「とがった基礎技術」の確立。アジア航測が目指す未来

アジア航測株式会社(以下、アジア航測)の先端技術研究所副所長を務める新名 恭仁。

アジア航測の先端技術研究所には研究室が6つあり、次に活かせる基礎技術を確立する役割をはたしています。基礎技術のひとつとして挙げられる「センシング技術」とは、センサーなどを活用して情報を計測し数値化する技術で、アジア航測の根幹となるもの。

新名は、このセンシング技術と深い関係のあるAI研究室と計測技術研究室の室長も兼務しています。

新名  「センシング技術を使うと、例えば航空写真から地図を作ったり、レーザ計測で地形データを作ったりすることができます。最近は、このような技術を応用して、現実世界をコンピュータ上に再現する『デジタルツイン』と呼ばれる三次元データを作成する研究をしています。より詳しい地図の三次元都市データがあれば、様々なサービスの実現が可能です」

新名は、センシング技術にAIやクラウド、IoTなどの技術を組み合わせることでイノベーションを起こす取り組みをしています。

新名「このセンシング・イノベーションにより作り上げたデジタルツインが、例えば5~10cmの精度でマンションのベランダまで再現できていれば、ドローンがベランダに荷物を配達することも可能になります。

精密な三次元都市空間のうえに、人や車、ものの流れをほぼリアルタイムに重ねることができれば、渋滞や混雑を避けるオペレーションも可能になる。つまり、都市の最適化を図ることができるんです」

センシング・イノベーションは、平時だけでなく災害時にもその力を発揮します。また、AR(拡張現実技術)と組み合わせることにより、可能性も広がっていくのです。

新名 「センシング・イノベーションは、災害時に命を守る取り組みにも役立ちます。精密な三次元データだからこそ、浸水や地震のハザードマップ作成や避難のシミュレーションをより正確に行うことができる。そして、情報を速やかに該当者のスマートフォンに流す、ということも可能になるんです。

この三次元都市データにARとWi-Fiなどの通信を組み合わせれば、たとえばビルにスマホをかざすと、ビル内部の店舗の混み具合や待ち時間、その人の好みに合った特売品の情報まで見えるといったこともできます。実際にそんなサービスも出てきているようですよ」

アジア航測の強みのひとつは、三次元の地球上の座標(緯度・経度・標高)すべてが入った点群データの解析技術。一つひとつの点群データを分類したり可視化したりする技術により、付加価値の高いデータを日々作り出しています。

新名が所属する先端技術研究所では、精緻な三次元データに情報を重ね、融合させることで、新しい価値を作り出すための技術開発を行なっています。

大切なのは、小さなゴールと小さな勝利を積み重ねること

多くの人々がスマホを活用し、ドローンを手にすることができる現代社会では、デジタル機器を使えば、データ自体は誰でも収集することができます。しかし、社会に活かせる形にするためには、そこに付加価値を与える解析と提案が欠かせません。

アジア航測が持つ技術を活かすことができれば、持続可能な社会にも繋がっていくのだと新名は語ります。たとえば、企業が抱える課題の解決においても、センシング・イノベーション技術を活用することができます。

新名 「生活をする上で、インフラやライフラインを守る企業の存在は欠かせません。当社は鉄道、電力などの事業者様とのお付き合いが多いのですが、そうした業界では、将来の人手不足や技術者不足に悩んでいるケースがあります。そこで私たちが持つ、センシング・イノベーション技術を活かしてどう貢献していけるかという点が、今後ますます重要になると思います」

活用の一例として、デジタルツインにARを組み合わせることが挙げられます。ARによって注意すべきことが可視化され、施設の点検や修理などを行えるようになれば、経験が浅い職員でも一定の品質が担保でき、より速やかに技術を身につけられると新名は考えています。

新名 「センシング・イノベーションによって『持続可能な社会』を実現すると言うと、一見壮大なミッションに聞こえるかもしれませんが、大切なのは『小さなゴール、小さな勝利を積み重ねる』ことなのです。

大きなミッションだからこそ、ゴールをイメージし続けることによってモチベーションを高く保ち、現場からフィードバックをもらいながら小さな勝利を着実に積み重ねる。いくつもの壁を乗り越えていき、結果的に壮大なミッションをやり遂げる、というやり方で研究を行なっています。まずはやってみないと始まりませんから」

新名がモットーとするスモールステップの考えは、実際に顧客のもとで技術開発を行う中で生まれた価値観です。

新名 「アジア航測に入社してから約10年間は、研究室の中で仕事をしてきたんです。2014年に鉄道会社に出向したことをきっかけに、私自身の考えが変化しました」

仕事を受注する側から一転、仕事を発注する側に出向することになった新名。
企業の課題と、技術で解決できることを照らし合わせながら、発注側の立場としてアジア航測とゴールへ向かって邁進していった経験が、今の価値観につながる大きな学びとなりました。

新名「この技術を使えばピンポイントで解決できる、こんな簡単に課題が解決することはありません。『まずやってみよう』ということで試験してみて課題を抽出し、そこを『この方法ならできる』『この進め方ならできる』とお互いに歩み寄り、知恵を出し合いながら業務にあたりました。小さなゴールを設定して、小さな勝利を積み重ねたことは、私にとって貴重な経験でした」

スモールステップであっても、まずは一歩でも動いてみることが大切。
小さな勝利を積み重ねることを徹底し、継続しているのです。

アメリカで学んだ「デジタルトランスフォーメーション」の可能性

最近の技術開発の傾向として、クラウドやAI、ビックデータ解析、5G、IoTなどが汎用化されてきていることが挙げられます。すべて自社で開発するという時代は過去のものとなりつつあります。

では、汎用化されている技術をどう組み合わせて、何を加えるのか。その答えを導き出すために、アジア航測独自の技術を使ってどのようにセンシング・イノベーションを実現するか、という点が非常に重要です。

新名 「これからの時代は、変化しないと生き残れないと思っています。ここ数年で、大学との連携や、スポーツ関連・一般向けサービスを目指した当社初のベンチャー企業の創出など、当社においてもベンチャー的な機運が高まりつつあります」

新名は、より広い視点を持って柔軟な考え方でイノベーションを起こすことを期待して、アジア航測の社員に対して多彩な経験をする機会を持つべきだといいます。

新名 「2017年に2カ月間アメリカに行き、DX(デジタルトランスフォーメーション)を学ぶ機会がありました。アメリカの西海岸で大学教授が実施している研修プログラムで、いくつかの企業をまわって実際に話を聞きながら学ぶことができました。

そこで、単に開発して特許をとってお金を稼ぐことにとどまらず、いろいろな情報を組み合わせて別の価値を作る『マッシュアップ』というやり方に魅力を感じたんです」

アメリカで印象的だったのが、いい意味で「適当」だったことだと当時を振り返ります。

新名「日本の企業は、最初からできるだけバグが少ないシステムを作ろうとする。いわば完璧主義なところがあります。しかし、アメリカではまず必要なところだけ作り込んで、あとは適宜アップデートしていく、といういい意味での『ゆるさ』があるんです。

接客シーンでも同様で、たとえばアメリカのコンビニでは、ドリンクやホットドッグなどすべてセルフで丁寧な接客サービスはないんですが、店員さんとお客さんが実にフレンドリーに交流しています。エレベーターもずっと故障中とか(笑)。

過剰なサービスよりも、店舗にとって本当に必要な『売る』『買う』を満たせば『あとは自由に交流していい』というところに、日本の完璧主義にはない可能性のようなものを感じましたね」

もちろん、受注した業務を納める際には、不備のないよう最善を尽くすという新名。一方で、新しいものを生み出す際には、もう少し自由度の高いやり方が必要だと感じています。

新名  「新しいことを始める際には、まずはできるところから始めて実際に作ってみて、全部オープンにした上で議論を重ねて完成させていく。アメリカで見たベンチャー企業のやり方は、とにかく動くものを最初に作って、みんなに見せて議論しながら進めていくという形でした。私自身、そういった手法がとても魅力的だと感じています」

新名は、技術開発には失敗はつきものだが、多くのチャレンジこそがDXの実現に結びつくと考えているのです。

持続可能な社会を実現するために。アンテナを広げ、チャンスをつかみとる

アジア航測が、センシング・イノベーションによって持続可能な社会を実現することに寄与できたら、社会はどのように変わっていくのでしょうか。

新名  「私にはまだ小さな子どもがいます。今後この子が50年、80年楽しく生きていけるような社会を目指して、貢献できるような技術を開発したいという強い思いが個人的にあるんです。

たとえば、センシング・イノベーションによってバリアフリーで完全なナビゲーションシステムを作ることができれば、少子高齢化の課題の一部を解決できるのではないかと考えています」

技術開発によって目先の便利さだけではなく、国の未来を明るく照らすことができる。何か少しでも貢献できることがあればいいと、新名は語ります。

新名「子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで楽しく生きられるような世界に、私たちの技術が少しでも役立てられるといいなと思います。私1人で何かを解決する──そんな大それたことは思いませんが、少しでも未来に貢献できたらうれしいですね」

このような大きな目標を実現するためには、アジア航測の社員それぞれがモチベーションを高く維持し続けることが必要です。開発した技術が社会の役に立ち、人々に喜んでもらえるイメージが持てる体制を整えることも、社員のエネルギーを生み出すためには重要なのです。

新名 「ずっと研究部門にいると、外部の反応を直接見る・感じる機会が少ないんです。ですから、できるだけ外の世界、技術が活かされている現場に接しながら思考していきたいです」

新名は外の世界、日本以外の国の様子を知ることが、モチベーションを保つ意味でもチャレンジという側面でもプラスに働くと考えています。 

新名 「他社への出向や海外出張に参加する機会があったら、積極的に手を挙げてチャンスをものにできるよう、アンテナを広げておくことはとても大切だと思います。会社に在籍しながら外の世界を経験できる上、その経験を会社に還元できるので、会社と社員お互いにとってプラスになりますよね」

チャンスはいつでも提供されるわけではありません。アンテナを外に広げ、めぐってきた機会を逃さないことが次の一歩へとつながります。

新名「当時、会社から『アメリカに行ってみる?』と聞かれたので即座に『行きます』と答えました。その日に嫁さんに「2カ月行ってくるわ」と言ってドン引きされました(笑)」

まったく違う世界を経験して刺激を受けてくることは、その後の仕事、そして人生のあり方を大きく変えるきっかけになることもあります。

新名「会社からもし何かチャンスを与えられたら、全力で取りに行くことをおすすめします」

自分から手を挙げてチャンスを取りに行く、そんな積極的な姿勢が研究でも活かされると語る新名。技術で持続可能な社会を実現するという目標を持ち、小さな勝利を積み重ねながら、未来に向かって前進し続けています。