ボッシュが抱える認知度の課題

▲マーケティング・コミュニケーションGr. セクション・マネージャーの小西高弘(右)とコーポレート・コミュニケーション部 マーケティング・コミュニケーションGr. 小出真美(左)

ドイツに本拠地を置くボッシュは、1886年の設立以来、量産型ABS(アンチロック ブレーキ システム)をはじめ、ESC(横滑り防止装置)など、高い技術力で数々の「世界初」となる発明を生み出してきました。

そして現在は自動車だけではなく、産業機器テクノロジー、消費財、エネルギー・ビルディングテクノロジー、農業など幅広い分野のソリューションを世界に送り出しています。

また、モノのインターネット化(IoT)が進み、ボッシュは、IoTがもたらす大きなチャンスを早い段階から認識し、これまで10年近くもの間、IoTを積極的に導入してきました。

技術力をベースに未来を見据えた挑戦を続けてきたことで、2020年アメリカのレピュテーション・インスティテュート(RI)が発表した、「世界でもっとも高評価の企業ランキング」では9位にランクイン(*1)するなど、グローバルにおけるボッシュは、高いブランド力を誇っています。

一方で、日本国内におけるボッシュブランドの認知には課題があります。マーケティング・コミュニケーションGr. セクション・マネージャーの小西高弘はその要因を次のように捉えています。

小西 「ドイツ本国で数年前に実施した調査によると、各国におけるボッシュの知名度を比較すると日本が突出して低いという結果がでました。日本では主にドイツメーカーの車が好きな方やDIY好きの方とは接点があるものの、一般消費者の皆さんとの接点の少なさが原因のひとつだと考えています。

日本ではボッシュという社名自体を知らない、たとえ社名を知っていてもボッシュの社風や企業文化まで認識していない方が、まだまだたくさんいらっしゃるという現状です」

車離れ、バイク離れが進む中で、とくに若年層においてその傾向は顕著です。不確実性が高まっているビジネス環境の中で、いかにボッシュが日本市場においても存在感を発揮し、いかに選ばれ、成長を続ける企業になるか──。

コーポレート・コミュニケーション部 マーケティング・コミュニケーションGr. 小出真美は、チームで重視しているポイントがあると言います。

小出 「VUCAの時代と言われて久しいですが、そんな時代だからこそ、新しいチャレンジが求められると考えています。ボッシュは、これまで長い年月をかけて築いてきた技術力をソフトウェアやIoT、AIといった先端テクノロジーの分野に広げています。

テクノロジーのリーディングカンパニーとして社会課題を解決していこうとしていることを、とくに若い世代、これからのボッシュを担う若手人材に伝えていきたいと考えています」

(*1)参考:Global RepTrak - 2020's Most Reputable Companies Worldwide

ヤングタレントにまず伝えるべきは、ボッシュの技術力の源泉となる企業文化

▲ 日頃から社員の一人ひとりがボッシュをリードしていくリーダーであるために心がけている行動指針「We LEAD Bosch」

ボッシュでは、ブランドコミュニケーションにおけるターゲットを6つに分け、全世界共通で定義しています。顧客、ジャーナリスト、インフルエンサー、政治家やNGO、従業員、そしてヤングタレントです。

ヤングタレントとは、最新のビジネスやテクノロジーに対する感度が高い、今後ボッシュで一緒に働く可能性のある若手人材を定義しています。日本において、このヤングタレントに対するブランドイメージの向上は、今後のビジネスの発展をするべく、経営指標のひとつとしても採用されているほど重視されています。

小西 「日本では法人向けの事業が主力のため、外部に対するコミュニケーションは顧客に向けた情報発信が多かったんです。たとえばプレスリリースや年次記者会見など、企業広報的な側面や、マーケティングにおいても技術力の高さをストレートに伝えていくような、硬めの情報発信が多い傾向にありました。

そこであらためて、私たちマーケティング・コミュニケーションGrでは、ヤングタレントに対して最適なコミュニケーション、メッセージとはなんなのか、考えなおすことにしました」

ヤングタレントに響くコミュニケーションの確立に向け、まず取り組んだのは人事と連動し、ボッシュの若手社員を集めたフォーカスグループインタビューでした。入社に至るまでの経緯や入社後に感じたボッシュの魅力、改善すべき点など、さまざまなテーマでインタビューを行いました。

そこで見えてきたのは、「従業員を大事にする」「ワークライフバランスを重視している」「誰でもチャレンジできるオープンでフラットな環境」という、ボッシュの歴史や技術力の源泉となるような企業文化。それを端的に示しているのが「We LEAD Bosch」です。これは日頃から社員の一人ひとりがボッシュをリードしていくリーダーであるために心がけている行動指針です。

こうした考えに基づき、若手からベテランまでがさまざまな局面でリーダーシップを発揮することを、全社一丸となって推進している企業であることを、まず伝えていく必要がありました。

小西 「多くのヤングタレントにボッシュを知ってもらうためには、どんな事業をしているかだけでなく、どんな想いや考えを大事に事業に取り組んでいるのか、まずはボッシュのカルチャーを伝えることが先決だと再認識しました。

そして企画したのが、ボッシュの魅力を7つにまとめて、リアルな社員の声を掲載したブランドサイト『ボッシュを知らないなんて、もったいない』でした」

ブランドサイトをオープンした翌年には、ボッシュの持つ「WOW!なテクノロジー」を伝えるブランドムービーを作成するなど、日本のヤングタレントのインサイトを意識し、表現の幅を広げていきます。

ところが、ボッシュブランドを維持しながら、日本オリジナルのコミュニケーションで表現することは簡単なことではありませんでした。まずはドイツと日本のコミュニケーションチームでの互いの良さや違いを知ることから始め、共に日本でのコミュニケーション戦略を組み立てていきました。

ボッシュらしさの追求。コア技術のヒーロー「ボッシュラーズ」が生まれた訳

▲ 若手人材へのコミュニケーションとして2019年にリリースされた「ボッシュラーズ」

その後、さらにヤングタレントに対するブランドイメージを強化していくため、事業部、間接部門、内定者、パートナー企業、ボッシュカーサービスのある店舗の店長など、社外にも対象を広げ、17回にも及ぶフォーカスグループインタビューを実施し、ボッシュに対するさまざまな意見を拾い集めました。

そこで多く集まったのが、ボッシュの技術力に対する評価でした。ドイツ本社の開発力の高さだけでなく、日本における長い歴史の中で培ってきたパートナーとの共創力も含め、数々のイノベーションを起こしてきた技術力がボッシュの強みであるという声。

小西 「その声をベースにわれわれはある新しいアイディアを構築しました。本来、ドイツ本国ではわかりやすいストレートな表現、製品をベースとした表現が好まれる傾向にあります。しかし、日本のヤングタレントにとってはその表現がベストではないと思いました。

ボッシュのWOW!な技術を伝えるために、日本においては、少しコミカルな親しみやすさを感じやすい演出を施したブランドムービーでチャレンジしたいと、ドイツチームに提案しました。これまでのドイツ流の表現手法とは異なるものでしたから、すぐには理解してもらうのは難しかったです」

日本文化の象徴ともいえるアニメや同業他社の企業広告の実例を見せるなど「日本らしいボッシュの表現」についてドイツ本国とディスカッションを重ねました。ボッシュがドイツで築き上げてきたブランドに日本らしい表現をのせていく作業が必要でした。

小西 「ボッシュには新しいものを歓迎して、変化をチャンスと捉える文化が根づいています。多少時間はかかっても、お互いのことを知るためにフラットでオープンなコミュニケーションを続けていけば必ず理解して、しっかりサポートしてくれる。あらゆる局面でダイバーシティを実践しているのもボッシュの特徴です。

それ以降の日本の施策に対しては『それが日本文化の特徴だからね(笑)』と言ってくれるようになりました」

そんな社内外の声を結集し、生まれたのがボッシュの製品・技術を擬人化し、敵(社会課題)に立ち向かう正義のヒーロー『ボッシュラーズ』です。

小出 「SNSでの拡散を目指してユニークなブランドムービーを制作する企業はたくさんあると思います。ただわれわれとしては、話題性を生み出して、ボッシュという名前を覚えてもらうことが最終目標ではありません。

あくまでヤングタレントに対してボッシュの魅力、技術力を伝えていくことが重要なんです。それを実現するために、ボッシュの事業の軸となる自動運転技術、eBike Systems、電動工具をモチーフにしたヒーローが邪悪な敵に立ち向かうという、ストーリー性をもたせた表現が新しいチャレンジでした」

ボッシュラーズのムービー公開後、理系学生を中心にしたヤングタレントを対象にしたアンケートでは、毎年の施策の繰り返しの成果があり、着実にボッシュの認知度が定量的に底上げされてきているという結果が出ています。

小西 「グローバル企業として、本国と連携しながらブランディング施策を進めていくには、文化を理解してもらうことだけではなく、効果の指標を示すことも重要です。効果が出ていることを見える化された結果として残せているからこそ、次のチャレンジにつなげることができるのです」

10年先、100年先も成長し続けるために。これからも表現し続ける

▲ 2020年、3人の戦士からなる「ボッシュラーズ」が史上最大の敵と戦い、未来を切り開いていくストーリーが展開される

少しづつ、変化の兆しが見え始めている状況ではありますが、まだまだ取り組むべきことはたくさんあると小西は考えています。

小西 「これまでは、ヤングタレントにフォーカスしていたので、おのずとコミュニケーションの手法もデジタルが中心になっていました。ターゲットを鋭く絞ることが可能なので、その面で一定の効果につながったと考えています。一方でヤングタレント以外に対するアプローチが手薄になってしまっていたのも事実です」

そんな課題意識を感じている中、ボッシュラーズのムービーを首都圏の電車内のデジタルサイネージで放映した際、思いもよらぬ反響を得ることになります。

小西 「路線沿線の大学生をターゲットに展開した施策ではあったのですが、取引先や社内のメンバー、社長からも『ムービーを見たよ』と反応をもらいました。定量的な効果は見えていましたが、どうしても実感として変化を感じることは少なかったので、このような反響は自分たちにとっても嬉しい効果でした」

小出 「ヤングタレントに対して、ブランドイメージを伝えていくには、人事やわれわれコミュニケーションを担当する部署の力だけでは難しいと思っています。どんなに魅力的な技術や環境があると伝えたところで、実際それをボッシュのカルチャーとしてつくり上げるのはすべてのメンバーです。

そういった意味でも、社外だけでなく、社内のメンバーにもこういった取り組みを目にしてもらうことは大切なことだなと感じました」

ヤングタレントを軸に社内外のステークホルダーに対して、ボッシュの企業文化や技術力をさまざまな表現手法で伝えていくことが、マーケティング・コミュニケーションGrのミッションであり、その取り組みが日本におけるボッシュの未来を形づくるのです

小西 「ボッシュの主力事業である自動車業界は、業界再編が急速に進んでいる状況です。あらゆる分野でIT化が進み、目まぐるしいスピードでテクノロジーが進化し、変化への対応が求められているこの状況はチャンスであるとわれわれは捉えています。

これまで積み重ねてきた130年の歴史は尊いものですが、これからの10年、100年、企業として飛躍するための土台づくりを私たちコミュニケーションチームは担っていると考えています」

小出 「これまでボッシュが培ってきた技術を自動車だけでなく、モビリティという領域さえも超えて、幅広く他の分野に転用する。そうすることでさまざまなソリューションを広く提供して、テクノロジーで社会課題を解決するリーダーになっていく、その姿勢を見せていきたいと考えています」

3人の戦士からなるボッシュラーズが史上最大の敵と戦い、未来を切り開くこのストーリーには、テクノロジーで社会課題を解決し、人々の生活を守りたいというボッシュの想いが込められています。

その想いに共鳴し、ボッシュの未来を共に描くため、ひとりでも多くのヤングタレントとの出会いを心待ちにしています。