私がいま求められている役割は何か?

一人で何でも器用にこなせるスーパーマンではありませんから──

苦笑いしながら自身について語り始めたDTK推進室の井手 宏明。

出光興産のDTKプロジェクトを事務局担当として推進し、各部門や製油所への働きかけを行う彼の仕事の進め方の出発点は「役割分担」にあると言います。

井手 「私はどんな仕事も一人ではなくてチームでするのが好きなんですよね。役割分担して小さなチームで進めていく方がプロジェクトは進みやすいと思うんです。私自身、一人で器用に何でもこなせるタイプではないからこそ、自分自身の役割は何かを考え、社内外の人と人とを繋ぎながら分担をしながら進めているんです」

2005年に昭和シェル石油に新卒入社した井手。入社後、供給部(本社)での製油所の運転計画立案や、グループ会社への出向を通じて製油所(現場)内での運転計画の実行を担ってきました。

その後、出光興産と昭和シェルの経営統合により発足した統合準備室に異動。各部門の業務の統一や新しいやり方を考案する仕事を続け、現在のDTK推進室に至ります。

井手 「入社してからずっと製油所と連携しながら運転計画を進めていくことを考えていたので、統合準備室に異動と発表されたときは驚きました。しかし、経営統合において、両社の製油所が連携して統合効果を最大限引き出すことは非常に重要な案件でしたので、本社と現場の双方で経験してきたことが活かせる部分はきっとあると前向きに捉えていました」

井手が10数年を通じて経験してきたことは、統合準備室や現在のDTK推進室で仕事をする上でも如何なく発揮されています。

井手 「統合準備室からDTK推進室の事務局となった今、私が担っているのは主に“橋渡し役“ですね。コンサルタントの方のノウハウをうまく社内に還流させることだけではなく、各部署でのお困りごとの解決策が見出せるように部門の担当者同士を繋ぎながら一緒に答えを出そうとしています」

統合準備室への異動後、経営統合による「シナジーの発掘」も担っていた井手。本社や現場、双方で当事者として経験してきたことを生かし、各部署の担当者と膝を突き合わせながら対話を重ねていくことで、自らの存在価値を少しずつ実感しながらプロジェクトを進めていきました。その中でも多くの時間を使ってきたのが「現場からの情報の吸い上げ」のシーンでした。

ヒアリングを通して井手自身、少しずつ統合新社が取り組まなければいけない課題が見えてきたのでした。

やりにくさ”を解消する媒介として、私が貢献できること

各部署へのヒアリングを通して井手が感じた課題とその先に見えた期待。それはDTKを担う社員一人ひとりが「心の奥底に秘めている想いの大きさ」でした。それは井手に対する言動で明らかになっていきました。

井手 「DTKプロジェクトを進める上では、誰もが意見や質問ができるよう、Teams内で「#よろず相談チャネル」を作っているのですが、それとは別に私の元に直接足を運んで相談しに来てくれる人が多いんです。

自分で言うのは少し照れくさいですが、なんでも相談しやすい性格なんだと思います。まれにすごく重い話を拾ってしまって、困ることもあるのですが、気軽に話しかけてもらえることで、この仕事をやってよかったと思う部分も多くあります」

社内から多くの相談が集まる井手ですが、相談が寄せられる理由は「決して答えを出してくれるからではない」と分析します。

井手 「実際に相談されて私が何をやっているかというと、実は一緒に悩んでいるだけなんですよね。その場でスマートな解決策をスパッと出せたらカッコいいんですけど、相談事を聞いたらそれを持ち帰って別の方にアイディアをもらいながら返答をすることの方が多いんです。

ただ、最初に話を聞くだけであっても、私に相談をしてくれるのは、一緒に悩んで困りごとに対して共感してくれる人が欲しいのかなとも思っています」

そんな井手が今まさに取り組んでいるのは、製油所との取引に関する事務業務の統合・効率化プロジェクト。多岐にわたる取引の窓口を所管部署が一括したほうがいいのか、各業務別部署別に窓口を置いた方がいいのか。製油所との取引自体が旧昭和シェル固有の業務だったことも重なって、このプロジェクトの開始当初は上手く進んでいませんでした。

井手 「『これからの業務を誰に相談したら良いのか分からない』と製油所を所管する部署から私に相談がありました。私もどう導いていけばいいのか分からなかったですが、順番に話を聞きにいきながら、関係者同士を集めて話し合いの場を設けることで少しずつ課題がクリアになって、解決策が見出せるような関係になっていきました」

担当者は「より効率的に業務を進める方法はないだろうか?」という疑問と不安が入り混じった状態。井手は何より仕事を担う人が不安なくスッキリした状態で仕事を進めて欲しかった。そのためには足も運ぶし、話も聞く。これが井手の相談しやすい雰囲気が垣間見える瞬間でもあるのです。

井手 「統合における業務では、さまざまな部署の担当者と進めていますが、私自身は決して部署をまたごうという意識はありませんし、そもそも部署を意識していないのかもしれません。

私の担当業務自体が“なんでも相談屋“だと思っているので、受ける相談の中には直接システム担当部署や製油所に聞いた方が良いことも来ますが、そういった区切りは考えず、まず話を伺いますね」

とはいえ、「部署ごとに壁を感じることはある」と付け加える井手。DTK推進室から発信された「まず業務の一本化、そのあと最適化」の情報が部署の隅々まで広がっていない状態が存在しているのも事実です。

井手 「そういうときは、また顔合わせからはじめて、徐々にコミュニケーションを深めていくようにするしかありません。力づくで進めるものではないと思いますし、私もそういった手法は得意ではないので。

それでも自分で自分を奮い立たせながら進めているんです。それは相談してくれる人の存在があるからこそ。私以上にやりにくさを感じている人がいるならば、媒介となって対話をすることで、また自分が話を聞くことで和らいでいく部分もあるはずなんです」

コミュニケーションが本当は苦手。だけど自分がやらなければ、やりにくさを残したままでは「現場の働きがい」には繋がらない。だったら、自分がその役割を担って少しでも貢献できれば……井手のこうした勇気との葛藤の狭間には仲間への思いやりがあったのでした。

DTKで構築すべきは、対立構造ではなく協調関係

経営統合を経た出光興産が「DTK」を掲げてから約1年半──

社内を縦横無尽に駆け巡りながら本プロジェクトを進める井手はすっかりDTK事務局の顔となりつつあります。

井手 「相談される立場というのが社内でも認知されてきたようで、繰り返しお話を伺ううちに、少しずつ各部署の業務の理解も進んできました。課題を解決に導くには表面的なことではなく、密度の濃い話をしなければいけないので、各部署の業務の理解が相談者との関係性の深さにも良い影響が生まれてきたのかなと思います。

進めていく中で人と人を繋ぐ上で、その人の課題や業務を理解してから繋ぐようになりました。担当者同士を引き合わせて話をしてもらえれば速いと思うこともありますが、引き合わせる場を設けるのであれば、自分も理解した上で一緒に悩み、自分なりの案も提示したいなと。

時間がかかってしまうこともありますので場合によりますが、それにより各部や個人の業務への理解や情報の蓄積ができています」

一歩ずつ、そして着実にDTKプロジェクトを進める井手ですが、進めていく上で苦労するのは「全社目線の体制作り」だといいます。

井手 「DTKで取り組んでいることは全社で業務を効率化することです。業務の効率化を考えるとなると、まず効率化する対象を定めるために、「私の仕事はここまで」と区切りたくなります。

その気持ちはすごく理解できるのですが、それだと部分最適になる恐れがあるうえに、仕事の押し付け合いや取り合いになりがちです。部門もしくは全社として最適化した体制を作ることが何よりも苦労している部分ですね」

お互いに業務の境界線を引き合って対立構造を作るのではなく、タッグを組んで相乗効果を高めていく議論が重要なのです。

井手 「管理する側とされる側、計画を作る側と実行する側など「立場が異なる間の良好な緊張関係」こそ両者にとって最適な状態と考える業務では、相手を信頼して自分たちの主張もじっくり話すということが大事ですが、特に経営統合のタイミングは、対立構造になりがちでした。

経営統合した上で業務のやり方を洗練するには、そこで揉めている場合ではないですよね。両社で共通の課題に向き合う視点も持てるよう議論を促すことも心がけてきましたね」

新たな出光興産のカルチャーを育む担い手として

現場で起こるあらゆる課題に対して、目の前の“ワダカマリ“を見つけて、それを一つひとつ対話を重ねながら解消してきた井手。DTKを進めることによって育まれる出光興産の新しいカルチャーに期待を寄せています。

井手 「本社と製油所のような関係では、それぞれが見えている世界が違います。その二者の議論が拮抗しても、最適点はきっとあるはず。両者が自分の話をするのではなく、各々の強みを自覚して、収益を上げたり安定して製油所を運転したりすることに対して、同じ方向を向いて話ができるようになってきたと感じています」

統合を通じて業務を一本化したのと同様、ゴールに向かって一丸となって取り組むべきことはどんなに大きな組織同士であっても実現したい姿。そして、井手はそれが実現した未来を思いながら再び笑みを浮かべます。

四十にして惑わず、五十にして天命を知る──

そんな言葉を持ち出しながら、井手は「それでもまだ先のことのビジョンは明確ではない」と話します。

井手 「逆算できるタイプではないし、ルーチンで決まっていることや相談されたことなど、目の前のことをこなしていくタイプ。今は一緒に悩んで少しずつ進んできましたが、そろそろ自分ならでは付加価値や目に見えた効果も出していかないといずれ相談がこなくなってしまうかもしれない、とは思っています。今は私自身のネットワークをつなげて得られた経験を振り返り取り込みながら、前に進めていきたいなと思います」

誰からも相談されやすい振る舞いを心がけながら、相談されたら一緒に悩みつつ己を奮い立たせ、何とかプロジェクトを前に進めようと奮闘する井手。

自らの役割を全うする井手が思い描く未来の働き方は「これまで進めてきた、補完し協調することでのシナジーを、補うだけでなく作り出す共創のシナジーへつなげること」 にあるのでした。