交通安全アドバイスロボ「Ropot」開発に携わったデザイナー

数々の会社でプロダクトデザインを担当し、2018年に中途採用でHonda社員となった若田。そして、芸術大学でデザインを学びHondaに新卒入社した才津。2人はHondaのデザインセンターライフクリエーションデザイン開発室に所属しデザインを行っています。

若田と才津がデザイン担当として開発プロジェクトに参加したRopotは、交通安全アドバイスロボ。手のひらサイズのこの小さなロボットは、子どもたちに安全確認を促すため、ランドセルの肩に取り付けて使います。

RopotにはGPSが搭載されており、事前に保護者が設定した道路横断地点に近づくと振動します。

その振動によって、安全を確認しなければならないことを子どもたちに思い出させるのです。また、後方から接近する車両を検知して振動でお知らせをしてくれます。

Ropot開発プロジェクトが発足した背景には、7歳児の交通事故死傷者数が年間1,000人以上もいるという悲しい現状がありました。

若田 「Hondaは、2030年ビジョンのなかで『交通事故ゼロ社会の実現をリードする存在となること』を目指しています。さらに2050年の目標として『全世界で、Hondaの二輪車、四輪車が関与する交通事故死者ゼロ』を掲げています。未来ある子どもたちの命を守るため、車をつくる私たちに何かできることはないか。

この考えからRopot開発プロジェクトが立ち上がり、私と才津さんが新たにデザイナーとしてプロジェクトメンバーに加わりました。2020年末には実証実験がはじまり、これから先の市販化に向けて動き始めています」

こだわり抜いたデザインコンセプトは“肩に乗る小さな相棒"

Ropotのコンセプトは、「肩に乗る小さな相棒」です。アニメ作品などに登場する肩に乗った相棒をイメージして、その距離感を大切につくられました。

若田 「肩に乗る相棒として考えると、一号機は大きすぎました。そこで内容物の見直しを図ってリサイズし、小学1〜2年生が肩に乗せられる最適なサイズを目指しました」

交通安全アドバイスロボとして常に身につけるので、小学生が使うのに適した形であることや注意喚起も踏まえた目立つ色にすることは大前提でした。さらに、相棒のように身近な存在に感じてもらうために、可愛さも追求したデザインとしたのです。

若田 「特に個性的なのが、目の表現です。LEDで目のパターンをデザインして、にっこり・ぱっちり・眠いという3種類の表情をつけました。一号機の仕様では決まっていなかったのですが、ただ目が光るだけでは相棒感が伝わりませんし、表情を豊かにして生命感を出したかったのです。

さらに、Ropotを通じて親子がコミュニケーションを取り、交通安全の意識を高く持ってほしいという願いもあります。そのため、使う人を笑顔にしたいと思いながらデザインしました。

また、親しみやすさを出すために、目だけでなく丸みも重視しました。Ropot は生き物のように4本足で踏ん張っているようなデザインです。車っぽい要素がありながら、丸みのある可愛らしいフォルムにまとまりました」

Ropotのような交通安全アドバイスロボは、まだ世の中にありません。だからこそ、はじめて見る人が機能や目的を理解して使いこなすことを手助けするインターフェースにこだわりました。

才津 「私は、ビジュアルイメージやスマートフォンのアプリケーションづくりを担当しました。エンジニアだと難しく考えがちな機能を、親しみを持ちやすいようなグラフィックで表現することで、世界観を素早く伝えられるとともに、親子のコミュニケーションも促せると考えたのです。

また、Ropotはスマートフォンのアプリケーションで保護者がお子さんの交通安全意識の変化を確認できることが大きな特徴です。そのためアプリケーションの使いやすさも大切です。保護者にとって使いやすく伝わりやすいUIを考えてデザインしました」

2020年末にHondaの拠点がある埼玉県の和光市で行われた実証実験では、子どもたちがRopotの振動に促されて左右を確認する習慣をつけられたなどといった声が上がり、効果を確認できました。さらに、若田と才津が関わったデザインにも、非常に大きな反響があったのです。

若田 「デザインにおいて万人に受け入れられることはとても難しいのですが、Ropotのデザインは実証実験に参加してくれた多くの親子が愛着がもてて、返却したくないと言ってくれました。

さらに、帰宅してRopotをランドセルから取り外し、段ボールでRopotの家をつくったというお子さんのエピソードを聞いて、ちゃんと“相棒“として大切にしてくれていると感じ、本当に感激しました」

異なる道を歩んだのち、同じHondaのデザイナーとして働く2人の経歴

Ropotのデザインに携わった若田と才津は、それぞれの想いでデザイナーを志望しました。

複数の会社でプロダクトデザインを手掛けてきた若田がデザイナーに興味を持ったきっかけは、祖父が画材屋を営んでいたことでした。

若田 「祖父も絵描きでしたし、絵が常に身近に感じられる環境にいたので、小学生の頃からデザイナーになりたいと思っていました。しかし、デザイナーというものに昔ながらの絵描きのイメージを持っていた祖父には『生活が大変だからやめたほうがいい』と猛反対されましたね。

それでも中学生の頃、プロのデザイナーに『プロダクトデザインはスプーンから飛行機までデザインできるよ』と教えてもらったことで興味が湧き、プロダクトデザイナーになろうと決めました」

1999年に美術大学を卒業した若田でしたが、当時は厳しい就職氷河期でデザイナーとして働くのも難しかったのです。そんななかでも若田は様々な会社で家電や玩具などのデザインを担当し、培った経験を活かして2018年にHondaへ転職しました。

一方、才津がデザイナーを志したのは高校生の頃でした。

才津 「大学では鉄道車両に興味があったためプロダクトデザインを選択しました。様々な分野のプロダクトデザインを学ぶなかで、鉄道車両に限らず公共性の高いプロダクトをデザインしたいと考えるようになりました。

個人が買う商品の場合、良いと思うものは人それぞれで絶対的な正解はありません。しかし、お客様それぞれが選んで買うものではない公共の製品では、一つの答えを決める必要があります。私はそこにやりがいを感じたんです。そこで、信頼性の高いプロ向けの製品を多く作っているHondaのパワープロダクトのデザインを志しました」

2人のデザイナーが、Hondaのデザインで心がけていること

若田が心がけているのは、人とモノの関係や環境や社会との関わりを考え、そのうえで最善となるデザインで、どういう新しい体験価値をユーザーに対して提供するかです。

若田 「我々デザイン部門は、エネルギーやロボティクスといった新しい分野の製品開発が多く、時代の潮流を読みながら様々な視点で物事を考えなくてはなりませんので、様々な部門の方々と協力して形にしていきます。

ですからコンセプトは非常に重要になってきます。ユーザーはどういう人なのか、ユーザーにとって最善な形と機能となっているか。使いやすいことは当然ですし、はじめて使うユーザーでも直観的に操作できるのかという観点も大切です。

機能美に加えて、思わずはっとするようなデザインはそれだけでワクワクすると思います。このように常にお客様の目線で考え、デザイナー目線で、新しい体験価値を提供し、これからも人の人生に寄り添うデザインをしていきたいと思います」

才津は、見た目をかっこよくするためだけのデザインではなく、「普遍」かつ「不変」のデザインを心がけています。

才津 「『独りよがり』にならないことも意識しています。Hondaでは技術者と隣り合わせで開発に関わることができます。だからこそ、外観のデザインだけではなく、その商品のユーザーにとっての本質的価値は何かを考えます。また、製造方法やコスト、販売のされ方まで理解したうえで合理的で美しいデザインを提案したいのです。

そのために、デザインと関係ないところでも開発メンバーと話をして、全方位的にデザインがどう機能するかを考えて製品をつくりたいです」

Ropotプロジェクトは、今後さらなる実証実験を重ね、お客様からのフィードバックを活かしながら量産化を目指した開発を進めていきます。

若田と才津は、デザインにかけるそれぞれの想いや信念を胸に、これからも様々なプロジェクトの中でチャレンジし続けます。