「Wave Lab」ここは新たなアイディアが生まれる場所
3DプリンターにVRゴーグル、AIロボ……。最新のテクノロジーへの興味と関心が高い社員有志たちの声に会社が応じるカタチで2019年前に立ち上がった「Wave Lab」。2022年10月現在、渡辺を含めて約10人のメンバーが部署やプロジェクトを越えて集う。その目的とは……。
「会社側からの課題や指示はありません。テクノロジーを扱う会社として、進化するAIやVRなどに触れる機会を得ることが、何よりも大切だと思います。自分自身、新しい技術や装置に触れることがとても好きです。
ただ記事や写真だけではどうしてもイメージが湧かず、実際に動かして作ってみないとわからないことが多々あります。Labは頭の中で考えたアイディアをカタチにする場所。ここで得た知見が、将来的に何か新しいサービスが生まれるきっかけや、クライアントのために役立てば嬉しいですね」
会社側から課せられたルールはひとつだけ“Labに仕事は持ち込まないこと”。
「仕事は現場でやりきってから。Labは社内にはあるけれど職場ではない。仕事から離れて無心になれるからこそ、新鮮な気持ちでいられるのかもしれませんね」と渡辺は笑う。
数字だけでは見えない世界。“リアル”を見たからこそ得られた現場感
日頃はiSS事業部ソリューションサービス部の一員として、クライアント企業の情報システム部門に常駐して生産管理基幹システムの運用を担っている。工場の生産量に対してどの程度の材料が必要か、そのためのスケジュール管理や発注、倉庫の空き状況など複雑な業務を支えるシステムを円滑に運用しサポートするのが仕事だ。
業務に携わって数年、システム上は工場のことを把握しているつもりだった。ただ打ち合わせのたびに「ラインを止めないためには」と頭を悩ませる現場の声を聞くと、数字だけではどうしてもわからない存在があることに気づいた。パソコンを前にいくら想像しても答えは出ない。クライアントにお願いして、工場を案内してもらった。
暑い夏の日、滝のように汗をかいてたどりついた北関東の工場。倉庫に積まれた材料の山に驚かされた。
「見上げるような高さでした。担当者の方から『これで一日分です』と言われてさらに驚きました」
倉庫の山は一日で消え、また翌日には同じ量が搬入される。そこにはシステムや数字では見えない安全管理や在庫調整など、さまざまな現場での作業と業務にあたる人々の姿があった。上流から下流へ、生産ラインの詳しい説明を担当者から聞きながら見て回った。材料不足や急なトラブルによって製造が止まれば、膨大な量の材料が滞留する。
保管場所は?再開のめどは?出荷の予定は?
いくつもの課題が発生するだろう。現場に立ったことで「ラインが止まる」ことの重大さを身をもって実感した。
「自分の中で描いていたシステムとリアルな現場がつながっていく。その感覚を得られたことが大きかった」と渡辺は工場での経験を振り返る。
もっと丁寧に、もっと……。仕事への向き合い方が変わった瞬間だった。
枠にとらわれないからこそ生まれる新たな発想。ワクワクは明日への活力になる
新しいことを学び、技術に触れると、既存の課題と結びつけて思考が走り出す──。「Wave Lab」を通じて学んだVR技術を応用し、仮想空間内で工場の生産ラインの設計ができないだろうかと考えた。
現実の世界では生産ラインを一度組み立てると、大きな機材を動かすのは容易ではない。想定される空間とともに機材をスキャンして、配置を仮想空間上で設定できれば現場の負担は軽減できるかもしれない。
試しに、自宅の一室をカメラで撮影してデータを読み込み、仮想空間で再現した。ゴーグル越しにみた自室は想像以上の仕上がりだった。小さな手ごたえが積み重なり、その先に大きな可能性が開かれていく。VRとともに3Dプリンターの活用も模索している。まだこの世界にないものを作ることの楽しみが研究心をかき立てる。
志を同じくするメンバーとともに、プログラマーやエンジニアなどのソフトウェア開発の関係者による24時間耐久開発イベントに参加した。またNTTグループ主催のAIカーレースコンテストでは優勝に輝いた。Labから生まれるのは新しいアイディアだけじゃない。仕事だけでは培うことのできない、メンバー間の信頼関係も大切な成果だ。
今とともに未来を見つめて。想いはおのずとつながっていく
VR技術をさらに応用してやってみたいことがある。仮想空間への没入感を活かし、実際には体験できないようなVRによる安全訓練をできないか。工場では小さなきっかけが、大きな事故につながりかねない。トラブルを未然に防ぐための疑似体験プログラムができれば、もしもの時に役立つかもしれない。想いの先にあるのは現場で働く人たちの笑顔だ。
「まだまだこの先何に応用できるかは未知数ですが、クライアントとの会話の中で『VRについて教えてほしい』『AIでこんなことはできないか』など話題に上ることも増えてきました。
実際にLabで考え、作った経験からアドバイスやアイディアを相手に伝えられることで話も盛り上がります。知識や経験を活かせる場が来る日もそう遠くないかもしれないですね」
小さなヒントからきっと新しいアイディアが生まれるだろう。今すぐには仕事に直結しないかもしれない。ただ、それは決して無駄なことじゃない。培われた経験が幾重にも重なり合った土壌の上に新しい芽がでると渡辺は信じている。