社内複業制度で社内デジマ人材の育成へ

▲さまざまな事業所から集まったD-LocatorsHubのメンバー

今日、デジタル化が急激に進み、デジマ人材と呼ばれる人材が必要不可欠になっています。パナソニックでもこれからのデジタル化に向け、デジマ人材の採用を進めていました。

しかし、7カンパニー34の事業部を持ち、26万人の社員が所属するパナソニックグループにとって、すべての事業部にデジマ人材を配置することは難しく、各部門に広く薄く配置されたデジマ人材は孤軍奮闘し、業務は切羽詰まっていました。

その一方で、ミレニアル世代の社員はもともとデジタルリテラシーに富んでおり、さまざまな経験をしてキャリアを積むことでの成長を求めています。

しかし、そういった社員がデジマ業務に興味を持っても、各事業別に縦割りの組織制度のため、すぐに部署異動の希望が叶うということは困難でした。

会社として社外からデジマ人材を求めている一方で、社内にデジマ領域を学びたい社員がいる。社内でデジマ人材を育成するしくみができれば、会社にも社員にもメリットがあるのではないか──岸原はこの課題を解決できないかと考え始めました。

そこで目をつけたのが、2018年より社内の創業100周年記念の取り組みのひとつとして生まれた“社内複業制度”でした。社内複業制度は本人起点の希望により、一定の業務比率で他部署の業務を行うことができるという制度です。この制度を使い、業務の10%、すなわち週で半日の時間で、デジマに興味のある社員を集め、チームとして育成できないかと考えました。

岸原 「デジマ人材を外部から採用する方法もありますが、それを待っていると時間がかかってしまいます。また、興味があり成長意欲のある人にチャンスを与えれば、習得するスピードも早いです。何より同じ目標を持った人が周りにいれば、切磋琢磨し自然と成長することができます」

デジマ複業人材を募集。しかし、まさかの定員割れに

▲月に1回メンバー全員が集合し議論を行います

2019年4月、さっそく岸原は社内複業制度を使い、半年間の契約でデジマ複業人材を募集しました。

しかし、集まったのは11名枠に対し5名。原因になっていたのは、社内複業制度の認知度の低さと本業との両立の不安でした。

定員割れしてしまったデジマ複業人材募集。それに対し、責任者層からは絶対に失敗するという声があがっていました。

岸原 「パナソニックは歴史も古く、カンパニー・事業部の縦割りの組織制度が基本で、ひとつの職場、職種で専門性を高めるという働き方が中心です。それに対し、今の時代は2〜3年でキャリアが変わっていくような働き方が生まれています。ひとつの場所だけでなく、さまざまな環境に自ら飛び込み、経験を積むことがこれからのキャリア形成の在り方です。

当初、この複業取り組みは周囲からあまり理解してもらえていませんでしたが、そんな時代だからこそ、このデジマ複業人材プログラムは必ず成功すると私は確信していました」

このプログラムには、すでにデジマ人材として活躍している人から知識や経験はないがデジタルスキルを習得したい人までさまざまな社員が集まりました。全員に共通している想いは「成長したい」という意欲。

幅広い事業所から集まった社員とチームをつくる上で進む方向を合わせるため、「デジタル化の水先案内人(=D-LocatorsHub)」というチーム名を決め、ビジョンやミッションを明確化していきました。

海外向けのEC事業所に所属する大畑 雅哉は、参加者の中でこのプラグラムに一番長く参加するひとりです。大畑は自身の参加動機をこう語ります。

大畑 「私は中途採用で、デジマ人材として採用され、業務を行っていましたが、もともとデジマ人材が少ないということもあり、ずっと他の事業場のデジマ人材がどんなことをしているのか知りたいと思っていました。また、周りにデジタルに詳しい人がいないため、アウトプットばかりになっており、インプットをしながら高め合える環境が欲しいと感じていたのです」

関わる人すべてにメリットが生まれる、三方よしモデルが鍵

▲コロナ禍では、メンバー全員がリモートで取り組みを進めていきました

参加者は、一人ひとり自身の取り組みたい課題を設定し、業務時間内にそれぞれの課題解決にチャレンジしていきます。自分の事業所の課題解決に取り組んだり、社内の横断的なプロジェクトとして取り組んだりとその内容はさまざまです。

各自、週の半日を使いデジマ業務を進め、月1回は全体で集まりアウトプットができる機会を設けています。

また、月1回の集会だけでなく、週に1度は顔を合わせて相談や雑談ができる場を設けたり、オープンなチャットで日々情報交換が行われていたりとチームとしてのコミュニケーションも大事にしていきました。

活動の様子を社内のさまざまなイベントで発信していると、2年目は20名近くの参加者が集まりました。

また、応募権利は主務と呼ばれる係長クラス以上に限定していたものの、若手社員の中でどうしても参加したいという声があがり、上司に直談判をし、了承を得て参加する有志の社員も現れました。

強い意志をもって参加した若手社員の中には、デジタルツール利用による業務促進に取り組み、社内の横断的な課題を解決したことで、多くの責任者に認められ、キャリアにおいて大きな飛躍を遂げた人もいます。

岸原 「パナソニックは従業員平均年齢が46歳と、若手社員が入社しても同じ職場に同世代の社員がいないということも、時には起こりえます。その点、複業制度を通じて同世代の仲間と切磋琢磨し、成長を実感できるきっかけになることが、彼らにとっては大きなメリットになっています」

この2年間で結果的に5つの全社横断プロジェクト、新規事業創出など6つのスモールトライアル、20個のデジタルを活用した社内施策が誕生しています。

岸原は、プログラムに関わるすべての人にメリットがあるからこそ、すばらしい結果が生まれているといいます。

岸原 「プログラムの主催側、参加者、参加者の所属する事業場が三方よしとなることを大切にしています。参加者の所属事業場では一定期間大切な戦力を一部失いますが、その社員が事業場の課題をデジマスキルを使い解決することで、それぞれにとってメリットがあるようなしくみづくりを行いました」

この三方よしモデルはプログラムが成功した大きな鍵ともいえます。

「#10PER4D」を合言葉に。社内の新しい働き方の形

▲全社CHROへ直談判し活動のバックアップをいただくことになりました

新しい働き方、そしてチームの形を実現させた岸原たちは、このプログラムを全社共通の取り組みとすべく、10%のデジタルシフトから、お客様のくらしと社員の働き方を10倍アップデートする「#10PER4D」を合言葉にブランディングを開始しました。

社内複業の発起人である全社CHROに直談判し正式な社内バックアップが決定し、今ではデジマ以外の領域でも、同じように複業制度を使ったチームが生まれています。

大畑 「今チームに所属しているメンバーだけではなく、全社員に向けて『働くという新しいとらえ方、考え方』を広めていきたいという想いがあります。参加した人がより良い影響を社内のみんなに与えていくことで、社内全体の士気が高まるはずです」

当初は向かい風もあったこの取り組みは、気づけばチームとして多くの成果を残しました。チームだからこそ得られたこの成果に、大きな可能性があると岸原はいいます。

岸原 「個人で能力を高めても、できることや問題解決できることには限りがある一方で、チームで高め合い、時には協力することで突破できる課題が沢山あると思います。そういったチームづくりをこれからも目指したいです」

このプログラムから生まれた新たな働き方のカタチは、今後もパナソニックにとって社員の可能性を広げる働き方のひとつとなっていくことでしょう。大企業に吹いた新しい働き方の風が、多くの人の希望となることを願って。