自分がワクワクできる仕事を求め、航空宇宙分野の調査を開始

▲パナソニックの有志団体「航空宇宙事業本部」発起人の出口 隆啓

パナソニック インダストリアルソリューションズ(IS)社 電子材料事業部は、電子回路基板の材料をメインビジネスとする事業部です。2011年4月、マーケティング部門に異動した出口 隆啓は、メインとなるICT機器市場のマーケティングを手掛ける傍ら、自身の新たな挑戦として、かねてから興味のあった航空宇宙分野の市場調査を開始しました。

出口「メイン業務であるICT市場の開拓はベテランの先輩方が道筋をつけてこられたこともあり、この先の方向性もある程度見えていたんです。それは最先端で、面白いことでもあるのですが、僕自身も自分の手で何かを切り拓いていきたいという思いがありました。

また新たなチャレンジ自体ワクワクできるし、それが自分も興味のある宇宙ならより楽しいと思って。それで航空宇宙の分野を調べ始めたんです」

当時はまだ手探りの状態でしたが、マーケット規模や電子材料として宇宙で使っていそうな製品を調べ、数回にわたり上司へ提案/報告も行うなど、地道に活動を続けていました。話が広がりそうだと感じたのは2014年頃。北米のメンバーと共同で、本格的に市場開発を始めたときのことでした。

出口「業務上、北米とのやり取りが多かったので、北米が航空宇宙の約半分の市場を握っているという話もよく耳にしていました。そんな流れもあって北米メンバーと市場開発を始めたのですが、そこで手応えを感じたんです。それならと電子材料事業部内で情報を共有したところ、取り組んでいく方向で話が進んだんです」

出口は、2018年に事業部内で始まった事業部長直轄のプロジェクトにも参加し、宇宙のテーマを提案。事業部長からのお墨付きも得て、航空宇宙の取り組みは徐々に前進していったのでした。

「芋づる式」に増える人とのつながりが、勇気と自信を与える

▲2019年12月 民間宇宙ベンチャー企業による講演

2018年4月に航空宇宙に関するマーケティング担当となった出口は、その動きをさらに加速させます。これまでよりも動きやすくなった立場を生かし、航空宇宙を切り口に、事業部内外を問わず社内のさまざまな人と交流を深めていったのです。

出口「たくさんの方とお会いしてお話を聞いているうちに、パナソニックが航空宇宙分野で、さまざまな実績を持っていることが分かってきたんです。例えば“はやぶさ”に電池が搭載されていたり、 “こうのとり”にLED照明が採用されていたり。社内でも使えるものがありそうだという実感がわいてきました」

まずは身の回りの有志によるチームとしての航空宇宙活動を開始し、小さいながらも順調なスタートを切りました。ただ出口自身、こうした活動に当初から自信があったわけではないと振り返ります。

出口「最初は僕の知っている人5~6名が時間を割いてくださり、会議室に集まって1~2時間話すという形でスタートしました。それぞれが持っている商品の話をしたり、宇宙向けに売れているものを掘り下げて議論したり。そしてその話をもとに、自分の航空宇宙関連の人脈とメンバーをつないだりしていました。

でも正直に言って苦しかったですね。集まってくれているみんなにメリットがあるのか、情報交換の場として活用できているのか。自分が勝手に『やりましょう!』と声を大にして言っているだけではないのか。そんな思いが頭をよぎり、次回も参加してくれるだろうかという不安を常に抱いていました」

しかしそんな出口の心配をよそに賛同者は次第に増えていきます。出口が「芋づる式」と形容するように、誰かとの出会いが、また次の誰かとの出会いにつながり、社内外問わず、人脈がどんどん広がっていったのです。

そしてこの動きをさらに加速する出来事が起こります。2019年3月、当時の有志団体参加者で現在の主要メンバーの一人でもある、プロフェッショナルビジネスサポート部門 デジタルマーケティング推進室 マーケティング創出課 主務の寺岡 宏恵の提案で、社内向けのピッチイベントでの発表が実現したのです。プレゼンテーションで航空宇宙事業の概要を伝え、多くの人の興味をひいた出口は、同年7月にもピッチイベントに参加しプレゼンテーションで自身の思いの丈を伝えます。

出口「7月の社内ピッチで『皆さんワクワクしていますか?未知や未開拓に挑戦するときってワクワクするでしょう。その代表なものが宇宙ですよね』と投げかけ、次の100年、暮らしが宇宙に広がるなかで、パナソニックは必要不可欠な技術の先駆者でありたいという想いを込め“宇宙でくらす”というコンセプトをぶつけたんです。

すると参加していた方から『感動して心が震えた』というコメントを頂いて。考えは間違っていないと、ようやく自信が持てるようになりました」

後に主要メンバーとなる、モノづくり革新センター 生産システム開発部 要素工法開発課 主任技師の宮島 勇也をはじめ、多くの社員がこれらの社内ピッチを聞き、活動への参加を決めたと言います。

出口自身が「多くの人との縁に支えられてここまで来た」と感謝しているように、人との出会い、そして出会った人たちの反応や協力が出口に勇気と自信を与え、それに呼応するように有志団体のメンバーもさらに増えていったのでした。

こうして当初は出口の知人数名からスタートした活動は、「航空宇宙事業本部」という有志団体に進化。現在では、全カンパニーから、営業、技術、調達、品質、開発、人事、法務、知財などあらゆる職種の社員が参加する300名を超える組織に成長しています。

「出口が言うからやる」ではなく、皆がアイデアを出し合い認め合う組織に

有志団体の人数が増えていくなかでも出口が大切にしてきたのは、ワクワクできる集団であり続けることでした。例え大人数になっても、自身が当初感じていた、新しい挑戦や未知への探求心からくるワクワクを、一人ひとりが持ち続けられるようにしていきたいと考えたのです。

出口「メンバーが増えるにつれ、みんなの興味関心が向いているところをしっかりと引き出して、大事にしないといけないと思いました。それを捉えていないと、みんながワクワクできなくなると思うんです。だから、自分の思いはしっかり伝えながらも、自分自身はあまり前に出ないように心がけていました」

「出口がこう言うからやる」ではなく、皆がやりたいことを、皆がアイデア出し合って進める。否定や批判をせず、それぞれが得意分野を生かせるよう、人やアイデアをつないでいく役割に徹したと言います。

一方、人が増えていくなかで、現実的な課題として捉えていたのが事業化です。

出口「有志団体なので、皆さん宇宙に興味を持って参加してくれていますが、大事な通常業務の時間を割いていることに変わりありません。あまりにも業務とかけ離れすぎるとそれが負担になり、ワクワクが消えてしまう危険性もあります。ただ、宇宙が自分の業務となれば、本業でワクワクできるでしょう。その意味でも、事業化を目指そうと考えていました」

こうした流れのなか、2020年にはIS社内で航空宇宙プロジェクトが検討され、2021年から本格的な活動が始まりました。有志団体のコアメンバーが参加する形でスタートを切り、現在は有志団体と連携を取りながら、事業化の可能性検討が進められています。

また着実に成果も現れ始めています。現在マニュファクチャリングイノベーション本部では、既存の人工衛星の部品や部材を民生品に置き換えた場合のメリットについて検証する国家プロジェクトに参加していますが、これに採択される過程でも有志団体が一役買っていたのです。 

出口「国やJAXA、経産省は、パナソニックの本気度がどの程度なのか、事業化の受け皿があるのかを心配されていました。そこで有志団体としてプレゼンテーションのビデオに登場させていただき、事業化を目指して活動を続けている旨をお話ししました。こうした動きも国家プロジェクト採択への、援護射撃になったのではないかと考えています」

“産業報国の精神”を大切に、航空宇宙事業で日本のプレゼンスを高める

▲2021年2月 JAXA宇宙探査イノベーションハブ関係者による講演

組織として形を成しつつ、徐々に成果を出すなど、着実に事業化へ向けて歩みを進めるパナソニックの航空宇宙事業。次に出口たちが目指すのは、具体的な内容を伴ったビジネス化です。

出口「中長期的には、今の取り組みがビジネスとして成立し、みんなのやりたい活動を継続できるようにしなければなりません。そのために、経営層も含めて社内の賛同を得ていくことが次の課題だと思っています」

社内雰囲気の醸成や理解の促進を2020年度で固め、2021年度は具体的なビジネスにつながる活動を進めていこうとしています。そんな動きのなかで、出口が注意しているのは、自分自身の利己的な活動にしないことです。

出口「自分の想いはこれからもしっかり伝えますが、出口が出口のためにやっている活動には絶対にしたくないし、してはいけないと思っています。その意味も込めて大切にしているのが、パナソニック“私たちの遵奉すべき精神”の筆頭に掲げられている“産業報国の精神”です。

僕はアメリカ留学時代に日本の良さを再認識し、今も日本という国が大好きです。だからパナソニックという会社を使って、日本のプレゼンスを上げていきたいんです。それもみんなでワクワクしながら。その一つがこの航空宇宙事業だと思っています」

パナソニックという会社を生かし、自分のワクワクできることを実現する。それが会社、ひいては国への貢献につながると出口は考えます。そしてパナソニックには、それができるだけの十分な可能性があると力説します。

出口「これだけ大きな会社で、多くの優れた技術や商材があり、優秀な人材もそろっています。パナソニックが持つポテンシャルはこんなものじゃない。だからパナソニックの社員であることに満足してしまうのではなく、パナソニックという手段を使って、自分たちのワクワクを実現していくことが重要なんです。そうすれば必ず、みんなが今以上の力を発揮できると思っています」

出口のワクワクが多くの人に伝播し、それがつながることで組織の垣根を超えた取り組みに発展した、パナソニックの航空宇宙事業。宇宙への新たな挑戦が、事業として、また組織として、パナソニックを新たなステージに導こうとしています。