アカデミアとビジネスを繋げ、データの力で最適な防災支援を創出する

吉永が所属するのは、経営統括部門のデジタル戦略推進部という、2021年度から発足した新規部署。ここは、主にDXやICTという最新のテクノロジーを使った新しいビジネスの創出を目指しています。

吉永はこの部門の中でテクニカルプラットフォームサービスグループに所属し、最新鋭の技術を使った商品企画をスピーディーに実現させるための基盤作りや、AIなどの技術を業務に活かすためのプラットフォームの提供を行っています。

吉永 「当社は元々、公共に強いチャネルを持っています。その中で、お客様から災害に関する一つの課題をいただきました。災害が起きて罹災した際、補助金や保険を適用するためには罹災証明が必要なのですが、それを発行するのに現状はアナログな手法しかなく、人が現地まで赴き、実際に状況を見て記録するしか手段がありません。

そこに対し、富士フイルムなどの持っている技術を使い、罹災証明発行のICT化・DX化ができるのではないかというところで始まったのが当社の防災減災DXプロジェクトです」

吉永が直近で取り組む業務は、災害におけるリスクのシミュレーションづくり。また、その一方で、このプロジェクトにアカデミアや研究所の研究者を巻き込む調整なども行っています。

自らも研究所に勤めていた経歴を持つ吉永は、そこで培った知識を活かし、自社、自治体様や事業者の間に研究所を据えることで、産官学の3者間で連携を目指しているのです。

吉永 「アカデミアとビジネスをつなげるというのは、当社としてはこれまで経験のない取り組みで、新たな可能性に満ちています。研究所では当然、研究を行うことが第一ですが、その成果やデータを社会に実装させるという点においては多くの課題を抱えているのが現状です。

研究で得られた情報をビジネスに応用するにはどうすれば良いか。実際にどんなマネタイズができるか。どのような技術を持っている研究者がいるのか。そして彼らをいかに自治体様の方に紐づけるか。そういうところを私たちが支援させていただくことで、これまでにない実績を作ることにつながっていくと考えています」

お客様と直に触れ合う中で芽生えた想い

このプロジェクトで産官学連携の架け橋となるポジションを担う吉永は、学生時代に長く研究に携わる経験を積んだ後、データを取り扱う仕事へとフィールドを移していきました。

吉永 「私は10年ほどを大学で過ごし、博士課程まで進んだのですが、その後は研究所に残らず派遣会社に入りました。研究者を派遣するタイプの会社で色々幅広い案件があり、AIの要素技術開発やWEB広告のビッグデータ分析など、多岐に渡るデータサイエンス関連の業務経験をさせていただいていました。

ただ3年が経ち、自分自身のキャリアプランを考えた際、スポット的・短期的にプロジェクトやプロダクトに関わるのではなく、立ち上げから上市までに至る一連の事業活動全体へ長期的に貢献する経験を積みたいと感じるようになりました。その中で、自分のスキルを活かしつつ、裁量権がある立場を目指したいと考え、転職活動をはじめたのです」

転職先としてこの仕事を選んだのは、元々吉永が公共性の高い仕事がしたいと考えていたことに起因しています。

その後、吉永は富士フイルムシステムサービスに入社しました。最初に配属されたのは戸籍総合システムの販売をする公共向けの事業部。そこで吉永は、公共事業におけるAIを使った新しいサービスの企画検討業務をしていました。

吉永 「富士フイルムシステムサービスは、これまで自治体職員様に代わって窓口業務を行うアウトソーシングサービスを行ってきました。そのため、自治体様が戸籍業務を処理する際、例えば『この婚姻届は受理して良いか』などの判断が難しいことがあった際に、どう解決すべきかノウハウを提供する機会があったのです。

こうしたやりとりの中で蓄積されたデータがあるため、それらを活用して業務処理に必要となる判断根拠を素早く簡単に検索できるシステムを構築できないかというアイデアがありました。

そうすれば、複雑で高い専門性に基づいた判断を求められる戸籍業務という領域において、業務経験の違い問わず職員の方々が戸籍業務を遂行できるようになるからです。その課題に対し、AIを使って解決するべく研究・開発を主導していました」

研究・開発を主導する中で、吉永は求めていたやりがいを得ることになります。

吉永 「戸籍に関するAIシステムの試作品を作り、それを実際の現場で使っていただいてフィードバックを得ていたのですが、お客様と二人三脚で取り組んでいる感覚がありました。現場の方々も良くしてくださいましたし、取り組みに対して理解をした上で一緒に進められたことが印象的でした。自分でものを作って、使っている人の顔を見ながら作業できたことが嬉しかったですね」

こうした業務や経験を経て現在のプロジェクトに参加する中で、吉永は公共領域の仕事の意義や課題について日々想いを深めていくことになります。

吉永 「お客様と直に触れ合う中で感じるのは、防災に限らず公共の仕事は思っている以上にアナログな現場だということです。多くの業務を、アナログな手段によって、少ないリソースの中で何とか回している状況です。だからこそ事業者して何とか手助けできないかと、常日頃思っています。

また防災に関して言えば、東京に住むひとりの住民としても、もしもの時のことを考えながら課題感を持っています。その解決に関われるのであればぜひやってみたいと思い、プロジェクトに参画いたしました」

必要な支援を、必要な人に素早く届けたい

現在は、データサイエンティストとして防災と向き合う日々を送る吉永。

防災は、災害が起きる前と発災後で、取り組み方や対策がまるで異なるといいます。

吉永 「罹災証明の発行業務は、災害が起きた後、被災した方々が普段の生活に戻るまでのスピードに直接的に影響してくる業務だと考えています。一方で私が取り組んでいるのは、震災があった際にどれくらい建物が倒れるか、どの道路が閉鎖するリスクがあるかというシミュレーションを活用した、災害に備えた効果的な準備作りを支援することです。

具体的には、シミュレーションを通じた定量的な現状の評価を行い、災害が起こる前にどう計画を立てておくべきか、どうすれば被害を抑えて避難することができるかを考えるためのものです。災害の前と後では、必要な情報も取り組む業務も異なります」

シミュレーションを行うためにはさまざまなデータが必要です。道路に関するデータは整備されていることが多いですが、シミュレーションに活用できるような建物の構造に関するデータは自治体様でも整備が進んでいないところが多く、データを収集する点で課題に直面することが少なくありません。

木造か鉄筋か、燃えやすい素材か燃えにくい素材かで条件が変わることや、構造情報の詳細を得にくいことも。さらにはデータがあっても使えない状態ということも多いと言います。

吉永 「データとして建物の台帳はあっても、載っている情報が少ないために、正確なシミュレーションを行うことが難しいこともあります。また、条例や個人情報の関係で、データがあっても利用できないというケースも少なくありません。データの収集と取り扱いに関するハードルは常に高く、クリアしなければいけない課題は多々あります」

災害が発生する前のシミュレーションを通じて、発災後の被害を抑えたい──そう願うものの、被害をゼロにすることは困難です。それであれば、発災後いかに迅速に復旧できるか、そのために何ができるかを追求すると、罹災証明の発行を可能な限りスピーディーに行うことの重要度が増していきます。

吉永 「災害発生から一年経ってもビニールシートで覆われている家屋があったり、支援金を受け取ることができない方がいたり、その他の災害の処理が追いついていなかったり……。さまざまなケースが存在します。

そういった課題を少しでもテクノロジーの力を使って解決し、災害情報の電子化や関連データを蓄える仕組みを作ることができたら、防災や復興の現場はより良い方向へ発展していきます。私自身が、この事業に対して大きな使命感を持って取り組んでいます」

既知のデータと未知の可能性が生み出す、明るい未来

データサイエンティストとして、吉永は富士フイルムシステムサービスにはデータ分析やデータサイエンスを活用したビジネス価値の創出に必要な要件が揃っていると語ります。

また、さらにデータを分析し、その結果をレポートとして出して終わるのではなく、実際の現場における実験を通じて、解決を目指す課題に対して狙った効果が出ているか、解決策の仮説は正しかったのかと言った点を検証することができることに何よりの手応えを感じています。

実際にお客様と直接接する機会のある営業やカスタマーサポートといったメンバーが、お客様の課題解決に必要な知見や気付きをデータから読み解く方法を身につけることで、さらにお客様のニーズに沿った提案設計ができるだろうと吉永は考えています。

吉永 「お客様の困り事をお客様の近くで一番理解することができる現場のチームが、データを読み解き知見を得るスキルを持つことができれば、お客様にとって本当に価値のある最適な提案をエビデンス(根拠)に基づいて行えるようになると考えています。そういった思いで昨年からデータ分析やデータ可視化のための専門知識に関する勉強会を実施しています。

とは言え、日々の業務を行いつつ、専門知識を一通り身につけていくのは大変なことだと思います。なので、ある程度のITリテラシーや知識があれば利用できるようなオフィスツールやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを活用しながら、参加してくれたメンバーがすぐに現場で取り組める段階を目指したいと考えています」

打ち合わせに同席する中で、お客様の課題と技術のマッチングが上手くいかず、もどかしさを感じたこともある吉永。現場で最適な打ち手を描けるようになれば、社内の技術とデータのマッチングが最適化され、プロジェクトの実現に必要な工程やコストの管理も進めやすくなります。

それは、結果的にお客様の満足度向上につながっていくのです。

吉永 「まだ取り組んだことのない分野を研究し、実際にサービスとして市場展開するまでの過程を計画して作り上げていくことは私にとって新しいチャレンジです。災害対策における防災フェーズ・発災フェーズ・復興フェーズの各場面に必要な課題を解決するため、研究者の方々と連携しながら社会課題の解決に寄与できるサービスを作っていくのが理想です」

日本の災害の現場に必要な支援の形を追求し続ける──既知のデータと未知の可能性をかけ合わせ、防災と向き合う吉永の挑戦は続きます。