パナソニック創業者一家が再びひとつに。運命の足音が聞こえた日

▲発起人の濱松 誠さん

2016年9月の設立から、わずか1年。大企業で働く20代~30代の若手・中堅社員を中心に構成され、46社1,200名を超えるネットワーク(2018年1月現在)となった「One JAPAN」は、ひとりの熱い想いから始まりました。その男の名は、濱松 誠さん。

「One JAPAN」設立のきっかけは、濱松さんがパナソニックの内定を得た2005年までさかのぼります。

濱松さん 「内定者時代に、先輩社員とのつながりが少ないと感じました。そこで内定者と若手社員のネットワーキングのため、2006年の入社後に内定者と社員の懇親会を始めたことが、そもそもの始まりです」

自らが先輩社員となった後も濱松さんは2011年まで、懇親会を主催。気付けば、400名を超える若手のネットワークができ上がっていました。そのタイミングで、濱松さんにとって運命とも呼べる転機が訪れます。

濱松さん 「2011年にパナソニック株式会社が、パナソニック電工株式会社、そして三洋電機株式会社を完全子会社化しました。もともと3社は創業者一家ですが、各社異なる社風、文化を持つ会社だから大変なこと。パナソニックとして再びひとつになるこの統合は、経営的に大きな出来事でした」

世界に数十万人の社員を抱えることになる会社の転換期。

「大きな組織のイチ社員だから、自分には何もできない。どうせ何を言っても変わらない」と普通なら途方に暮れてしまいそうですが、濱松さんは持ち前の情熱と実行力で動き始めます。

濱松さん 「世界数十万人の社員の心をひとつにしようと、経営陣が『One Panasonic』とスローガンを掲げているのを聞いて、自分には何ができるだろうと。

当時、僕には6年かけてつくってきた400人を超える若手のネットワークがあったので、若手を集めて一体感を生み出そうと、大坪 文雄社長(当時)を呼び、200名規模のイベントを開催しました。これが有志の若手社員の会『One Panasonic』のスタートです」

こうしてOne JAPANのベースとなるOne Panasonicが、2012年に誕生。濱松さんは社員のモチベーション向上、知識拡大、人脈形成を目的に、全体交流会や分科会を開催していきました。

「言っても無駄」から自分ゴトとして取り組める土壌をつくる

▲月に1度、濱松さんを中心に代表者たちが集まる

平日の仕事が終わった後や休日の時間を使って、濱松さんは地道にOne Panasonicの活動を続けていきました。「One Panasonicの話を聞きたい」と言ってくれる人がいれば、当時勤務していた大阪から夜行バスに乗って全国各地に出向き、感じている課題や想い、実現したいことを伝えていきます。

濱松さん 「One JAPANの構想が見えてきたのは活動から2~3年がたったころ。One Panasonicの想いに共感したり、興味を持ってくださった社外の方やメディア関係者から声をかけてもらうことが増え、『大企業の若手を盛り上げていける』という自信が少しずつ芽生えていきました」

活動を続ける中で、濱松さんは社外のつながりも増えていきました。そしてOne Panasonicのような若手ネットワークは、多くの大企業にも求められていると気付きます。

濱松さん 「他の大企業で働く方から、『どうやって活動されているんですか?』、『うちも同じ課題を抱えています』という声を聞くようになりました。また、同じような活動をしている他社の方から『一緒に勉強会しませんか?』というお誘いもいただくようになり、若手を盛り上げる活動は多くの大企業に求められていることだと実感しました」

組織の縦割りによって横の交流がない、新規事業が生まれにくいなどの大企業特有の課題は、パナソニックだけではなく他の大企業でも起こっている──。

大企業病を打破するためには、モノカルチャーな風土や同調圧力の空気感や孤独に負けないようにするため、組織を超えてつながること、そして若手が「自分ゴト」として参加しできる場所が必要だと濱松さんは考えました。

そこでOne Panasonicを運営しながら温めてきた構想を実現すべく、2016年9月、富士ゼロックスの「秘密結社わるだ組」組長代理の大川 陽介さん、そしてNTT東日本の「O-Den」発起人・代表の山本 将裕さんと共にOne JAPANを立ち上げます。

濱松さん 「パナソニックで起こっている問題は、多くの大企業が抱える問題と共通しています。一社で悩むよりもみんなで先進事例を学び、解決していくのがいいのではないかと考えました。

大企業の中にもいろんな考え、さまざまな立場の人がいます。ですが一致団結して世の中を良くしよう、日本を良くしようと、ひとつのビジョンに向かっていけたらという想いを込めて、One JAPANと名付けました」

交流するだけじゃない。メンバーのコラボレーションで新規事業誕生も

▲「CEATEC」での活動

2016年9月10日、キックオフイベントを開催。26社120名と共にOne JAPANは始動しました。その後2016年12月に第2回、2017年4月に第3回の総会を開催。そして設立から1周年を迎える2017年9月の総会には、45社・800名超が参加する規模にまで拡大していきます。

総会、そして共通の課題を感じたメンバーが集まる分科会活動を通して、One JAPANでは大きく3つのアクションに取り組んでいます。

濱松さん 「ひとつ目は共創です。中でも『One JAPAN』の参加メンバーである、富士ゼロックス、マッキャンエリクソン、IBM、東芝の会社横断プロジェクトにより生まれたマインドフルネス瞑想ロボット『CRE-P(クリップ)』は、2017年6月開催の『人工知能EXPO』や10月開催の『CEATEC』で大きな注目を集めました。

私たちの声が届いたからとは直接的には言えないかもしれませんが、複数のメディアにも取り上げていただき、結果として、11月の厚生労働省の『柔軟な働き方に関する検討会』では、兼業ガイドライン骨子案とモデル就業規則改定案が提示されました。

最後は人材・組織開発です。こちらはまだ具体的には動けていませんが、One JAPANに参加することで、本業のモチベーションが上がった、視野が広がった、仲間ができたという声があります」

また40社100名を超える「One JAPANハッカソン」の開催。参加企業の一押し製品・サービスを展示する「モノ・サービス博」の実施。そして2017年10月に開催された「CEATEC」へOne JAPANとして出展も果たすなど、2016年9月のキックオフイベントから約1年の間に、One JAPANは数々の成果を残しています。

大企業で働く若手が挑戦する意欲を持つことが、より良い未来につながる

2018年1月現在、One JAPANは46社・1,200名を超えるネットワークに広がりました。One JAPAN、そして日本の未来を見つめながら、濱松さんたちは今、どのような未来を描いているのでしょうか。

濱松さん 「究極のゴールは、『日本を、社会をより良くすること』。そのために自分たちに何ができるかと考えたときに、『挑戦する人を増やす』、『風土を変革する』ことではないかと思います。

決して大企業だけにこだわっているわけではないですが、自分たちは大企業に勤めていて、良いところも悪いところも知っている。良いところを大事にしながら、大企業病と言われる共通課題は、時間をかけても解決したいですね」

閉鎖的、縦割り、周りの空気を読む──。

これら大企業病を変えたいと思っても、さまざまな理由からなかなかその声は通らず、「どうせ言っても無駄症候群」に陥る人や、やる気のある人ほど辞めてしまうのを見て、当事者意識を持って変えていく必要があると濱松さんは考えています。

濱松さん 「組織の中で力を発揮できていない優秀な人をたくさん見てきました。起業も転職も良いけれど、今の会社で頑張りたいという人が挑戦心を持って、より良い未来をつくっていける環境づくりも同じぐらい大切なのではないでしょうか。

力を発揮できないということは大企業にとってはもちろん、日本にとっても損失。だから僕はOne JAPANというアプローチで、仲間と共に課題を解決していきたいです」

とはいえ何よりも大切なことは、本業をしっかり頑張り成果を出すこと。その上で、「大企業からイノベーションは生まれない」という定説を覆せるよう、どんなに小さくても成果を1個ずつ生み出していくことが大切だと考えます。

濱松さん 「大企業病を打ち破り、挑戦する空気をつくるためには、『具体的なアウトプット』と『土壌をつくること』、この両輪を同時に回すことが必要です。たくさんの知を組み合わせて、実践のトライ&エラーを繰り返しながら、新しい価値を生み出していく──。

そのような『実践共同体』として、One JAPANを拡大、継続していきます」

「仕事に『自分ゴト』として取り組めるようになった」、「会社組織を超えて新しいビジネスが生まれた」。濱松さんたちのもとには、One JAPANでの出会いを通じて生まれた成果や喜びの声もたくさん届いています。

一人ひとり、所属も立場も考えも異なるけれど、One JAPANには自社そして日本をより良くしていきたいと熱い想いをもつ仲間が集まっています。同じ方向を見て歩んでいける仲間は、何よりも心強い存在。そんな仲間と共に、新しい大企業のあり方を生み出し、より良い未来をつくることができると、濱松さんは信じています。

※本ストーリーは一般社団法人at Will Workが開催する、働く“ストーリー”を集める5年間限定のアワードプログラム「Work Story Award」を受賞した企業のストーリーです。