現場のあらゆる細かな対応に追われる施工管理の仕事の先にある大きなやりがい
2023年5月現在、林は兵庫県・神戸市にある工事現場で、オフィスビルの建築工事を担当。当工事の監理技術者であり、役職は所長直下の「次席の立場」である工事課長です。
林 「現場全体の目標は、安全に、品質の高い建物を造ること。私は次席の立場として、その目標達成のために全体を見渡し、工程や品質などありとあらゆることをトータルで管理しています。具体的に何かひとつ定型の担当があるということではなく、工事の着工から完成引渡しまでの流れを考え現場全体を指揮していくことが、この現場での私の大きな役目です」
施工管理の仕事は多岐にわたります。現場における職人さんの安全を守る「安全管理」、工期内に作業が終わるように作業員の配置やスケジュールを考える「工程管理」、建物の品質を守る「品質管理」、そして予算内で工事ができるようにコストを管理する「原価管理」も施工管理の仕事。その中で林は全体をチェックしながら、工程を組み、日々奮闘を続けています。
林 「どんなに工程をしっかりと組んでいても、現場では常に想定外の出来事が起こるものです。多くの人が動いている中で、本当に、トラブルが起こらない日はないくらいですね(笑)。
たとえば、ある職人さんが『今日はここで作業をする』と決めていても、それを知らない他の職人さんが前日にその場所に物を置いてしまうこともあります。そして『これじゃあ作業できないじゃないか!』と私のところに連絡が入る、というような、細かいトラブルは本当に毎日どうしたって起こります。そういった対応をひとつずつ捌きながら、日々の仕事が進んでいくんです」
工事現場では、女性の割合が「100人に1~2人」というレベルだと林は話します。それでも、現場で働き続けている理由は何でしょうか。
林 「私の入社当初は、今よりもさらに女性が少ない職場でした。でも前田建設で仕事をしていく上で、女性だからという『働きにくさ』はまったく感じていません。もちろん体力的な差はどうしてもありますが、むしろ『男性に負けないように』という考えで働いたことは、今まで一度もないです。これは本当にたまたま、職場の仲間たちや、周りの職人さんにも恵まれていたのかもしれませんね。
いまだに女性は少ないですが、私は何よりも現場仕事のすばらしさに魅了されてきたんです。目の前で建物が組み上げられていく達成感に何度も心を揺さぶられて、気づいたときには現場が心の底から好きになっていました」
前田建設工業で働いていきたい──そう思えたのは会社に流れる気持ちの良い空気から
前田建設工業で感じている「働きやすさ」。その予感は入社前からあったと林は振り返ります。
林 「大学では建築学部だったため、意匠設計や建築関係のデベロッパーを志望していました。就職活動で不動産やゼネコン、ハウスメーカーなどさまざまな業界を検討していたのですが、その中で魅力を感じていったのが、ゼネコンの現場での仕事でした。
現場をまとめる所長の方や先輩社員たちが語る、現場への情熱に心が動き始めたころに面接を受けたのが前田建設工業。面接に出向いても、説明会に行っても、社員の方が『今日は面接なの?』と、やさしく声をかけてくれたのを今でも覚えています」
他では感じたことのなかったアットホームな雰囲気に「この会社で働きたい!」と思い、入社を決めた林。それでもまだ、現場で施工管理の仕事をすると決めていたわけではありませんでした。
林 「いつか設計をするにしても、建物が作られていく工程は知っておかなければなりません。まずは、現場で経験を積みたいと希望を出しました。それから『この現場を最後までがんばろう!』と仕事を続けていくうちに、自分の興味が、設計から施工管理の仕事へと向かっていったのだと思います。
そういう一つずつが積み重って今に至っているので、『ずっと現場で仕事をしていこう!』と、大きな決断をする明確なタイミングがあったわけではなかったんです」
ただ目の前の出来事に集中し、もがき続けていく中で、いつしか“現場”に魅了されていった林。その中でもターニングポイントになった現場があったと話します。
与えられた仕事だけではなく、ひとつ上の仕事を。次のステップへと向かう分岐点
林のターニングポイントになったのは、入社6~8年目までを過ごした、大阪の阿波座駅前タワーマンション新築工事の現場で所長に言われた言葉でした。
林 「配属されたときは、コンクリート担当や鉄筋担当など、自分の担当を持って仕事をしていました。たとえばコンクリートなら、上司が組んだ工程に従って、コンクリートを打設する協力会社と連携して、段取りや前さばき、品質のチェックなどをしていきます。
しかしあるとき、所長に『ひとつ上の仕事を取りに行け』と言ってもらったんです。それは、自分のひとつ上の工事課長の仕事である『工程表を組む』という仕事を奪取するつもりで行けという意味でした。実際に自分で工程表を組んで、現場を動かしていく。今までの仕事とは違うおもしろさに気づけたきっかけでした」
そして今、自分が工事課長の立場になり、心境にも変化が見え始めました。
林 「後輩だった人たちが“部下”という存在へと変わり、今まで相談を受けていた内容も、上司としての決断を求められるようになりました。とても責任がある、ハードルの高い仕事だと感じています。
部下との接し方で心がけていることは、まず目標を伝えること。現場の中で『これをこうしたい』と考えと想いをしっかり伝え、そこからの過程は自分たちで考えてもらっています。正直、まだ、しっかりとできているかは自分では確信を持てているわけではありませんが……」
ほんの少しの不安が見え隠れしながらも、工事課長として確実に成長をしている林。もうひとつ上司の背中から学び取ったことを実践していると話します。
林 「『このようにした方がいい』と直接言われたわけではないのですが、上司の行動から学んだのは『どちらかに偏ってはいけない』ということです。たとえば、現場の職人さんからクレームがあったときでも、上司はそこに肩入れせず『でも、こっちの意見も聞いてみよう』と常に冷静に判断しているのを見てきました。
全体を見渡す人間であるからこそ、客観的に、一歩引いた視点で考えなければならない。自分にとって、その姿が印象的であり、吸収したいと思う理想の上司像でもあります」
人も建物も、同じものは二つとない。一期一会の“現場”でともに造る
林にはひとつ夢がありました。それは「いつか、公共性の高い建物を造りたい」ということです。その理由は、建物を利用する人の様子を自分の目で見たいという想い。人々が自由に出入りできる公共の建物なら、完成後に自分も利用者としてその中に入ることができます。
林 「ひとつ前の現場が大阪府枚方市の劇場を建築する仕事で、そこでこの夢が叶ったんです。造り方も同じ構造が積み重なっていくマンションやオフィスビルとはまったく違い、劇場にはどこにも基準の構造がありません。平面で見ても、立面で見ても、縦に見ても、横に見ても、この世に同じものはなく、工程も常に違うことをやらなければなりません。
さらに見た目のデザイン性もあり、音響にもこだわっています。音響設備の施工には、専門的な協力会社が加わり、それまで知らなかった多くのことを学ぶことができました。完成後に一度だけその劇場を訪れることができたのですが、本当に自分の思い入れが強すぎて、どこを見ても工事中の思い出がよみがえってきました」
人も、建物も、工程も、どれひとつとして同じ現場はなく「一期一会」。それぞれで新しい学びがあり、それこそが「現場の醍醐味」だと林は語ります。
林 「この仕事は、本当に『かっこいい仕事』だと思っているんです。建物を完成させるというシンプルな目標に向かって、現場に関わるすべての人が一丸となって進んで行く。次から次へと生まれるさまざまな課題を、ともに乗り越えていく。全員が家族のような連帯感が生まれていく。これは現場でしか味わえないことだと思います」
そして林は、同じく建設業界を目指す「女性技術者の卵」に向けて、メッセージを伝えます。
林 「工事現場での仕事は、女性にとっても『輝ける場所』です。建物を造るという目標があり、仕事の後には『自分よりも長生きするもの』が完成する。大きな成果が残り、達成感と充実感が得られるはずです。
みんなで力を合わせて何かに取り組むことが好きな方なら、きっと現場の魅力を感じられると思います。前田建設工業で一緒に、『前田建設に頼んでよかった!』と言っていただけるような建物造りにチャレンジしていきましょう!」