新たなチャレンジへの一歩と、学生のころからの夢が交わる

▲靴との関わり方を変えるきっかけになった靴屋さんにて

徂徠 「新規事業とか、イノベーションだなんて、才能のあるすごい人達がすること・できることで、私には全く無縁の世界だと考えていました」

2018年、パナソニック ライフソリューションズ社の徂徠は、ある新事業案件に数年携わってはいたものの、経営環境の変化により継続ができなくなり、課のメンバーと新しいテーマ探しをする中で、新規事業に携わっているのに自分に足りないものが何かある。

と一歩を踏み出します。それが短大卒の一般職として入社し一段ずつ階段を上がってきた彼女を、それまでと大きく異なる方向へと導いていくことになりました。

彼女はパナソニックの共創空間Wonder LAB Osakaで行われる定時後のイベントに足しげく通うようになっていました。皆で考えたアイデアが新テーマとして決まらず、四苦八苦しているこれまでの自分の状況を変えようと、新しい環境に身を置き、イベントに訪れる社内外の人出逢うことで何か新しいきっかけを掴みたいと考えたのです。

また自分に合った靴を見つけることの難しさに幼少期から悩んでいた彼女は同じ頃、連続休暇制度を利用して以前から興味があったシューフィッター養成講座をプライベートで受講します。

徂徠 「かかと幅と足の甲の細さが平均的な比率から極端にかけ離れていて、4歳のころから靴探しに困っています。20歳で就職先を探すときも、私のようにJIS規格外の足という悩みを持つ人を助けたいという一心で靴の企画を志望して、就職試験を受けたこともありました」

養成講座でシューフィッターの先輩であり靴の個人商店を営む男性に言われて印象に残っているのは、「君みたいな大企業に勤めている人たちと一緒に何かすれば、面白いことができそうじゃない?」と言われたひと言でした。

徂徠 「『でも私は技術者じゃないし、何もできないですよ。』と答えると『別に自分でやらなくても、人脈あるでしょ?』と。その頃は勤続年数や経験が、新しいアイデアを出すには邪魔しているかもしれないと考えていた頃だったので、他業界の方にそう言われてハッとしました。

Wonder LAB Osakaに通い始めてからは、これまでと比べ言動を少し変えただけなのに、それまで出逢ったことのない人と、どんどん繋がっていきました。

ぼんやりとしていたイメージがいろいろな方と会話を重ねるごとに、まるでジクソーパズルのピースが揃い埋まっていくような、不思議な感覚がありました」

そのアイデアこそ、誰もが自分の足にぴったりの靴に出会えるというサービスでした。「このサービスを世に生み出すために私は足に悩み、生かされているのではないか?」と思うほどに、出逢ったばかりの人々に支えられ、アイデアが形作られていったと言います。

次世代イノベーター育成プログラムに参加

▲始動Next Innovator 2019 国内プログラムの様子

具体性を追求するため、社内カンパニーの枠を超えた仲間と、パナソニック アプライアンス社の新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」に応募しました。

事業化を前提としたビジネスコンテストの最終選考に残ることができましたが、短期間でチームとしてビジネスモデルの完成度を高めることができず落選。

しかし社内外の人々に背中を押され、次の行動を起こすことで大きなチャンスに恵まれます。経済産業省とJETROが主催する次世代イノベーター育成プログラム「始動Next Innovator」のメンバー100名のうちのひとりに選ばれたのです。

徂徠 「何の知識もない私が参加していいのかと悩みましたが、せっかく選考に通過したし、やってみてダメならそれまでという感じで、このチャンスを楽しんでみようと参加する決意をしました」

そんな弱気な彼女は、プログラムの度に学びと気付きを得ては熱く語る同期に圧倒され、周囲の凄さに逃げ出したくなる日々の中、アイデアへの想いは消えずに膨らむばかり。そしてついに100名の中から選抜されるシリコンバレー研修メンバーへの切符を手にすることになります。

徂徠 「国内で何度かピッチイベントがあり、シリコンバレーメンバーに選んでいただけました。今振り返ってみても、優れた事業計画がたくさんあります。後で知ったのは、私がなぜこれを実現したいのかという強い想いが伝わってきたと。そこを評価していただいたようです」

なぜ、そうしたポイントが評価されたのか、その答えはシリコンバレーの文化にありました。

実現への想いを強めたシリコンバレーでの経験と現業への良い影響

▲シリコンバレー研修のピッチの様子

シリコンバレー研修プログラムは、自ら立案・策定した事業計画をシリコンバレーの起業家、ベンチャーキャピタリストに対してピッチで発表し、そのアイデアを現実的なビジネスモデルに近づける、あるいは実現するためのチャンスを得る場所でした。

徂徠 「シリコンバレーに行くと挨拶のように『最近どんな失敗をしていますか?』と聞かれます。そしてその言葉とともに、『あなたは何者か』という問いを繰り返しされました。

国内プログラム期間中でも同じようなことを問われましたが、シリコンバレーはその比じゃなく、極端に言うと資料すらどうでもいいという感じでした。投資家からは、私が何を想い何を語りたいのか、何をやりたいのか。

“その人“を見極めようとされていました。日本では出逢うことができないシリコンバレーの最前線にいる人たちから意見をいただくことで、短期間でしたがすごく刺激を受けました。

『あなたが考えるサービスは、地球の裏側の国まで届けられる可能性がある』なんて言っていただけることもあり、良い意味で勘違いさせてくれる街でした」

中には鋭い指摘を受けることもあり、激しくもまれることで、すこしずつ混沌としていた内容が整理されていきます。

徂徠 「新たな技術を組み合わせることで、その業界では絶対できない!と言われ続けてきたことができる可能性がある。そんな時代になっていることに改めて気付かされました」

帰国した彼女は今まで以上に、自分がなぜこのテーマを実現したいか強く意識するようになったといいます。

徂徠 「『あなたがやらないで誰がやるの?』という感じで言っていただいたのが何より嬉しかった。靴のことで苦労をしたことのない人には全くわからない課題です。

規格外という極度の苦労をしているからこそ得た繊細な感覚、貪欲に得た知識を大事にしてこのテーマを絶対に実現していきたいと思う様になりました」

プライベートな取り組みである始動プロジェクトへの参加が、現業にもプラスの影響を与えていると言います。

徂徠 「再び兼務という形で新規事業案件に携わることになりました。その中で関わる一つひとつが、始動プロジェクトで学んだことや経験と重なり、とても役にたっていると思います」

靴のサイズで困っている人を救いたいから、仲間を増やし事業化したい

▲シリコンバレー研修の仲間やメンターの方々と

多くの方からの支持を受けここまでやってきましたが、事業化への道のりは長く、まだまだこれからだと話します。

徂徠 「始動プロジェクトに参加したことでテーマの方向性は見えつつあるものの、技術のところが解決したかというと、まだ何ひとつ解決していません。その状況と、シリコンバレーまで行かせていただいて、とても良い評価をいただいたのに……というギャップに正直苦しんでいます」

しかしシリコンバレーで得た、自分こそが成し遂げるんだという決意が揺らぐことはありません。パナソニック ハウジングシステム事業部のR&Dセンターと兼務で新規事業にも携われて学ぶ事が数多くある。現業でも様々な事を学びながら、引き続き諦めずに個人のテーマも少しずつ前進させていきたいと話します。

徂徠 「靴のサイズが合わなくて困っている多くの人を救いたいという考えがベースにあります。

ソリューション開発までをやりたいし、それはパナソニックの技術を組み合わせれば実現できるのではないか、くらしアップデートを掲げるこの会社でこそ実現したい。その為に、技術を一緒に考えてくれる仲間ともっと出逢いたいと考えています」

振り返れば、新規事業とは縁遠い職務でキャリアをスタートさせた徂徠。過去には心身のバランスを崩し、長期療養していたこともあったと言います。それでも自分がやりたいこと、叶えたいことはなんなのかを忘れずにいたこと。

そして一歩踏み出す勇気を持って言動に移すことで、周囲の環境が瞬く間に変わり、志ある仲間達との出逢いが、特別な才能がなくても世の中を変えられるかもしれないという可能性に気付かせてくれ、夢の実現に一歩近づくことができたのです。