ビジネスマッチングからまちづくりへ。米原プロジェクトが立ち上がる

滋賀県米原市の遊休地を再開発して賑わいを取り戻したい。協力してくれないか──

みずほ銀行法人推進部蒔田 英一郎のもとにそんな「まちづくり」の依頼が届いたのは2015年のこと。

蒔田が所属する法人推進部では、お客さまに最適なパートナーを紹介するビジネスマッチングを推進しています。蒔田はこのビジネスに10年以上従事するベテランですが、直接的に「まちづくり」の相談を受けたのはこれが初めてだったといいます。

蒔田 「私たちのミッションは、国内外の様々なお客さまの成長を事業面から支援しようというものです。銀行といえども、お金の話をしていれば事足りる時代ではなくなりました。お金が動くとき、必ずモノやコトが動く。これらのモノ・コトづくりを主体的にサポートするのが私たちのめざすビジネスマッチングです」

依頼自体は初めてでしたが、蒔田には、銀行がいずれ「まちづくり」に携わるようになることがある程度予見できていたと言います。

蒔田 「私たちのお客さまは、数でいうと事業法人が圧倒的に多いですが、国や自治体、地方銀行もいらっしゃいます。そうした方々の喫緊の課題が地方創生ですから、会話の中で自ずと『地域を活性化するために何ができるか』という議論になります。

〈みずほ〉のネットワークを活用しながら、新たなモノ・コトづくりをやっていこうと考えると、仕入先・販売先のご紹介といった個別のビジネスマッチングにとどまらず、地域全体を巻き込んだ動きになっていくのは自然なことだと考えていました」

蒔田が相談を受けた案件は、米原駅からほど近い公有地の有効活用がテーマでした。過去にも検討が為されてきましたが、なかなか具体化しなかった経緯があります。

蒔田 「通常、『まちづくり』はデベロッパーが主体となって進みます。人口の多い大都市圏の開発案件はデベロッパー間の争奪戦になりますが、残念ながらそういう場所ばかりではない。米原案件の依頼が私のところにきたのも、事業リスクの見極めが難しかったからという点は否定できません」

蒔田自身、自分に何ができるのかという不安があったといいます。

蒔田 「正直、プロでも手を焼く案件を一介の銀行員がどこまでお役立ちできるのか、疑問もありました。ただ、お客さまからのご要望にはどうにかして対応したい。デベロッパーにはない、〈みずほ〉ならではの切り口で貢献する術を考えようと、発想を切り替えました」

ネットワークを駆使、プロジェクトが加速

当初、蒔田は米原駅周辺に賑わいがないのは、人そのものが少ないからだと考えていました。ところが調査を始めると、意外な事実が発覚します。

蒔田 「駅には新幹線も止まりますし、北陸との結節点なので、在来線との乗り換えで客数自体は多いんですよね。近くの国道も交通量は多い。人の流れがあるのに賑わいが生まれないということは、そこに立ち寄る理由がないからであり、立ち寄る場所やそのきっかけを作ればよいのではないかと考えました」

蒔田は近隣のホテルに注目しました。

蒔田 「駅近くにビジネスホテルがあるんですが、そこの稼働率が非常に高かった。理由を探ってみると、近くにある大手企業の研究所や工場関連のビジネス客が連泊しているケースが多いとわかり、安定的な需要であるそれらを核に取り組みが進められると思いました。

たとえば、ビジネスユースに観光要素を加えられないか。ビジネス客が滞在中にビジネス以外で賑わいを生み出してもいいし、京都などの周辺観光客を取り込むような宿泊施設にも需要がありそうだ。道の駅を作って国道を通過する人たちに立ち寄ってもらうのはどうか。地元の方々とともに様々な可能性を検討しました」

賑わいの源を探す議論の過程で、蒔田はエネルギー事業にたどり着きます。そして、そこから、プロジェクトは大きく動き出していきます。

蒔田 「ある大手企業から、次世代のエネルギー需給の枠組みを考えたいというお話を聞き、当地でエネルギー地産地消に取り組んではどうかと考えました。大手企業は発電サイドでしたので、当然、使ってもらう人たちが必要になりますが、ここで、今まで検討してきた需要家サイドのアイデアが活きたのです。

ホテルの温浴に使用する話や、学校を作って日中の需要を増やすなど、どんどん追加のアイデアも出てきました。そうした話を具体化させる検討を積み重ねていくうちに、実際に市庁舎が移転してくるなど、エネルギー需要とともに賑わい創出の具体的な公算が立ってきたわけです」

ここで蒔田は今までビジネスマッチングで培ってきたネットワークを大いに活用したといいます。

蒔田 「もともと事業法人の新規事業創出をサポートする仕事をやってきたので、『まち』というフィールドで新しいことにチャレンジしたいというニーズは掴んでいました。そこで、県外に向けて当地をテストベッド(実験場)としてアピールしたところ、次世代通信の実証実験や、eスポーツの拠点設立、プロスポーツを育成する話まで出てきました。『ワクワク感』があるものを探していたら、どんどん仲間が増えてきたのです」

案件の本格化に伴い、2018年には計画の実現に向けた一般社団法人が立ち上がりました。蒔田も監事として参画し、様々なプレイヤーとともに奔走する日々を過ごしています。

地元とともにつくりあげる。まちづくりの独自メソッド

蒔田はまちづくり案件に携わるうえで、地元との協働の重要性を繰り返し強調します。

蒔田「まちづくりは非常に長いスパンの案件になります。外様の企業が少しの期間関与するのではお話にならない。活動をサステナブルにするためにも、とにかく現地の協力、もっと言うと現地の方々にけん引していただくことが不可欠です」

将来にわたって当地を支える住民こそが街づくりの主役であり、これをいかに巻き込んでいくか。そのためのキープレイヤーとして蒔田は地場金融機関や自治体を挙げます。

蒔田 「地場の金融機関は我々よりもはるかに地元のことをご存じです。また、金融の目線から言っても、長期案件においては期中のモニタリングが非常に重要ですが、現地からのフォローアップができれば迅速かつ細かに対応することができます。米原プロジェクトにはありがたいことに滋賀銀行に参画していただきました」

米原プロジェクトは自治体の関与が深いのも特徴だといいます。

蒔田 「通常、まちづくり案件では、自治体は民間に任せることが多いんですが、本件では米原市が一般社団法人に参加しているんです。自治体の本気度は参加者全員への求心力に直結します。市の本気度が伝わった結果、参加者がそれぞれの立場でリスクを取りながら、まちづくりに向き合うという理想的な体制になったと思います」

蒔田は現在、米原以外にも複数のまちづくり案件を手掛けています。それらの案件で蒔田とともに働いた社員はみな、銀行員離れした蒔田の発想や行動に驚きます。息の長い案件の途中で担当が異動するなどして、いつしかその手法は「makitaメソッド」の愛称とともに〈みずほ〉社内に広がっていきました。

蒔田 「独自の手法といっても、やっていることは自分としてはシンプルなんです。既に色々な方がまちづくりに注目しており、それぞれ強みを発揮して励まれていますが、それらをつなげていくことができるプレイヤーは限られるわけです。

個別の取り組みを全体最適を意識してつなげ、そこに広く外部のプレイヤーに参加してもらうということが出来れば相乗効果が生まれますよね。そのつなぎ役に〈みずほ〉がチャレンジしているというほうがしっくりくるかもしれません。銀行がそこまでやるのかと驚かれはしますが(笑)」

次世代金融と、次世代の〈みずほ〉

〈みずほ〉が中期経営計画で掲げる『次世代金融への転換』。蒔田はその絵姿を次のように語ります。

蒔田 「銀行には業種・業態を問わず様々なお客さまとのネットワークがあり、そこから得られた貴重な情報資産があります。ただし、どうしてもお金の話が中心となり、その貴重な情報を十分に使い切れていない。

お金に紐づくことを探してきたのがこれまでの銀行モデルだとすると、ネットワークを活用した新たなモノ・コトづくりこそが次世代のモデル。まちづくりで新規事業が生まれて、そこで資金需要が生まれたら、これは立派な次世代金融といえるのではないでしょうか」

蒔田はまちづくりこそ時流に合ったビジネスだと言います。

蒔田 「『まち』ってそうそうなくならないですよね。だから、もしまちづくりが成功すれば、これは全世界で求められている文字通りのサステナブルビジネスになります。〈みずほ〉のルーツの一つである渋沢栄一ではないけれども、こうした長期スパンで公益に資する取り組みこそが本来の銀行業務なのではと感じています。渋沢の大河ドラマを見た人たちが、〈みずほ〉では今も渋沢の志で動いている人がいると思ってくれたら嬉しいですね」

社内には、まちづくり案件は蒔田だからできる、次世代の担当者に受け継ぐことは難しいとの声もあるといいますが、蒔田は明確に反論します。

蒔田 「〈みずほ〉の若手は、与えられたミッションだけをこなして、みな同じようなスキルを持つ金太郎飴になりたいと思っているわけではありません。役に立ちたい、大きな仕事をしたいという気概があると思っています。ただ、何をどうすればいいのかわからない人が多い。仮に独自アイデアを持っていても、経験のない中で部分最適で動いて上手くいくわけもありません」

蒔田は上の世代の役割に言及します。

蒔田 「若手が本来のミッションと新しい試みを両立できるように導いてあげなければいけない。現在、社内でまちづくり案件に取り組む有志のタスクフォース(ネットワーキングタスクフォース)を立ち上げていますが、上の世代が手本を見せてあげ、サポートしてあげることが必要です」

蒔田は今後の展望について次のように語ります。

蒔田 「米原プロジェクトは、『まちづくりって銀行員でもお役立ちできるんだな」と社内に思わせるところまで持っていけたらいいのではないでしょうか。そして後進にバトンタッチする。まちづくりは100年後も続いていくわけですから、そういうタイムスパンで取り組みを引き継いていきたいですね」

長期の視座と具体的な行動で次世代の〈みずほ〉の可能性を追求する蒔田。これからもネットワークの接合点で確かな存在感を放っていきます。