頻繁に顔を出し、宇宙にかかわる人脈も広げていきました。

宮島 「宇宙を研究している大学の先生や、宇宙にかかわる仕事をしている中小企業の社長たちが集まるお酒の席でいろんな話を聞くんですが、間違いなく需要はあると感じました。

また当時は、宇宙は品質的にすごくハードルが高いと思っていましたが、逆に宇宙はリスクが大きすぎて品質保証は求められないということもわかったんです。パナソニック社内の意識と全く違ったので驚きましたが、それを広めるだけでも面白いと思いましたね」

 実際に宮島が現在仕掛けているのは、さまざまな研究活動のアウトプットに、宇宙という選択肢を入れてもらうという取り組みです。アウトプットとして認識されていない宇宙を選択肢に入れることで、新しい発想が必ず生まれる。宮島はそう語ります。

宮島 「具体的なプロジェクトを進める以前に、もっと宇宙の認知を社内に広め、技術者に意識してもらうことが重要だと思ったんです。みんな頭の中に無いだけで、宇宙が好きな技術者はたくさんいます。その証拠に、航空宇宙事業の有志団体は、人が人を呼び一気に人数が増えましたから。

使えるリソースはたくさんあるのに、宇宙とつながっていないだけ。宇宙を認識するだけで広がる可能性は十分あると思っています」 


どこにもいないレアな人材となり、人類の進化に貢献する

一歩社外に出ると、パナソニックの航空宇宙事業本部に期待する声は多い。それにこたえることが、パナソニックとして社会的責任をまっとうすることにもなると、宮島は考えます。

宮島 「社外の人は、パナソニックなら当然宇宙も視野に入れていると思っているし、『パナソニックさんぐらいじゃないとできないでしょう』と言われるように、期待もされています。航空宇宙事業は、パナソニックの社会的責任でもあると思うんです。ただ社内にそこまでの認識はなく、僕はそこに違和感や危機感を抱いています。

ただ一方で、パナソニックならできるという可能性も大いに感じています。だからこの会社に残るし、イノベーションを続けていこうと思うんです」

航空宇宙事業本部は業務プロジェクトとして認知され、IS社で正式プロジェクトとしてスタートを切るなど変化が見え始めています。宮島が航空宇宙事業にかかわる理由の一つは、宇宙を通して「パナソニックはこんなこともできるんだ」という可能性を、みんなに感じてほしいからだと言います。

宮島 「パナソニックの社員って、みなさん鍵のかかってない牢屋に閉じこもっている感じがするんです。鍵はかかってないのに、ダメだと思い込んでしまって出られない。だから外で楽しいことが起こったら、出てくるんじゃないかと思って。自分が楽しくやっている様を見せているんです。

イノベーター予備軍みたいな人はたくさんいると思うし、みなさん能力も高い。彼らがぞろぞろと出てくれば、もっと自然発生的にイノベーションが量産されるでしょう。僕が宇宙にかかわるのは、それも狙いです」

そんな宮島には、壮大な夢があります。それは人類の進化に貢献すること。

宮島 「遺伝的進化ではなくて、暮らしの当たり前を変えていくことです。例えば、シャワーを浴びる時に必ず始めは水が出る時間があって、もったいないじゃないですか。当たり前と思ってあきらめているちょっとした不満、それを言語化して改善することで、人類は少しずつ進化する。それを僕の生きた証として、随所に残しておきたいと思っています」

そのためには、いろんな人の見方や考え方を取り入れ、自分の中の多様性を増やしていくことが重要で、それがつながることで、新たなイノベーションが生まれると宮島は確信しています。

宮島 「僕がたくさんの人と出会うのは、そのためです。どこにもいないユニークな存在は、より新しいものを生み出します。たくさんの知識や物の見方を人から教わる。教えていただく方の分野で勝ることはできないかもしれませんが、それをあらゆる分野で続けていけばどうなるでしょうか。僕はどんどんレアな人材になっていければ良いなと思っています」

工場の改善から、宇宙にまで広がりつつある宮島のイノベーション。人類の進化に貢献する活動が、パナソニックの進化も促そうとしています。