Game Changer Catapult(以下、GCカタパルト)は、未来の「カデン」の創出を目指すパナソニックアプライアンス社の企業内アクセラレーターです。今回は2019年度の活動を振り返り、2020年度に向けたさらなる挑戦を誓いたいと思います。

新規事業開発の魅力

GCカタパルトにおいて、私は運営事務局のメンバーとして新規事業のアイデアを持ち寄った社員たちのサポートをしています。一方で、私自身、これまでのキャリアで新規事業に関わる経験を積んできたこともあり、新規事業を立ち上げることに強い意欲を持ってきました。

ターニングポイントとなったのは、インドへ赴任したときでした。女性に対する犯罪被害が多発する社会に対し、なんとかしたいとウェアラブル型のセキュリティデバイスを考案したところ、現地の人から高い関心を寄せていただきました。自分が感じた社会課題や困りごとをきっかけにアイデアを考え、お客様からフィードバックをいただきながらアイデアを磨いていくという新規事業開発の醍醐味を強く実感できたのは、このときが初めてです。 

日本へ帰国した後も、海外向けの新規事業開発に携わってきましたが、白物家電事業の成長をミッションにベトナムへ赴任することになりました。勢いを増す競合他社とのトップシェア争いで精一杯となり、当時は新規事業開発に取り組む余裕はなく、自分のwillをあらためて問い直したときに葛藤がありました。社内での今後のキャリアアップを考えると、良い選択ではないと理解はしていましたが、先行き不透明なこの時代の中で、はたして今の状況はベストな選択なのか。アドレナリンが出るほどワクワクを感じる仕事の方が良いアウトプットを出し、結果自分の成長にもつながる。今後の中長期的なキャリアを考え、新規事業に関わりたいと当時の上司や人事へ直談判しました。

そして、2019年1月に新規事業開発を自ら学びなおすチャンスにしたいという想いもあり、GCカタパルトにジョインしました。

  

社内メンター制度の強化でGCカタパルトをアップデート

2019年度のGCカタパルトプログラムにおいて、私は社内メンター制度の強化に取り組みました。 

自分自身が外からGCカタパルトを見ていたとき感じていたこと、これまでの参加メンバーのフィードバックなどを踏まえ、社内メンターのフォローが十分ではないという課題が見えてきていました。

これまで新規事業に携わったことのないメンバーも多いので、ビジネスに関するアドバイスはもちろん、メンタルやチームビルディングなどの細かなケアもできるよう、1チームに専任の社内メンターを置き、これまで以上にメンバーに寄り添える体制としました。

私自身も運営メンバーとして、エントリー前の段階での壁打ち相手になったり、落選したチームに対しても、できる限り生の言葉でフィードバックをするように心掛けました。

また、書類選考を通過したチームが事業アイデアをブラッシュアップするために受けるブートキャンププログラムについて、参加メンバーから負担が大きかったという声も一部あったため、2019年度は3カ月から6カ月に期間を延ばしました。長く新規事業に向き合っていると、どうしても精神的に苦しくなる時期があります。よって、苦しくなってくるタイミングで、再びチームビルディングを行い、一致団結するためのメニューも新たに追加しました。

 

アイデア、顔ぶれともに変化が見られた19年度4期生

サポート体制を強化した19年度でしたが、選考に残ったチームはこれまでの参加チームと比べると変化を感じる顔ぶれでした。

例年、どうしても技術やソリューションありきのアイデアが多くなる傾向にありますが、新規事業開発には顧客起点に立つことこそが大事です。今回勝ち残ったチームは、これまで以上に強いパッションやwillをベースに顧客起点で事業アイデアを磨き上げていったと感じています。

また、若い世代が多かったというのも特徴です。新規事業に対する感度、社会課題解決への意志、SDGsなどに対し、比較的若い世代の方が関心を持っているように思います。 

彼らは、デジタルネイティブでもあり、そうした情報、ソリューションに触れる機会が多いと感じています。実際、新入社員の中にもGCカタパルトの活動を知ってパナソニックへの入社を決めたという人もいるほどです。

 

最終選考を通過し、事業開発を継続する4チーム

ここからは、19年度の最終選考を突破した4つのチーム、それぞれに焦点を当て、GCカタパルトのプログラムの中でどのような変化を遂げていったかをまとめます。

① 「Swallowee」とろみ飲料自動調理機による嚥下障害ケアサポート

「Swallowee」は、嚥下障害に着目して、飲み物に自動で適切なとろみをつけるプロダクトです。 

嚥下障害を持つ方にとって、スプーン一杯の水でおぼれるというほど、液体の誤嚥が深刻な問題となっています。また、とろみを付けるためには、飲み物の種類ごとに適切な粉末量を計測する必要があります。介護をする人にとっては、シビアな作業を求められる精神的な疲労や、毎回計量をしなくてはいけない手間がありました。

「Swallowee」を発案したチームは、学生時代から介護関係の研究を行っていたメンバーを中心に、介護に関して興味を持つメンバーが介護と家電を組み合わせて新しいことがしたいと集まったチームです。比較的早い段階で課題を明確にしていたチームでした。一方、入社2年目の若いメンバーが多く、どちらかというと基礎的な部分でフォローが必要なチームでした。

課題解決につながる着想は、オン・オフ関係なく様々なところから得られるものです。通常の業務と新規事業、そしてプライベートと、その境目があいまいになっていきます。そのバランスの取り方に慣れていない若いメンバーにしてみると、個人の活動として情報収集などを行うことと、業務として必要な手続きをして推進すべきことをどう考えるべきか、戸惑うこともあったようです。

こういったときにこそ、社内メンターが重要な存在になります。社内の事情もわかった上でアドバイスができるので、微妙なバランスの取り方なども助言することで、次第に活動が加速し、より介護現場のニーズに沿ったアイデアへブラッシュアップしていくことができました。

 

② 「nafeee」ジェルネイル用特殊ベースコートによるソリューション

当初は豊富なネイルデザインをアプリで受発信できるWeb基盤を構築し、ネイルプリンタを用いて高品位なネイルアートをいつでも自宅で楽しめるようにと企画されたアイデアでした。

メンバーのほとんどは本業でもビューティーの事業を担当していました。そのため事業部への貢献という観点からネイル関係で何かできないかというのが彼らのスタート地点。必ずしも最初から課題やターゲットとなるお客様というのが明確ではなかったのです。

しかし、ブートキャンプの前半に顧客課題に寄り添った形で新しい体験を考えるプログラムがあり、その中で現場へのヒアリングを重ねていくとネイルを「塗布(ON)する」ことより「除去(OFF)する」ことに手間と時間がかかっているという課題に気付いたのです。

このチームは経験豊富なメンバーが多い分、ひとつ間違えば既存事業の発想に陥りがちになるところをうまく軌道修正ができました。

「nafeee」を使うと、特殊なベースコート剤で簡単にネイルをOFFできるので、エンドユーザーの時間短縮になることだけでなく、ネイリストの稼働を上げることにもつながり、ネイル事業の収益も上げられるという発想へ拡げました。「お客様と直接つながる」ビジネスモデルに変革させていったことがポイントです。

 

③ 「AiryTail」周囲の空気も綺麗にするパーソナル空気清浄マスク

「AiryTail」は、バイクライダー向けのパーソナル空気清浄マスクです。ライダーの呼吸を守りつつ、周囲の空気も綺麗にする製品ですが、バイクライダーが多い発展途上国で多くの人に使われることで、空気浄化のインパクトも増大させる、ソーシャルアクション型のカデンでもあります。 

エネルギーの消費が地球環境の汚染や資源枯渇につながるという家電に対するマイナスなイメージがある中で、逆に使えば使うほどに自分たちの家である地球の環境を改善する「地球家電」をつくりたいというビジョン先行型のチームでした。

身近な大気汚染を解決したい!というビジョンはあったものの、ビジネスとして誰をターゲットにしてどんなシチュエーションの課題を解決するのか、最初は明確ではなく、かなり苦戦をしていました。

私自身のベトナムでの原体験の話などをさせていただくことをきっかけに、チームはいろいろな情報を収集する中で、東南アジアのバイクライダーに目を向けました。今回、唯一海外をターゲットとしたテーマだったので、直接お客様のところへ訪問することは難しかったものの、リモートで現地の人と会話をするなどの工夫をし、顧客の課題を明確にしていきました。

「AiryTail」のチームは、リモートツールを使ったグローバルな新規事業開発の可能性も示してくれたと感じています。


④ 「DrawNet」お絵描きを通じた子ども向けクリエイティブ教育サービス

「DrawNet」は、お絵描きを通じて子どものクリエイティビティを高める教育サービスです。ファシリテーターとしてクリエイティブインストラクターが合いの手やコメントを入れ、子どもたちの自由な発想を引き出します。

先行き不透明な時代といわれ昨今、クリエイティビティへの関心度がグローバルで高まっています。一方、日本の教育ではまだその課題に対する認識も薄い領域でもあり、最も苦労をしたチームでした。

初期は、絵を描くときにペンから音が出るような楽しい体験を生み出すガジェットを企画していました。それに対して「なぜお絵かきである必要があるのか?」「顧客の課題は何か?」といった指摘が多く寄せられていましたが、プログラムの中で学びながら、自分たちのwillと顧客課題を両立させるアイデアに進化させてきました。

現在も苦労をしている状況ですが、日本の教育をアップデートできるテーマとして期待しています。

 

新型コロナウイルス感染症拡大による影響

これら4つの事業アイデアは、SXSW2020(サウス・バイ・サウスウエスト:米国で毎年行われる、インタラクティブ・音楽・映画をテーマにした文化・テクノロジーに関する祭典)への出展を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響でかないませんでした。

そこで私たちは、もともと計画していた現地でのピッチを動画で撮影してオンラインで配信したり、これまで以上に外部メディアでの発信を強化しました。そうすることで、お客様の生の声をいただいたり、パートナー候補となりうる企業から「一緒にやりませんか」というお声を掛けていただくことにもつながりました。

ピンチをチャンスに変えて発信し、多くのフィードバックを得た経験がメンバーに自信を与え、3月末に臨んだ社内での最終審査会において、すべてのチームが4月以降もプロジェクトを継続することが可能になりました。

しかし、新型コロナウイルス感染症拡大による影響は長期化が予想される中、各チームともにピンチをチャンスに変えるために現在も事業化に向けて、模索を続けている状況です。

 

Game Changer Catapultに残された課題と私の夢

振り返ると、19年度はメンタリングの強化やブートキャンププログラムのアップデートが功を奏し、途中リタイアや問題が発生するチームもなく、過去と比べても社内外から高い評価を得た事業アイデアを育てることができました。

GCカタパルトに加わる際、自身で事業をつくることを考えていましたが、GCカタパルト代表の深田から「自ら事業を生み出すことも大事だが、事業を生み出せるひとを100人、1000人と増やすことも大事。そっちの方がチャレンジングかもしれない」とアドバイスを受け、1年間サポートに邁進してきました。メンバーたちの成長する姿を身近で見たり、メンバーからも感謝の言葉をもらったりしたことで、当初はしっくりとこなかったその言葉が、今では私のやりがいとなっています。

だからこそ、クリアしなければいけない課題もあらためて見つけることができました。GCカタパルトの目的は、既存事業を変革する新規事業を継続的に創出すること。社内だけでは、事業アイデアの質・量ともに不十分であるため、もっと柔軟に社外のスタートアップと連携するための仕組みをつくることも必要だと思っています。また、社内においても、アプライアンス社以外へ対象を広げ、将来的にはパナソニック全体の活動となるようにしていきたいと思います。

そうした課題をクリアしながら、多くの事業開発に伴走し、私自身のスキルアップを図っていきたいと思います。不透明な世の中で、自分でも稼げるスキルを身に付け、その上で会社にも貢献する。GCカタパルトでの活動を通し、これからの時代にあった働き方を社内に根付かせ、会社、あるいは社会を変えていくことができればと思い描いています。