決済系アプリの機能改善に関わったことが転機に。未経験でデザインの世界へ
デジタルサービスにおいて重要なのは、サービスの使い手であるユーザーによる体験。UX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)/UI(ユーザーインターフェイス)に求められているのは、ほかでもない、お客さまの視点に立ったデザインです。
入社以来、みずほ銀行、みずほ信託銀行、そしてみずほフィナンシャルグループとわたり歩いてきた佐竹が培ってきたのは、まさにそうした“お客さま第一”の考えをサービスへとつなげていくプロセスでした。
約9年にわたって法人営業やプロダクト営業に携わってきた佐竹は、新しいことにチャレンジしたいと考え、2017年に社内公募でデジタルイノベーション部へ異動。デジタル分野という新天地でフィンテック領域の事業開発に取り組む中、現在の仕事の原点とも言える出来事がありました。
佐竹 「ある決済系アプリの送金機能を改善するプロジェクトに携わったときのこと。どういった機能をユーザーが必要としているかを検討するのですが、参考にできる事例がない状況でした。そのため、サービス提供者である自分たちがそのアプリを使うシーンを想定して、機能要件が決まろうとしていました。
しかし、実際には自分たちが想定するよりももっといろいろな使い方をするお客さまがいらっしゃるはずです。そこで、さまざまな用途で送金機能が利用されることを社内の関係者に理解してもらうために、アプリ画面の遷移を示す簡単なモックアップ(デモ画面)を制作。それをベースとして、本当に届けたいサービスについて議論を重ねていきました。結果、当時考えうる最良の形に仕上がったと思います」
常にお客さま目線を大切にする佐竹の視点が、デジタルという新しい領域で活かされた出来事でした。
その一件から佐竹が本格的にUX/UIデザインに関わるようになるまで、それほど時間はかかりませんでした。
佐竹 「ある日上司から、みずほ銀行が提供するスマホ決済サービス“J-Coin Pay”のUX/UIを改善してほしいと言われました。当時のUIは画面に4つの大きなボタンが並ぶシンプルなもの。使いやすい反面、新たな機能を追加するスペースがないなどの課題が出ていた時期でした。
当時、UIデザインに関する知見はありませんでした。ですが、ユーザーの利用データからUIの課題をひとつずつ洗い出し、改善案を考える業務に興味が湧いたのを覚えています」
現状の課題と方向性を整理して関係者に共有し、具体的なデザイン案に落とし込んでいくプロセスを主導するのが佐竹の役割でした。
ビジネス上のゴールと、利用者のニーズや使いやすさの一致する点を探すUX/UIデザインの世界は、非常に奥が深く、佐竹はデザインを決めていく過程に魅力を見出します。
佐竹 「業務上の目的を達成するのはもちろんのこと、実際にサービスを利用するユーザーであるお客さまの視点に立ってUX/UIの改善を進めていきました。お客さまの多くは、まず個人間送金の用途で初めてJ-Coin Payを利用し、その後、『決済機能も利用してみよう』と興味が広がると想定したのです。
こちらの期待するように使っていただけるか、外部のデザイナーや社内のデータサイエンティストと共にデータを見ながら検証し、デザインを決めていきました」
UX/UIデザインに求められるのは、お客さま目線とビジネスゴールとのバランス感
ユーザーとのタッチポイントとなるUX/UIを改善していくプロセスにおもしろさを見出す一方、はじめは手探りでやっていくことが多く、不慣れゆえの苦労もありました。
佐竹 「UX/UIデザインを行う中で、『こういったデザインが好きといったセンスの有無ではなく、ユーザーにどう使ってほしいかというユーザーインの発想とビジネスゴールとのバランス』という視点が重要なのではないかとの思いがありました。しかしながら、そもそもUX/UIデザインという概念自体が社内に浸透していない中、そこをわかってもらうことに苦労しましたが、周囲に根気強く伝えていきました」
「いいものをつくり、お客さまへ届けたい」という想いは共有していても、当時はそれを実現するための手法やノウハウは十分ではありませんでした。課題もありましたが、同時に、大きな可能性も感じていたと言います。
佐竹 「UXとUI、つまりお客さまにサービスを届ける上でのラストワンマイルに当たる部分が体系化されていないことが課題だと感じていました。ただ、そこを体系化しデザインに落とし込むことができれば、〈みずほ〉のものづくりが大きく変わるという予感もありました」
この佐竹の読み通り、やがてデザインを重視し自力でデザインする文化が社内に徐々に根付きはじめ、活躍の場が広がります。
また、佐竹は社内のUX/UI向上プロジェクトに携わる中で、苦労もあったもののそれ以上の学びがあり、自らの成長を実感しています。
とりわけ、“改善し続けること”の重要性に気づき、お客さまの本質的なニーズを見出し、共創によってイノベーションを生み出していくことの大切さを学んだことは大きな収穫でした。
佐竹 「以前はサービスそのものを成長させていく発想がなく、キャンペーンやプロモーションでカバーするのが当たり前だと考えていました。最初に作ったものを起点とし、ユーザーの期待や不満の声を拾い上げながら改善・成長させていくことの大切さを学べたのは、このプロジェクトに携わったから。いまはUX/UIだけでなく、〈みずほ〉のさまざまな領域でもこうしたプロセスが必要だと確信しています」
正解のないUX/UIデザイン。改善し、より良いサービスを模索することがやりがいに
2021年に、佐竹はみずほ銀行デジタルマーケティング部へ異動。みずほ全体でのUX/UIデザインに取り組むため、専門のチームを作りはじめました。チームの業務は拡大しており、今後もメンバーが増えていく見込みです。
佐竹「UX/UI改善を進めるにあたって、まず必要なのが自らデザインを行うデザイナーや、こういった取り組みへの賛同者・協力者を増やすことだと思います。今は、アプリのデザインに加えてデザイナーの採用や育成、ガイドラインやフローといったルールの整備、取り組みの発信なども行っています。
また、他部門から協力の依頼をもらってプロジェクトに参加することもあり、外部デザイナーとの連携の進め方などを含めて支援する仕事も増えています」
中でもいま、佐竹がとくに注力しているのが、みずほダイレクトアプリのUX/UI改善です。
佐竹 「2022年にアプリをリニューアルしました。現在は、さらにお客さまに『ぜひ使いたい』と思っていただけるような機能拡張を見据え、“ペルソナ”(サービス・商品の典型的なユーザー像)や、“ユーザーストーリー”(ユーザーの視点での要件を定義すること)を設定し、デザインを進めているところです。
みずほダイレクトアプリは、残高表示や振り込みなどの機能に加え、口座の利用状況のレポートや投資信託やカードローンなどの残高表示といった、さまざまな機能が搭載された金融サービスのプラットフォームのような位置づけです。そのため、UX/UIを改善する場合、各サービスが対象とするユーザーや必要な機能への深い理解が欠かせません。関係する部署と密に連携しながら取り組んでいます」
関係する部署と調整して要件を整理し、デザインへと落とし込んでいくための先導役を担う佐竹。営業を含む、これまでのビジネス部門での経験がここでも活かせています。
佐竹 「『こんなものが作りたい』という要望をもらった際に必要なのは、なぜそれを作りたいのかを深掘りし、背景にあるニーズをつかむ力。これまでの経験から社内の組織図が頭に入っていて、各部門の人の動き方や考え方をある程度理解していることが役立っています」
思いがけず、しかも未経験で携わることになったUX/UIデザイン。今では大きな魅力を感じていると言います。
佐竹 「この仕事には正解がありません。どれだけ念入りに調整し考え抜いたとしても、期待とは異なりお客さまから否定的なフィードバックをいただくこともあります。でも、そうやって日々試行錯誤しながら定量・定性の両面で改善し、より良いサービスの形を模索していく作業が自分の性に合っているとも感じます。苦労も含め、楽しみながら取り組んでいます」
顧客利便No.1のサービスをめざし、対面/非対面の枠を超えた新たな顧客体験の実現
部門を超えた連携のもとで“お客さま第一”をモットーにUX/UIデザインを進化させてきた佐竹。2022年のみずほダイレクトアプリの刷新時には、社員を対象としたモニタリングを実施し、そこで大きな気づきを得たと言います。
佐竹 「リニューアルに先立ち、日々お客さまと接する営業店の方々やコンタクトセンターの方々にリリース前のアプリを使ってもらいアンケートを実施しました。何度も回答が必要な手のかかるものでしたが、集まった感想や改善提案は100以上。期待の大きさを肌で感じると同時に、大きな収穫がありました」
社内アンケートを実施したことで、UX/UIデザインに終着点がないことを佐竹はあらためて実感。継続的に改善していくこと、関係者全員が目的を共有することの大切さを思い知りました。
佐竹 「デザインはあくまで方法論。『ビジネスとしてめざす到達点はここ』『お客さまはこんな課題を抱えており、こんな使い方をしてほしい』という目的を、関わる人全員が理解し、共有することが最適解を選ぶ上で重要だと感じています。
たとえば、開発を手がけるエンジニアとのやりとりを開発側のプロジェクトマネージャーに任せっぱなしにするのではなく、自分も一緒にエンジニアのもとに出向いて直接対話し、相手がどんなトーンで何を話しているのか聞いて理解するようにしています。その甲斐あって、開発メンバーとの連携もかなりスムーズになってきました」
UX/UIデザインを通じ、サービス品質の向上に努めてきた佐竹。いま見据えるのは、対面/非対面の枠を超えた新たな顧客体験の実現です。
佐竹 「預金を引き出す際はATMを、難しい手続きをするときは店舗を利用いただく方は多いと思います。このため、アプリの機能だけを磨き続けても、お客さまの体験の一部にしか貢献できません。今後は顧客利便No.1のサービスをめざし、ATMや店舗、アプリをシームレスに体験いただけるようなUX/UIを追求していきたいです。
そのためにも、UX/UIデザインに関わる方が連携できる体制を構築したいと思っています」
もっと見やすく、もっと使いやすく——誰もが直感的に理解できる共通言語を追い求め、周囲を巻き込みながら、“お客さま第一”を形にしていく。営業としてお客さまと向き合ってきた経験を持ち、“お客さま第一”を日ごろから心がけている佐竹だからこそ、できることなのかもしれません。
〈みずほ〉の隅々にまでユーザーの立場に立ってモノづくりをするデザイン文化を浸透させ、お客さまがより良い体験ができる未来をめざして、佐竹の挑戦はこれからも続いていきます。