膨大な聞き込みでわかったモチベーションのありか

▲笹井は新しい組織づくりのために立ち上がった

フィラディスが外部に委託し、社内の意識調査を開始したのは2016年。 我こそはワイン好き、といった人間が集まり、大好きなワインを扱っているのだから不満はない──そのはずなのですが、調査をしてみると、組織に欠けている部分があることがわかりました。営業の笹井 涼乃はこう話します。

笹井 「調査結果から、ほめる文化がないことがわかりました。仮に入社1年目の人が頑張って入社5年目の社員と同じ成果を上げたとします。このとき、入社5年目の社員が当たり前と感じていたら、入社1年目の社員のモチベーションは上がりません」

コミュニケーション不足、それに対して笹井自身が感じている問題点は社内環境でした。

笹井 「社員数も増えて、仕事上で関わりがないと、存在こそ知っていてもその人がどんな仕事をしているかわからないのです。もちろん、その人がどんなことにやりがいを感じ、どんなことが悩みかもわかりません。これでは、いざ一緒に何かやろうというときにうまくいくはずがありません。

社員同士のコミュニケーションが不足していると、会社全体の生産性を上げることは難しいですし、新しいプロジェクトを誰に任せるのがいいのかもわかりません」

同じく営業の山口 要は、自身の実感をこのように話します。

山口 「今思えば、みんな個人プレーに走りがちな部分があったんです。私は転職してフィラディスに入社し、全国の酒販店さんにワインの紹介をしています。そして、私がフィラディスに入ると、以前から取引のあった酒屋さんがなん人もこだわりと信念がある会社だよねと転職を喜んでくれました。

しかし当時、私を含むフィラディスの社員は『もっとお客様とお話ししたい』、『もっと売りたい』という意識が強く、会社内でのコミュニケーションがおろそかになっていたと思います」

2017年初頭から、このふたりは社員のモチベーションを高めるためのしくみづくりを始めました。そして、膨大な聞き込みと議論を重ね、問題解決のための具体策を練りました。

仕事を変えた「好循環」

▲毎月1回の表彰式はとても盛り上がる。年間MVPには豪華賞品も

ふたりはまず、モチベーションが上がらない要因に着目しました。

笹井 「マイナスの感情はほとんど個人から発生していたことがわかりました。『頑張っていることをわかってくれてない』とか、『問題が起きたときだけ連絡が来て、改善点の指摘しかされない』とか。

たしかに、仕事をするだけであれば『やってください』、『終わりました』でいいはずです。でも、協力してより良いものをつくるためには感情的なつながりって必要ですよね。そこでわれわれは、会社にすでにあった業務用のインフラに新しい機能を追加して、ある試みを始めたんです」

最初はどんな小さなことでもいいので、というところからスタートしました。そのインフラにその日見つけた誰かのすてきな行動を投稿できるようにしたのです。たとえば、「資料の準備、助かりました」、「落ちているごみを拾っている姿を見ました」と投稿すると、ほめられた本人にもその内容が通知されるしくみになっています。

すると、次第に「疲れているときに『どうぞ』と甘いものをもらえて癒されました。ありがとう」といった書き込みなどもされるようになったのです。

笹井 「この投稿を蓄積できるようにし、次は表彰を行うことにしました。まずは金シール、銀シール、銅シールをつくりました。そして毎月テーマに沿って金、銀、銅賞が選ばれ、代表の石田 大八朗から賞状とシールが贈られます。ポイントは、ほめた人もシールが1枚もらえることでした。みんなの中にある気持ちをもっと引き出したかったのです」

その結果、次第に雰囲気が変わるだけでなく、業務がスムーズに動くようになっていきました。たとえば、フィラディスが行っている社内セミナーが変わり始めました。

笹井 「私たち営業部のスタッフはそれぞれ担当のワイン産地を持っていて、その産地に関しては他のスタッフよりも高い知識を有しています。そして定期的にその知識を伝え合う社内セミナーを行っています。資料の準備もプレゼンも大変です。


しかし、セミナーが終わると、受講したスタッフから主宰者へ続々と感謝のメールが届くようになったのです。主宰者が『正直、大変だったけど負担には感じなくなりました』と話していたことが印象的でした。すると仕事以外の部分での人間関係も変わり始めたのです」

あのときほめてくれた人──お互いにそんな感覚があるからプライベートな会話も増え、次第に個々の間に「あの人が困っているみたいだ。何か力になれないかな」などの感情が生まれてきたのです。当然、それはお客様へのサービスにも良い影響を及ぼしました。

山口 「社内セミナーが活発に行われるようになって、営業部全体の知識レベルがぐっと上がりました。お客様により精度が高く、ためになる情報がお届けできるようになったのです。

そして、社内の雰囲気も良くなったので、普段からお互いなんでも質問できるようになりました。さらには、ほめられ、人が好きになって、頑張って、またほめられ、という好循環が生まれ、私自身、私生活でも人のいいところを探す癖がつきました」

縁あって出会ったみんなに伝えたい

▲ワインに真剣に向き合う西崎。入社して10年以上経つが、フィラディスで働くことをあらためて言葉にするのは意外と難しかったと言う

社内の雰囲気を変えつつ、フィラディスはもうひとつの組織改革を行っていました。それは「創業時のフィラディスらしさを伝えていくこと」。この改革は、営業の西崎 隆太が中心となって動きました。

西崎 「2016年のクリスマス前くらいだったでしょうか。年内の営業を終え、年間を通しての疑問や課題を解決していく場を持ったとき、『新たに仲間に加わってくれた人たちに創業の精神が十分伝わっていない』という話が出たのです。

私のように2006年からフィラディスにいる古株は、何も言わなくても『フィラディスはこういう会社』とフィラディスらしさを肌感覚でわかっています。しかし、それを伝えられるものは何も形になっていなかったのです」

今のままではいけない──そう感じた西崎を含む創業メンバーが当時のフィラディスを思い出しつつ、今後も長く伝えていきたいことをホワイトボードに書いていきました。年明け、正式なプロジェクトが発足、代表の石田もプロジェクトメンバーに名を連ね、フィラディスにとって大切な魂は何かブレストを続けました。

西崎 「ワインが大切、それだけなら他の会社と同じです。私たちには、プロフェッショナルとしてのプライド、商品への自信と愛情、仕事や対人関係を通して自分の人生観を確立していくことなど、さまざまな組織文化があります」

これをまとめたものが、私たちの『Firadis Ism』です。

「純粋にワインが大好きで、ワインの魅力を伝えたいという強い想いを持っている」

「仲間を大切にし、お互いが信頼と愛情で強く結びついている」

「自分の人生を能動的に前向きにとらえ、仕事にやりがい、喜び、誇りを持っている」

ワイン、仲間、仕事をキーワードにしたこの3つの文章に、石田がこれらの文章に込めた想いをスタッフへのメッセージとして書き添えました。その中にこのような文言があります。「縁あってフィラディスで出会ったみんなには、互いの個性と能力を認め合い、一人ひとりをフィラディスの主役として尊重し合い、常に仲間を思いやり、支え合い、助け合ってほしいのです。

創業時の想いを次の世代へ

▲『ワイン、仲間、仕事』大切な3つのキーワード

フィラディスの創業メンバーが集結して、想いを込めてまとめ上げた『Firadis Ism』。

Firadis Ismはその後、デザイナーの手によって温かみのあるデザインに仕上げられ、フレームに収められて、1日のうちで最もスタッフが集まる場所であるリラックスルームに控えめに掲げられている。強制やアピールはしない。

なぜなら、Firadis Ismはフィラディスで働くことを通してみんなから自然に芽生えるものであってほしいからだ。これから入社してくれるスタッフが入社数年後に気付いたらFiradis Ismの想いを持って働いていましたと言えるようにワイン、仲間、仕事への向き合い方を先輩たちが見せていくことが大事だと考えています。

西崎 「難しい言葉や押しつけは避け、われわれがフィラディスという会社を通して成長し、社会に貢献するため、大切にしていくべきだと思ったことだけをまとめあげました。われわれは創業世代としてフィラディスに対して強い愛着を持っていますが、いつか世代交代するときが来ます。でもこれからの世代にとっても立ち返る場所としてFiradis Ismがあり、創業当時の想いを大切にしていって欲しいと思っています」

組織は、そこにいる人間を魅力的ですばらしい人材にすることもあれば「やることさえやればいい」という人間にしてしまうこともあります。

そこで今回取り組んだのは、コミュニケーションが不足しがちだった社内環境の改善、また、社員にいわゆるフィラディスらしさを理解してもらうための枠組みづくりでした。

組織の力がより強くなれば、お客様へのサービスにも作用する──私たちに必要だったのはワインの知識や経験だけでなく、組織の進化だったのです。