既存事業の収益力に甘んじず、未開拓領域の事業創出へチャレンジ

▲経営統括本部 デジタル戦略推進部 部長 竹中 稔

1992年に富士フイルムシステムサービスに入社して以来、システムの開発から新規事業の開拓、M&Aまでさまざまな領域の事業を担当してきた竹中。

2021年現在は、経営統括本部に所属し、自ら立ち上げた新規事業開発部門である「デジタル戦略推進部」をリードしています。

竹中「当社では民間と公共、それぞれの事業部でビジネスに取り組んでいますが、当社が求められたのは新事業分野の開拓。これまでリーチしてこなかった分野を開拓するために、新規事業アクセラレーションプログラムやスタートアップとのコラボレーション企画、さらにはM&Aを駆使した取り組みが2年ほど前から始まっています」

デジタル戦略推進部のミッションは、同社の既存事業である民間・公共の2つの事業部の垣根を越え、全く新しい事業戦略を作ること。

その背景には、世の中の目まぐるしい変化があります。

竹中「日本では本年(2021年)5月に成立した『デジタル関連法』によりこれからの5年間で社会と行政のDX化が加速すると予想されます。行政関連システムにおいてかつてない大変化が起きるとともに、それに伴う社会システムを中心とした民間のビジネスにも大きな変化が起こるはずです。

そこで、公共の事業領域や民間特定領域でお客様に深く浸透するビジネスをしてきた当社の強みを活かし、新しい船を出す取り組みに乗り出しました」

このような社会変化のチャンスを逃さず、会社の将来に関わる事業を作っていくのがデジタル戦略推進部に託されたミッション。

竹中は、文字通り新しい事業領域を開拓するため、それまでの既存事業の延長線では考えられない、思い切った方向に舵を切りました。

竹中「従来は、新規事業といっても既存の事業と地続きのビジネスを開拓する閉じたものでしたが、パートナーと組むことによって飛び地に新しい事業を展開することが可能になりました。商品を開発するという発想ではなく、事業そのものを開発するために、マーケティング部門、システム・商品開発の部門の他に、M&Aを行うグループも統合し、3つの機能を一体的に活用することで、大きな変化が生まれています」

「防災の生態系」を作るため、あらゆる領域パートナーの知見を組み合わせる

そんなデジタル戦略推進部が、次なる事業の柱として注力しているのは「防災・減災DXプロジェクト」です。

このプロジェクトのきっかけとなったのは、とある自治体さまからの声でした。

竹中「都内の自治体さまから、罹災証明の発行に関する問題について相談を受けました。被災者への支援を行うには、被災状況を把握・判断して発行する罹災証明が必要なのですが、現状では災害が起こった際、受けるべき支援を受けるべき人たちに早急に用意できないという課題があるのです。

被災状況を把握するための手段は、人力に頼ることがほぼ全てというのが実情で、多くの業務プロセスがシステム化されていないために発行までに相当な時間を要します。例えば首都直下型地震などがあった場合、発行には年単位の時間がかかってしまうと言われています」

この声をきっかけに、竹中は新しいシステムの構想を始めます。

従来のような計測データに頼らず、画像から被災状況を判定するシステムを作り、有事の調査ツールとして自治体さまに提供できないかと考えたのです。

竹中「かねてから自治体さまとの深い連携がある富士フイルムシステムサービスでは、自治体さまの業務や課題に精通している強みがあります。例えば、自治体さまのアウトソーシング業務として市民課の窓口を支援する事業では、全国の約30ほどの自治体さまにおよそ700人ほどの人員を派遣しています。一方で、富士フイルムグループは医療分野などで画像AI解析技術を持っています。この2つの技術・ノウハウの組み合わせによる問題解決は自治体さまからも大きな期待をいただきました。

加えて、この頃当社はGIS(地理情報システム)の企業との協業も視野に入れていた時期でもありました。これら、3つの強みを活かすことで、自治体さまが災害時に効率的な支援が行えるシステムが作れないか──。

こうして、防災・減災DXプロジェクトが始まりました」

それぞれのプレーヤーが個々の事業を展開するよりも、相互に協業することで広域のフィールドに事業の可能性を見出した竹中。

竹中「富士フイルムグループが持つ画像AI技術、自治体さまとのダイレクトチャネルに加えて、こうした分野でのパートナーシップを戦略的に使いながら、防災をテーマにした生態系を作るような取り組みは、富士フイルムグループの中でも私たちの部門だけが実践している新しい挑戦です。

直近では、SNSを情報ソースとして事業に取り込みたいと考えています。メディアパートナーと資本提携を進め、自分の市区町村やユーザー企業の近隣で何が起きているのかをたちどころに把握できる。早期の実現を目指し、今年度中にはシステム実装を進めたいと思っています。

また、前述の罹災証明の発行の迅速化のためのシステムも今年内には実現したいと考えています」

実証実験で得られた自信。有事だけでなく平時のビジネスチャンスも開拓

有事にきちんと役立つシステムを開発するためには、実証実験が不可欠です。

昨年度、都内の自治体さまと1年間に渡る実証実験を行うことで、竹中は自社の画像技術が被災状況の判定に役立つという確かな結果を得ました。

この結果は今後この事業がさらに発展する自信につながったといいます。

竹中「ドローンで撮影した家屋などの画像から、AIが全壊、半壊などの被災状況を正しく判定できるかどうかという実験をしました。

一次判定での全壊判定は、良好な結果が得られました。まず全壊を判定できてしまえば、半壊判定をするべき対象件数は絞られるので大幅に工数を削減できます。二次判定では、空からの撮影だけではなく、実際にその現場に行って判定をする必要があるため、調査員によるタブレットを用いた実証実験も実施し実現可能性についての確信を持ちました。」

こうした理想的な防災システムの構築で見落とされがちな課題として、平時のシステム活用にも着目した竹中は、日常業務でのタブレット型システムの活用を構想し、平時・有事にスムーズに切替え可能な活用法にも力を注いでいます。

竹中「有事の際に新しいシステムを正しく利用するためには、平時から使うことに慣れていなければなりません。いざという時、直感的に迅速に利用できるために、日頃からタブレットを多様な調査業務に活用いただけるよう考えています。

また、災害対応は平時から準備していて初めて効果が発揮できるため、日頃からデータを整えておくということがとても重要になってきます」

本気で社会課題に向き合う姿勢が、オープンイノベーションを成功に導く

防災に取り組む上で欠かせない視点として、被災者の再建支援や生活再建支援といった一連の流れを挙げ、新たなビジネスソリューションの創造にも目を向ける竹中。

災害が起きてしまった後のコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)も視野に入れ、サプライチェーンが切れる、工場が稼働しなくなるなどのリスクをどのように回避させるべきか、日常から回避策を設計していくBCPも事業領域に取り込んでいきたいと意欲を見せます。

こうして開発を進めるシステムを、自社だけの独占にしたくないと考える竹中の姿勢から、社会課題の解決に心から向き合っていることが伺えます。

竹中「その社会課題がなぜ起きているのか、それを明確に捉えているからこそ、その解決方法として行政だけではなくて民間であったり、あるいは地域のアカデミーとの連携だったり、使える手は全部使って解決していこうと考えることができるのだと思います。

県や国に対して近いところでコミュニケーションができる私たちの強みを活かして、地方で起きている課題をリアルに国に伝えていくことも、問題解決のために必要な活動です。

当社のシステムフォーマットを取り入れ、他社のベンダーさんがタブレットを提供できるようになれば、より迅速に広くシステムが社会に届けられるようになります。行政にとっても負担を飛躍的に下げることにつながるため、その実現のために国への提案を進めたいと考えています」

より汎用性の高い仕組みの構築を目指すために、単なる製品づくりではなく、課題を解決するためのありとあらゆる手段を組み合わせていこうというのが、防災・減災DXプロジェクトの責任者としての竹中の意思。

このプロジェクトで竹中は、防災という大きな事業領域でのチャレンジを始めたばかりですが、デジタル戦略推進部としては、一つのテーマに留まることなく、他の領域でも新たな事業推進を展開することをミッションとして掲げています。

新たな社会のインフラを生み出す同社の大きなチャレンジへの第一歩──。

竹中たちを乗せた船の航海はまだまだ始まったばかりです。